一歩
千早「ただいま、絢音?」
梓「ぁ、千早くん......」
千早「絢音は......」
梓「ごめん、母と、何かあったみたいで......」
千早「......」
部屋へ行くと、荷造りをしている絢音がいる
千早「絢音?」
よく見ると、肩が震えている
そっと肩に手を置くと、目に涙をたくさん溜めた絢音と目が合う
「......っ、ぅ、帰るっ」
千早「......」
やっぱり間違いだった
ここへ来たのは
何かしら耐えられない程酷い事を言われたんだろう
察するのは簡単だった
子供達に伝え荷物を車に運んでいると、絢音の父親が帰ってきた
父「どうした?」
千早「すみません、やっぱり帰ります。」
父「何でだ?」
千早「お義母さんに聞いてください。」
父「絢音?子供じゃないんだから、変な意地を張るな。」
「......」
千早「絢音、車乗ってていいよ?」
父「おい、千早くん?」
千早「お義父さん、意地を張るなとかそういう問題じゃありません。絢音さんは我慢強いです。その絢音さんでも耐えられない程のことがあったと、どうして考えてくれないんですか?」
父「こっちはわざわざ呼んでお世話をしてあげるって言ってるのに......」
千早「してあげる、って何ですか?普通我が子なら、心配して当たり前なんじゃないですか?」
父「......」
梓「お父さん」
父「梓......」
梓「千早くん、ごめんね?」
千早「......おかしいですよ、ここの家族。見返りが無いと、心配もしてくれないんですか?」
梓「そんな......」
千早「家庭内DVって、手を上げることだけじゃないですよ?言葉の暴力だって同じですから。」
梓「っ、そんな、DVだなんて大袈裟よ。」
千早「俺から見れば、立派なDVですけどね。それじゃ、お世話になりました。」
軽く会釈し、車に乗り込む
何かまだ言いたげな二人を無視し車を出す
「っ、千早っ、ごめんね......っ」
千早「いいから......。俺の方こそごめんね。やっぱりちゃんと止めておけば良かったね。」
車の中で、絢音は骨壷を抱きしめながらずっと泣き続けていた
帰宅し、ソファーに座る
子供達はリビング隣の和室で遊んでいる
千早「絢音?」
「.ひっ、ぅ、ひっく......ぅ〰、っ、しおんが、死んだの、私の、せいだって、っ、私がこんなだから、おじいちゃんが迎えに来てあげたんだ、よかったね、感謝しなさいよ、って......っ」
信じられない程酷い言葉
子供を失った娘に言うセリフじゃない
泣きじゃくる絢音を抱きしめる
子供をあやす様に、トン、トン、と背中に手を当てる
しばらくそうすると、少し落ち着いてくる
千早「絢音のせいなんかじゃないよ......。絢音はいつもすごく頑張ってるよ?俺の妻としても、子供達の母親としても。それは側にいる俺が一番よく知ってる。」
「っ」
千早「ね、絢音......、こんな事、本当は言わずに済めば良かったと思うんだけど。」
「?」
千早「もう、完全に距離を取ること、考えてもいいんじゃないかって......」
「っ」
千早「絢音の家族だし、俺もどうにか出来たらって思ってたけど......。お義母さんとは、もう会わない方がいい。」
「......少しだけ、期待したの......。辛かったねって、言ってくれると思った。姉さん達には...泣きながら大変だったね、っていう場面も少なからずあったのにっ....。」
千早「絢音には俺がいる。俺達家族がいる。それに俺の父さんも母さんも、絢音の力になってくれるよ?」
「......千早っ」
千早「これ以上傷ついて欲しくない......。すごく難しい事だと思うし、すぐに決めれなくてもいいから。家族でしっかり考えよう。」
「うん......っ」
絢音の為にそうは言っても、本当はすぐにでも縁を切ってほしいと思った
難しい事も分かる
周りからいい目では見られないことだって分かる
でもこれ以上あの母親と関わっても、絢音にとっていい影響があるなんて到底思えなかった
スマホの着信音
千早「はい、ぁ、父さん?......いや、今家。......行ったんだけど、いろいろあって帰ってきた。......ん、今横になったとこ。」
俺の両親は、絢音の事をとても大事にしていた
絢音は料理が得意で、俺の両親によく食事を作ってくれた
優しくて、家族想いの絢音を両親は気に入っていたしいい関係を築いてくれていた
千早「......そうだけど、いや、大丈夫。どうにかするし。......分かった。......いや、助かるよ。ありがとう。」
なんとなく事情を察したのだろう
フルーツとかいろいろ買って持ってきてくれるという連絡だった
絢音は気を遣うだろうと思ったが、子供達にと思えば少しは気も楽になるだろうと思った
千早「絢音?父さんが、フルーツとか持ってきてくれるって。」
「っ、じゃ、夜ご飯」
千早「そんなのいいから。父さん達も、そういうつもりで来るんじゃないから。」
「っ」
千早「絢音、今はゆっくり心と身体を休めて?元気になったら、また絢音のご飯御馳走してあげればいいよ?」
「......ん」
側について頭を撫でていると、昨夜もほとんど眠れていなかったのだろう
いつの間にか絢音は眠りについていた
起こさないようにそっと寝室を出る
しばらくしてインターホンが鳴る
千早「あれ、父さんだけ?」
千早の父「ああ、二人で来たら絢音ちゃんが気を遣うだろうと思って。絢音ちゃんは?」
千早「今眠ったところ。」
千早の父「そうか......。お前も大丈夫か?」
千早「俺は平気だよ。今は絢音が少しでも元気になればって思うけど......。向こうでちょっといろいろあって。」
千早の父「......そうか。ほら、フルーツ。あと、これ、母さんから。」
千早「......花、ん、ありがとう。絢音も喜ぶよ。」
千早の父「何かあれば連絡しろ。買い物でもご飯でも。こんな時ぐらい頼ってくれていい。」
千早「ありがとう、父さん。何かあればそうさせてもらうよ。」
千早の父「ああ。じゃあ、お前もあまり無理するなよ?」
千早「うん。」
玄関先で用を終え、子供達とタッチをして父が帰ろうとする
長男「じいじのおうちとまりたい!」
千早の父「お!いいぞ?来るか?」
はやと「うんっ!」
千早「あやと(次男)はどうする?」
次男「......ママがいい。」
千早の父「はやとだけ預かろうか?」
あやと「でもじいじとあそびたい。」
千早「あやと?今日だけお泊りして、明日帰ってくる?」
はやと「にいにがいるぞ?むしもたくさんいる。」
あやと「おばけでない?」
はやと「でないよ。でてもじいじがやっつける。」
あやと「ほんと?」
千早の父「ホントだ!じいじは強いんだぞ?」
あやと「......じゃあいく。」
千早「父さん、本当にいいの?」
千早の父「いいぞ。気にするな。」
千早「じゃあ、明日仕事の帰りにそっちに迎えに行くよ。」
千早の父「おお、分かった。」
千早「これ、子供達の荷物。」
千早の父「準備がいいな?」
千早「ははっ、向こうに持って行った荷物そのままだったから。」
千早の父「心配するな。子供達は大丈夫。じいじに任せておけ。」
千早「うん、ありがとう。はやと、あやと、たくさん遊んで楽しんでおいで?明日迎えに行くからね?」
あやと・はやと「はぁい。」
チャイルドシートを父の車にセットし子供達を乗せる
あやと・はやと「ばいばーい。」
千早「おう、行ってらっしゃい。」
子供達を見送る
千早「......花瓶、あったかな。」
家の中に入ると、絢音が起きてきた
千早「子供達、じいじの所に泊まるって。」
「大丈夫、かな。あやと。」
千早「1日だけだから大丈夫だよ。父さんのところには何度か泊まってるし。」
「ん」
千早「絢音、少しだけ出かけない?」
「えっ?」
千早「気分転換。と、その前に、花瓶あったかな?」
「お花......」
千早「ん、母さんが持たせてくれたみたい。」
「綺麗......。待って、あったと思う。」
絢音が花瓶を準備して骨壷の横に花を飾る
「よかったね?しおん......」
「千早、どこに行くの?」
千早「ん?内緒。」
車で移動する
そんなに遠くはない
約15分ほどのところ
「ケーキ屋さん?」
千早「ん、甘い物でもと思って。」
たまに来るケーキ屋さん
千早「ほら、早く。」
「うん。」
中へ入る
綺麗なケーキがたくさん並んでいる
千早「何がいい?絢音の好きなティラミスもあるよ?」
「ん......どうしよ。」
千早「何個か買ってもいいよ?」
「そんなに食べれないよ。」
千早「残ったら俺が食べる。」
「んー、やっぱりティラミスかな。」
千早「あ、これも買おう。」
「それなぁに?」
千早「NYチーズケーキだって。」
「美味しそう。」
千早「あとは子供達に。日持ちするの買って帰ろう。」
「うん。」
ケーキを買い家に帰る
「千早......」
「ん?」
「......ありがとう。」
「ん。早く帰って食べよう。」
「うん。」
自宅へ帰り、ケーキを食べる
「美味しい。」
久しぶりに見る、屈託のない笑顔
「千早?」
千早「ん、絢音が笑顔になれるなら、こんなのお安い御用だよ。」
「っ」
千早「ゆっくりでいいよ?無理に急がなくていいから。毎日泣いたっていい。でも......」
「でも?」
千早「笑顔も見せてほしい。子供達も、しおんだってきっと、ママの笑顔が見たいはずだから。」
「......ん、頑張るっ」
千早「ふふっ、頑張らなくていいよ?俺が勝手に馬鹿なことやって笑わせるから。」
「もうっ、何それ。......っ、ありがとう。」
一人で頑張らなくていい
悲しいのは皆同じだから
一緒に前を向けるようになればいいんだ
君が笑ってくれれば、家族も皆笑顔になるよ




