第十一話『牙』
申し訳ありません、随分と更新が遅れてしまいました…。
私事とバイトが恐ろしい程につまっていて、年末年始もほとんど身動きが出来ない状態でした。もし、こんなダメ作者の書く作品を待っていただいて方がいらっしゃるなら本当に申し訳ないことをしてしまいました。
計画はもっと余裕を持って立てるべきですね…。
目の前で二人の男が睨みあう。僕は展開の早さに目が回りそうになる。僕はふらつく足を叱咤しながら立ち上がった。
「あの、これがこいつらが奪おうとしてた物です!下にまだ数人残ってます」
僕はさっき乱入してきた男に地下にいるテロリストの事を伝える。一刻も早くあの助けてくれた二人組の下に救援を呼んだ方がいい。僕はそう判断して叫んだ。
僕はアタッシュケースを抱えながら一気に階段を駆け上がる。後ろから手が迫る気配がしたけど、目の前のライダースーツの男がテロリストに飛び掛かっていったので捕まることは無かった。
後ろを振り返らずに走り抜ける。無人になったロビーは、いつもは人がいるのにその気配がないこともあって不気味だった。僕はそのまま外に出ようと走る、走る、走る。
息はもう限界で、足は棒のようになって鈍痛を訴えている。けれど、ロビーを超えてエントランスまで来たときに一気に緊張が解けた。これで助かる、と。
パン。
微かな破裂音。同時にカクン、と力が抜ける足。僕は何が何だか分からないうちに体を滑らせるようにして倒れこんだ。そして。
「が、ああああああああああああああああああああ!?」
かっと燃えるような痛みが右足を貫いた。痛みで気がどうにかなりそうになる。見ると、足から血が流れていた。紅い雫が、周りを染めるように拡がっていく。
「まったく、あまり手をかけさせるな。ただでさえこちらは人数が少ないというのに」
エレベーターから現れたのはテロリストたちにレオと呼ばれていた人物だった。片手に煙が微かに立ち上る拳銃を構えている。
「さて、それを返してもらおうか」
気が付くと、手に持っていたアタッシュケースは派手に転んだ時の衝撃で鍵が壊れて開いていた。〝遺伝子改変薬〟と呼んでいた紅い錠剤が僕の傍に転がっている。
その時、僕は痛みでどうにかなっていたのかもしれない。
僕は、その錠剤を手に取って。
ゴクリ、と飲み込んだ。
◆◆◆
「き、貴様!」
焦ったような声。僕はその声を聞いてざまあみろ、と少し愉快な気持ちになった。これがどんな薬かは知らなかったけれど、テロリストなんかには決して渡してはいけないものだというのは分かる。
けれど、僕は分かっていなかった。これが、この薬が、どんなに危険な物だったかなんて。
レオは大股で僕に近づいてくる。僕は足を撃ち抜かれたせいで立つことが出来ない。荒々しく近づいてきたレオは、僕の首を片手一本で掴んで釣り上げた。
「ぐあ…」
首を絞められることで、息が苦しくなる。けれど、そんなことが些細なことに思えることが目の前に起こった。
メキメキ、と音が鳴る。最初は僕の首が曲がる音かと思ったけど、違う。音はレオからしていた。腕の筋肉が膨張し体が一回り大きくなっていく。それに加えて、顔から金色の髭がだんだんと伸びていった。
その姿は――誰でもよく知る動物のカタチ。百獣の王、ライオン。
「ガオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
爆音のような吠え声。ビリビリと空気が震える。
「何…がどうなって」
呆然と僕は呟いた。人間が動物のような姿になる――そんなの聞いたことがない。
「フン…。知らないのか?お前ら人間が俺たちにした行いを…。俺たちが牙をむく理由を」
「そんなの、知るもんか。第一、つい最近まで眠っていたかと思ったら150年も経ってたんだぞ…」
僕の返事に僕がクライオニクスを受けた患者だと気付いたんだろう。レオは少し目を見開きながらも一つ鼻を鳴らして口を開く。
「知らないなら教えてやる…。俺たちは、お前ら人間の身勝手な好奇心で生まれた――――元、動物だ」