『或るひとの傍らにて』
掲載日:2025/12/18
とりあえず読んでみてください。
そのひとは いつも
風のように 佇んでゐた
声をかければ かすかに頷き
けれど その眼差しは
どこか 遠いものを 見てゐた
わたしたちの言葉は
そのひとのまはりを すりぬけて
やがて 静かな空気に まぎれていった
笑ひも 涙も
届かぬままに
けれど ある午後の光のなかで
ふと その指先が
咲き残る花の影を
そっと なぞってゐた
それは だれにも見せぬ
やさしさの かたちだったのかもしれない
近づけば 遠ざかる
触れようとすれば ほどけてしまふ
それでも なお そのひとは
わたしたちの 見知らぬ地図のうへを
静かに 歩いてゐるのだ
名を呼べば こたへはしない
けれど その沈黙のなかに
かすかな 祈りのやうな気配が
いつも たしかに 息づいてゐた
読んでくださった方々、ありがとうございました。




