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リアル〜生命〜  作者: 水瀬れいん


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5/9

別れ

(眠れない......)


明日はいよいよお別れだ


寂しくしてないかな

冷たい冷たい霊安室の中、一人きりで寂しくないかな

どうして気づいてあげられなかったんだろう

どうしてあの日すぐに病院へ行かなかったんだろう


嫌だ

嫌だよ

臨月に入りますね、と前日言われたばかりだった

定期検診で異常はありませんって言ったじゃない

逆子だから体操頑張ってくださいって

体操がいけなかったの?

それで動いたから結び目がぎゅうっとしまってしまったの?

それならやっぱり私が殺したんだ

私のせい

私が悪いんだ


「......音、絢音っ」


「っ」


「はぁっ、大丈夫?震えてる......」


「っ、千早......」


「ん?どうしたの?」


「私のせいっ、私が殺したのっ」


「っ、絢音っ、落ち着いて?大丈夫、絢音のせいじゃないよ?」


「だって、体操なんてしなきゃよかった。体操したから臍の緒が締まって死んだのよ。私のせい、私が殺したっ、私が」

「絢音っ、違うよ!先生も言ったでしょう?お母さんのせいじゃないって。誰も悪くない、事故だったんだって。」

「でもっ」

「あの子も、絢音のせいだなんて思わないよ......」

「っ」

「絢音、ね?絢音はあの子が大好きでしょう?俺も大好きだよ?あの子だって君が大好きだったはずだよ?そんな子が君を責めたりするはずない。君のせいだなんて思うはずないよ?」

「......ほんと?」

「ホントだよ?絶対に。」

「......そ......よかっ」

「っ、絢音?絢音......眠っ...た?............っ」

ぎゅうっと絢音を抱きしめる

「......バカ。そんなはずないじゃないかっ......。君のせいなはずないよ。」


涙がこぼれる


絢音は子供が大好きだ

あの子を授かったと分かった時の弾けるような笑顔

毎日毎日話しかけて、家事や育児の合間に帽子を編んでみたり枕を作ったりしていた

酷い悪阻もあの子が生きている証拠なんだと

日増しに大きくなるお腹、胎動も力強くて

やっぱり男の子だねって笑ってた


「......っ、何で、君なんだろう。何で、あの子だったんだろうね.....。君が、どんな悪い事をしたっていうんだよ.....っ」



手紙を読んだんだ、こっそり

君があの子に書いた手紙

ごめんねから始まってごめんねで終わる手紙

こんなにも悲しい手紙を、俺は他に知らない

君が眠っている横で手紙を読んで、涙が止まらなかった



大好きな大好きな私の赤ちゃんへ


守ってあげられなくてごめんね

気づいてあげられなくてごめんね

あなたがお腹に宿ってから、あなたに会えるのをずっとずっと楽しみにしていたんだよ?

パパもママも、お兄ちゃん達も、じいじもばあばも皆あなたと会えるのを楽しみにしていたよ?

今でもあなたが元気に泣いてくれるんじゃないかって、これが全部夢なんじゃないかって思うよ

さよならなんてしたくないよ

弱いママでごめんね

最後まで苦しい思いをさせてごめんね

痛かったよね?

これから先もずっとずっと忘れないよ

ずっとずっとあなたを思ってるよ

いつかあなたと会える時が来たら、たくさんたくさんぎゅうって抱きしめたい

それまでママ頑張るから

お空の上でママを見ててね

大好きだよ

元気に産んであげられなくてごめんね


あなたのママより



それを読んで俺も何か書かなきゃと思った


ママは君を心から愛していたんだよ

会えるのを本当に心待ちにしてた

だからママが元気になれるようにお空で見守っててくれないかな?

パパからの一生のお願いだ!

え?ほんと?約束だよ?

男と男の約束だ!

よぉし、それなら安心だ!

頼んだよ?俺の愛する息子よ!



「これでよし。」


こっそりと絢音の手紙と一緒に入れる


「君の息子が、君を守ってくれるよ。もう大丈夫。」


泣きながら眠る絢音、そっと涙を拭う

小さなその身体をぎゅうっと抱きしめて眠りについた





「......準備できた?」


「ん、できた。」


「行こうか。」


病院へ車を走らせる

静かだった

絢音はずっと窓の外を眺めていた


病院へは裏口から入るように言われていた

裏口から入ると、看護師さんが待っていた


看護師「江藤さん、体調どうですか?」


「大丈夫です。」


看護師「こちらにどうぞ。」


個室に案内されると、真っ白な小さな棺の中に小さな愛しい我が子が眠っていた


「おはよう。寂しくなかった?あの、これ......?」


棺の中には折り紙で作ったお花が飾られていた


看護師「あ、皆で作ったんです。勝手にすみません。」


「そんな、嬉しいです。ありがとうございます。しおん、良かったね?綺麗だね?」


看護師「しおん君て言うんですか?」


「はい。」


看護師「素敵なお名前ですね。」


「ありがとうございます。」


準備していた服をかぶせ、靴下を履かせる


「やっぱりちょっと大きかったね?ふふっ、ぶかぶかだね?」


千早「帽子はちょうどよさそう。似合う。イケメンだな、俺に似て。」


「はいはい、そうですね〰。」


「イケメンだろ?」


「しおんが、ね?」


他愛もない会話をしながら飾っていく


しばらくすると絢音の家族もやって来る


茜「絢音......」


「茜姉......」


茜「頑張ったね......頑張ったよ。」


「うっ......ひっく、うんっ」


茜「ごめんね、こんなのしか出来なかった。」


「......ランドセル?」


茜姉は折り紙で鯉のぼりとランドセルを作ってくれていた

介護士の茜姉はこういったことがとても上手だ

普段は私を貶すことも言うけれど、中身は自分の家族の中では一番優しい


「......良かったね、しおん。ほら、ランドセルっ......ひっく、ひっ」


堪えていたものがまた一気に溢れ出す

棺の前で泣き崩れる

それを千早が支える


看護師さん達もズルズルと鼻をすすっている


母「お花も買ってきたよ。」


「っ、ありがとう......」


さすがの母も大人しくしていた

次の瞬間までは



「しおん、写真撮ろうね?」


母「えっ......やだ、何考えてんの?あんた。」


茜「お母さん、黙ってて。絢音、気にしなくていいよ。やりたいことしてあげな。」


「......何がおかしいの?」


茜「絢音」


「何がおかしいのよっ、大切な我が子を何かで残したいって、思っちゃ駄目なの?」


母「死んでるじゃない。遺体撮るなんて非常識よ、気持ち悪い。」


茜「もう黙れってば。あっち行ってて。」


一瞬で空気がひんやりとする


梓が無理矢理母を隅へ追いやる


茜「絢音、気にしなくていいから。おかしくないよ。忘れたくないって思って当たり前だよ。」


「............」


千早「絢音......ほら、写真撮ろ?俺も欲しい。しおんがしっかり生きていた証。」


「っ、茜姉、千早......」



綺麗に飾られた棺の中で静かに眠る我が子を撮る


それが終わり、皆で作った折り紙とお手紙を棺に入れる

長男は状況を理解したのかボロボロと涙をこぼして泣きじゃくっている

次男は状況が分からず祖父に抱かれてソワソワしていた


「棺、いっぱいになったね?皆からの贈り物嬉しいね?お洋服もとっても似合うよ?これはおじいちゃんとおばあちゃんから。かわいい靴だね?これを履いて歩くんだよ?怪我しないようにね?」


冷たくなったかわいい我が子を愛しそうに撫でる絢音


看護師「江藤さん、そろそろ。」


「はい......」


千早がゆっくり蓋を閉める


またボロボロと涙が溢れてくる


「先生、看護師の皆さん、最後まで....ありがとうございました。」


震える声で絢音がお礼を言った


千早「ありがとうございました。」


絢音と二人で棺を抱えて車へ移動する


千早「俺達、一度家に寄って行きますから。先に火葬場へ向かってください。」


茜「分かった。あの、千早くん......」


「はい?」


茜「なんか、ごめんね、母が......」


「......いえ、もういいです。」


茜「......」


「じゃ、また後で。」


茜「うん。」



車に乗り込み、チラリとバックミラーで後ろを伺う

棺に頭をつけて、棺ごと愛しい我が子を抱きしめているようだった


「車、出すよ?」


「......うんっ」


車の中に、啜り泣く声が響いていた


「大好きだよ、しおん。大好き......大好き」


しおんに話しかける声が止まることはなかった

視界が涙で歪む

どうにか堪えて運転に集中する


自宅についた

外からは見えない位置に車を横付けして棺を室内に運ぶ


「ただいま......しおん、お家についたよ?」


棺の蓋を開け、絢音が抱っこする


「お兄ちゃん達が使ってたベッド、しおんが寝るはずだったんだよ?かわいいでしょ?このおもちゃも、服も、みんなみんなあなたの為に準備したの。」


準備した物をしおんに見せている


涙がしおんの頬につたっていく


「ごめんね、守ってあげられなくて。気づいてあげられなくてごめん......。あなたをずっとずっと愛してる。ずっとずっと私はあなたのママだから。」


「......すぐにまた戻って来れるよ?また一緒に帰って来ようね?」


しおんも絢音も一緒に抱きしめる


「皆で帰って来よう......」


「うん......っ」


しばらくしてまたしおんを棺に戻す

頬に愛しそうに触れる

小さな小さな手を包み、何かを持たせる


「..........写真?」


「ん、家族写真。」


「いいね。」


「ずっとずっと、私達の大切な家族だから。」


「うん......。」


棺の蓋を閉めてまた車に乗せる

そして火葬場へ向かう

その間も、絢音はずっと棺を抱きしめていた








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