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リアル〜生命〜  作者: 水瀬れいん


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3/9

帰宅

長男・次男「ママー!!」


千早「あ、こら」


「大丈夫。ごめんね?いい子にしてた?」


次男は泣きじゃくり抱きついたまま離れない

長男はお義父さんに抱かれ相変わらず大人しくしている


夫はいろいろな手続きをしていて忙しそうにしていた

それがようやく落ち着くと、子供達もようやく落ち着いてくる


「お義父さん、子供達、大丈夫ですか?」


義父「大丈夫だよ。少し夜中はぐずるけどそれぐらいだ。心配いらないよ。」


「すみません。」


義母「心配しなくて大丈夫だから。お父さんに任せとけば大丈夫。」


長男「じいちゃんと【むしとり】するの」

次男「ぼくも」


「そう、たくさん見つかるといいね。」


長男「うん!ママはいつかえってくるの?」


「もうすぐ」


次男「やだ、もうかえろ?」


「ごめんね、今日はだめなの。」


次男「やだ」


千早「ママはまだ休まないといけないんだ。無理してママが倒れてもいいの?」


次男「やだ」


義父母がどうにかなだめて子供達を連れて帰る

途中まで送っていく


お別れの所まで送り、大泣きしている次男を抱えて義父母が帰っていく


それを見てまた涙が溢れた





入院してから、ほとんど食事を摂れずにいた

睡眠もほとんど取れていない


立ち上がるのも辛くて

トイレに向かおうと起き上がりベッドから立とうとした瞬間目の前が真っ暗になる


千早「絢音?!」


「っ、大丈夫、立ちくらみ......」


千早「真っ青じゃないか。ちょっと待って、ナースコール......」


「平気だよ」


千早「平気なわけないだろ。」


千早がナースコールのボタンを押す


ナースコール「どうされました?」


千早「すみません、立ちくらみみたいで動けなくなったみたいで。」


ナースコール「すぐ行きますから。」




バタバタと看護師さんが入ってくる


看護師「江藤さん、横になりましょう。あ、おトイレ?済ませる?よいしょ。」


お手洗いまで運ばれ済ませると、ベッドへ寝かせられる


看護師「血圧測りますね。」


「......」


看護師「......えっ、上100を切ってますね......96しかない......。江藤さん、ご飯どのくらい食べれてます?紙に書いてますよね?見せてくださいね。」


「......」


看護師「ほとんど、食べられてませんね......」


千早「ヨーグルトとか売店で買ってきて......それは少し食べられるんですけど......ご飯、てなるともう全然......。睡眠もたぶん全然。」


看護師「診察、してもらいますね。」




主治医「貧血を起こしていますね......。出産の際にも中程度の出血がありましたし食事を摂れていないのであれば当然です。......ね、江藤さん、ここにいるのは辛いですか?」


「っ」


主治医「帰りたい?」


「はいっ......、でも」


主治医「赤ちゃんのことなら大丈夫ですよ?火葬まではお預かり出来ますし。」


「っ......ここ、は」


主治医「うん。」


「他の方の、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきて、辛いですっ......」


主治医「......うん、そうだよね。分かった。診察して、大丈夫なら早めに帰ることを検討しよう。それで貴女が少しでも気持ちが楽になるならその方がいい。お子さん達もいるしね。」


「っ、はい」


主治医「旦那さんもそれでいい?」


千早「はい。今は妻が望むようにしてあげたいです。」


主治医「うん、じゃあその方向で考えよう。赤ちゃんは病院で預かる方向でいい?連れて帰ることも出来るけど、そうすると......保管用のドライアイスとか、結構な量が必要になる。5月といえ、もう暑いし......」


「っ」


千早「病院で、お願いします。」


「千早っ」


千早「火葬の前に連れて帰ろ?それなら少しでも家で皆で過ごせるよ?」


「っ」


主治医「それでいいと思うよ。それまでに少しでも身体を休めよう。でないと、そこで体調悪くなったら困るでしょう?」


「はいっ......」


主治医「決まりだね。江藤さん......、赤ちゃんにしてあげたいこと、たくさんしてあげよう?着せたかった服を着せたり、お手紙を書くのもいいね。」


「して、あげたいこと......」


主治医「なんでもいいんだよ?」


「写真......」


主治医「もちろんいいよ?」


「いいん、ですか?」


主治医「どうして?我が子を写真に収めたいって、普通の事でしょう?」


「っ」


主治医「江藤さん......難しく考えなくていいんだよ?何でも言って?やれる事はこちらでも協力するから。側にいる間に、たくさん想い出を作ろう。」




当たり前の事を望んではいけないのだと思ってしまった、望めなくなった


他の部屋から赤ちゃんの泣き声が聞こえる度に涙が溢れて、ただひたすらに自分を責めた


食事の配膳係の方が、足形と手形をみて「おめでとうございます」と笑顔で言う

それにすら耐えられなくて、食事も食べることが出来なくなった

あの子は何も食べられなかったのに、私が食べるなんて


部屋の外へ出るのが怖かった


幸せそうなお母さん達を見るのが怖かった


どうして自分だったんだろう

こんなにも世の中人は溢れていて

理不尽な理由で我が子に手をかけたり、堕胎したりする人達だってたくさんいるのに

貴方が元気に生まれてくる事を、心から待ち望んでいたのに


「どうして......私だったの?どうして、貴方だったの?」


ごめんね

守ってあげられなくて

幸せにしてあげられなくてごめんね

私がママでごめんね





千早「絢音?......眠れたのか、良かった。」


もうずっと眠れていないのを知っていた

食事もほとんど手付かずのまま返却する


食べられるのはせいぜいヨーグルトやゼリー

それもほんの一口か二口


千早「寝てるときまで泣くな......」


眠りながらも涙を流す妻

タオルで涙を拭う


家族の面会も、体調不良を理由に断った

あの母親は、また絢音を傷つける

ずっとそうだった

今そんなことされれば、絢音は壊れてしまう

母親だけじゃない、心配しているようにみえても姉二人だって母親に同調して傷つけていた

平気なフリをしていても、傷ついていたのを知ってる


「......ん、ちは、や?」


「ん、少し眠れたみたいで良かった。気分は?」


「ん、少しいい。」


「良かった。ゼリー買ってきたよ?」


「後ででいい。」


「......冷蔵庫入れとく。」


「うん。」


「千早、便箋、買ってきてくれない?」


「便箋?」


「うん。あの子に、お手紙書くの。」


「分かった。」


「あと、折り紙も。」


「うん。他にはない?欲しいもの。」


「思い出したらまたお願いするかも。」


「ん、いいよ。そうだ、棺の手配も済んだよ。骨壷も。」


「......ありがと。」


「うん。」


「ごめんね、全部任せちゃって。」


「大丈夫。」


「仕事、大丈夫?」


「平気だよ。落ち着くまで休めるようにしてくれてる。有休たくさん残ってるし、そういう福利厚生うちはたくさんあるから。」


「ん」


「眠い?」


「......心臓の音、安心する。」


「このまま寝ていいよ?」


「重いでしょ?」


「......平気」


「間があった。」


「あは、少しね。体勢変えてもいい?」


「うん。」


ソファーに腰掛け抱きしめられる


「これで大丈夫。」


「......千早?」


「うん?」


「ごめんね......」


「謝ることなんて何もないよ?絢音......、ありがとう。」


「えっ?」


「たくさん......たくさん頑張ってくれてありがとう。むしろ、俺の方が謝らなきゃ。何も出来なくてごめんね?」


「っ」


そんなことない、って言葉すらも出てこない

嗚咽をもよおしながら泣きじゃくる


「きっと、幸せだったよ?」


「っ?」


「こんなにも愛してくれる君が母親で、幸せじゃなかったはずはないよ。きっとお腹の中で、幸せだったよ。」


子供のように泣きじゃくる君

実は泣き虫なのを知ってる

俺にとっては誰よりも、何よりも愛しいんだ

泣きたいときは胸を貸すから

辛いなら目も耳も塞いであげるから

だからどうか

側でまた笑顔を見せて






退院が決まり、お昼の食事は止めてもらい計算ができあがり呼ばれるまで部屋で待つ


だが、待てど暮らせど呼ばれない

何度か聞いてみてももう少しお待ちくださいのまま


お昼には出る予定だったが、もう時間は14時を回っている


ようやく連絡が来たと思ったら、今度は更に待合室で待たされる


受付の方に呼ばれ、書類に署名をと言われる


「産科医療補償制度......」


事務員さんが説明をしていく


知っている

だって3人目だもの

でも


「私、死産したんです......必要ですか?」


事務員「えっ、あっ......確認してきます。」


そう言って事務員さんは慌てて戻っていった

でもその後待っても待っても戻って来ない

イライラと不安といろいろな感情が混ざっておかしくなりそうだった


千早が流石にあんまりだと一言言いに行く


千早「もう3時間待ってるんですけど。食事も昼に帰る予定だったから止めてもらってましたし、まだかかるんですか?」


事務員「すみません、内容に関して確認中で。もうしばらくお待ちいただけますか?」


「もうしばらく?聞いてましたか?3時間待ってるんです。それにさっきの、署名が必要か返事すら言いに来られてませんよね?」


事務員「あ、それはもう必要ありませんから。」


「必要ないなら何故言いに来られないんですか?まだこちらは書類持ったままですよ?」


事務員「すみませんっ、お持ちいただいてもよろしいですか?」


「は?」


事務員「あっ、いえ、回収いたしますので」


「そっちが取りに来いよ、ふざけ」

「千早、いいから。」

「けど」

「すみません、これ」

事務員「あ、ありがとうございます。」

「まだかかるんでしょうか?」

事務員「すみません、もうしばらく......あの」

「っ、絢音っ」

「大、丈夫......平気」

千早「ちょっと、誰か看護師さんっ」

事務員「っ、大丈夫ですか?」


看護師「江藤さんっ」


千早「あ、看護師さん」


看護師「もう16時ですよ?江藤さん、分かりますか?」


「立ちくらみ、です、大丈夫......」


看護師「ストレッチャー持ってきて、急いで」


「平気、です」


看護師「ダメですよ。早くストレッチャー!」


そのまま意識が途切れた





千早「っ、絢音っ」


「ち、はや......」


千早「良かった......」


千早がナースコールで知らせる


主治医「江藤さん」

看護師「江藤さん、良かった。」

主治医「申し訳ありませんでした。こちらの不手際で......」


「今、何時、ですか?」


千早「17時30分過ぎ。」


「もう、帰れない、ですか?」


主治医「倒れたばかりですし、今夜は泊まって帰られませんか?心配ですし。」


「帰りたい、です......」


主治医「......」


「......も、嫌ですっ。帰りたいっ......」


主治医「......分かりました。絶対に、無理はしないと約束してくださいね?それからちゃんと少しずつでも何か口に入れること。約束出来ますか?」


「はい......っ」


千早「絢音......お義母さんが、火葬済んだらしばらくこっちに泊まるようにって。」


「っ?」


「子供達も、一緒でいいって。」


「......分かっ、た.....」


主治医「お母様のサポートならば安心ですね。しっかり休んでくださいね?」



こちらの事情など知らない方からすれば自然な反応だろう

でも、また絢音が傷つくんじゃないかと不安だった




車に揺られ自宅へ帰る

家につくと、義父母と子供達が待っていた


千早「ごめん、遅くなった。」


義父「絢音ちゃん、大丈夫だったの?」


「もう大丈夫です。ご迷惑おかけしてすみません。」


義父母はもう夜だからとすぐに帰っていった

気を使ってくれたのだろう

お惣菜を買ってきてくれていた


千早「食べれる?」


「今はいい。」


「絢音」


「分かってる、後で何かは食べるから。少し横になりたい。」


「......ん、分かった。お風呂は?」


「入るよ。」


「うん。」


ベッドに横になると、子供達が入ってくる


「ごめんね、寂しかった?」


ぎゅうっと抱きついたまま2人とも離れない

両手に抱えているとすぐに寝息が聞こえてくる


千早「安心して眠っちゃったか......」


「うん。」


「重くない?」


「大丈夫。」


「ご飯は起きてからでいっか。はぁ、俺も少し横になろ。」


「ふふっ、狭いよ。ぎゅうぎゅう。」


「ん、やっと笑った。」


「千早......」


「皆で寝ちゃお。ご飯とお風呂はまた後で。」


「もう起きないかも。」


「それならそれで、明日の朝でもいい。」


「ん、そうだね......」


子供達の体温と寝息のせいか、2人とも徐々に眠くなる

久しぶりにすんなりと眠りについた



すやすや眠る子供達と妻


「子供達の癒やしパワーは絶大だったな......。良かった。」


それだけでも帰ってきたことへの意味はあった

大きな欠伸をして自身も眠りについた






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