8月だけの、片思い ⑧(完結)
ご覧いただきありがとうございます。
本作は、実話をもとに再構成した「叩き上げ公務員」の半生を描くサクセスストーリーです。
学歴もコネもなく、定時制高校からスタートした主人公。
決して順風満帆ではなかった彼が、どのような葛藤や壁を乗り越え、霞ヶ関の本省、そして幹部へと駆け上がっていったのか。
実際の官僚機構や他省庁でのリアルな泥臭さ、そして人生後半での新たな挑戦までを丁寧に描いていきます。
働くすべての人、そして逆境から這い上がりたい人に届く作品になれば幸いです。
ぜひ最後までお付き合いください!
そして迎えた、バイト最終日。
何事もなく無事に仕事を終え、店長をはじめスタッフの皆さん、そして吉田さんに感謝と別れの言葉を告げた。
「川野くん、寂しくなったりしたら遠慮なく電話かけてきてな。あ、でも敦っちゃんがいるから大丈夫か。……現実逃避したくなったら、いつでも九州に遊びにおいで」
「ありがとうございます! 吉田さんも、どうぞお元気で」
その後、いつものように店の裏で敦っちゃんと話そうとすると、彼女は優しく首を振った。
「今日は、車の中でお喋りしようか。家まで送っていくから」
そう言う敦っちゃんの目元には、夏の夜空に照らされて薄っすらと光るものがあった。
「……ありがとう!」
助手席に乗り込むと、敦っちゃんはハンドルに突っ伏すようにしてぽつりと言った。
「楽しかったね」
「うん、本当に楽しかった……」
「じゃあ、車動かすね」
「うん」
「この1ヶ月、たくさん楽しいことがあったね」
「うん。ありすぎて、胸から溢れそうだよ」
そんな他愛のない会話を交わしているうちに、あっという間に下宿先の前へと着いてしまった。
エンジンを切った車内に、静かな沈黙が訪れる。
そのとき——ほんの一瞬だけ、敦っちゃんが優しく唇を重ねてきた。
驚きで息を呑んだものの、それはどこまでも温かく、心地よい時間だった。
「……じゃあね」
「……うん」
このドアを開けたら、もう二度と敦っちゃんに会えないような気がした。
このまま時間が止まってくれたら、どんなにいいだろう。
でも——ドアを開けなきゃ、前に進めない。
前を向いて歩いていこう。いつか、どんな形になるかは分からないけれど、成長した自分の姿を3人に見てもらうために。
その時に、「今、僕がここにいられるのは、吉田さん、敦っちゃん、望っちぃのおかげです」と胸を張って言えるように。
こうして、僕の「8月だけの片思い」は終わりを告げた。
『8月だけの、片思い』を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
切なくも温かい夏の終わり。
敦っちゃんとの車内での最後の時間、ほんの一瞬のキス、そして「ドアを開けて前へ進む」という浩一の決意に、胸が熱くなっていただけましたら幸いです。
居場所を失う悲しさから始まった夏休みでしたが、吉田先輩、敦っちゃん、望っちぃという素晴らしい大人たちと出会い、過ごしたこの1ヶ月は、浩一にとって一生消えない青春の宝物となりました。
ここまで浩一の物語を温かく見守り、応援してくださった読者の皆様に心から感謝申し上げます。




