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リアル〜生命〜  作者: 水瀬れいん


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尊い生命 2

主治医「力を抜いてね?頑張ろうね。」


診察台の上で足を開き冷たい器具を入れられる

膣を広げる冷たい器具


硬いスポンジを5本程入れて処置は終わった

それが徐々に膨らんでいくらしい


処置が終わったらまた車椅子に乗せられ部屋へ帰る


部屋は個室だ

空きが無かったそうだが、流石に酷だと判断したのだろう

どうにか空きを用意してくれたようだった



主治医「点滴で陣痛促進剤を入れていきます。少しずつ量を増やしていきますからね。モニターでこちらも観察しています。何かあればすぐナースコールを鳴らしてください。」


陣痛促進剤を点滴で流し、しばらくすると痛みも出てくる


息子たちの時に陣痛は経験している

でも、その時とは全く違う感覚だった


梓「痛い?うわ......硬っ」


「ん、痛い......」


梓「......頑張れ」


「ん」


母「痛い痛い言うんじゃないよ。あー、お腹空いた。急いで来たからお母さん達何も食べてないのよ。梓、まだ時間かかるしご飯食べに帰るわよ。梓も子供達いるんだから。」


梓「あー、うん。絢音、また後で来るから。」


「いいよ、無理しなくて。」


梓「......千早くんは休み取れたんだよね?」


千早「はい。落ち着くまでは休んでいいって言われてます。」


梓「何かあれば連絡くれる?」


千早「分かりました。」


母「梓」


梓「分かったから。絢音、頑張れ。お父さんも心配してたから、お父さん連れてまた来るから。」


「ん」


本音を言えば、早く帰って欲しかった

泣けば泣くなと文句を言われ、ネチネチネチネチ悪態をつく母が側にいるだけでおかしくなりそうだったから





千早「絢音?」


「ん、千早も、何か食べてきていいよ。子供達にも何か食べさせて。お義父さん達も待ちくたびれてると思うし。」


「子供達は義父さんが見てくれるから大丈夫。俺もしばらくここに泊まるから。」


「そんな、いいよ。」


「よくないよ。今は絢音の方が大事。子供達はじいちゃん大好きだから大丈夫だよ。」


「でも」


「絢音......、今はそういうの考えなくていい。いいから......」


千早が手をぎゅうっと握る


止まったはずの涙がまた溢れる

母の前では必死に我慢していた感情が一気に溢れ出す


「ひっ、ぅ、ひっく、ごめんなさいっ」


「大丈夫......我慢しなくていい。」



千早の服がびちょびちょになるまで泣いて、泣いて、泣いても、涙が止まらなかった




徐々に痛みも強くなってくる


でも、その痛みとともに陣痛まではのってこない


ただ痛みに耐えて1日が過ぎていった



1日目は食事も喉を通らず、眠ることも出来なかった

ただ痛みと不安に押しつぶされそうになりながら、泣きながら横になっていただけだった



主治医「増やしますね。」


スポンジを一度抜き、さらに追加し本数を増やす

お腹の痛みと膣奥のなんとも言えない痛みに耐える


少しずつ痛みが定期的にやってくる



梓「大丈夫?うわ、カチカチ。普通の陣痛じゃないみたい。」


看護師「薬で誘発してますからね。まだお産の準備ができていない身体に強制的に陣痛を与えているので、痛みも比較にならないかと。」


梓「絢音、お父さん、外にいるって。」


「ん、いいよ。無理しなくて。」


梓「茜姉も、仕事終わったら来るって。」


「ん」


看護師「すみません、診察があるので旦那さん以外は皆さん一度外へお願いします。」


梓「分かりました。ほらお母さん、出るよ。」


「はいはい。」


母は雑誌を読むのに夢中だった

ただそこでそうしてるなら来なければいいのに

ただ自分の体面を保つ為だけにいるのはもう分かっていた

こんな状態の時に駆けつけない家族なんて、と思われるのがただ嫌だっただけで、私の心配なんてしていなかったんだ



主治医「陣痛のってきたの、分かりますか?」


「ん、はい......、痛い、です。」


主治医「まだ子宮口は開いてないので、まだしばらく時間はかかりそうです。ただ経産婦さんなので、一度のってくれば一気に進む可能性もあります。注意して観察していきましょう。」


「はい。」



看護師「痛いですね。江藤さん、頑張ってますね。赤ちゃんも頑張ってますよ。」


初めからずっと付いてくれている若い看護師さんが、ずっと手を握ってくれている


陣痛の間隔が短くなり、お産が徐々に近づいてくるのが分かる

そうなってくると、亡くなった赤ちゃんを産むことへの恐怖心が生まれてくる


どんな状態なんだろう

ちゃんと可愛いって思えるかな



看護師「江藤さん!呼吸もっとしっかりゆっくりしましょう。このままだと過呼吸になっちゃいますからね?辛いけど頑張りましょうね。」


「ひっく、ひっ、怖いっ......ふっ、ひっ、ひっく、怖いです。」


看護師「大丈夫。旦那さんも、私もいますからね?大丈夫ですよ。大丈夫。」


千早「絢音、頑張れ。ここにいるから。頑張れ、頑張れ。」


助産師さん、看護師さん、先生方、たくさんの方が中に入ってくる


主治医「旦那さん、ごめんなさいね。外へ。」


千早「っ、はい。よろしくお願いします。」



とてつもない痛み

子宮口はいつの間にか全開大になりいよいよお産が始まる


看護師さんがずっと手を握ってくれている

どれくらいの力で握っていたかも分からないけど、ずっと離さずにいてくれた


助産師「頭出てきましたよ!江藤さん、もう少しだよ、頑張れ。」



静かだった

とても

聞こえるはずだった産声も聞こえない


助産師「江藤さん、頑張りましたね。おめでとうございます。可愛い男の子ですよ。」


そこにいる先生や看護師さんも、「おめでとうございます」と声をあげる


おめでとう、がこんなにも言われるのが苦しい瞬間が今までにあっただろうか


「ごめんなさいっ、ごめんね、ごめんねっ」


無意識に発した謝罪の言葉に、助産師さんや看護師さんが涙声になる


助産師「っ、お母さんのせいじゃないよ?」

看護師「っ、そうですよ、っ」


主治医「......そうですよ?江藤さん、ほら、とっても可愛い。」


抱っこして包まれて連れて来られた赤ちゃんは、おでこに少し傷があったものの綺麗だった


いつの間にか主人も中に入ってきている


「かわいいっ」


千早「かわいいね。」


「パパにそっくり」


千早「そう?」


「すごくかわいい癖っ毛。」


千早「ほんとだね。くるくる。」



しばらくして主治医の先生と他の複数の先生がベッドまでやってきた

他の二人の先生は、小児科医とのことだった


主治医「江藤さん、今回の原因ですが......」


そう言ってトレーに入った物を持ってきた


主治医「これが臍の緒です。ここ、分かります?結び目が出来ています。臍帯真結節って言います。これが原因だと思われます。」


「......」


主治医「お腹をぐるぐる動いている間に結び目が出来て、何かの原因でぎゅうっとなってしまって血流が滞ってしまったんですね。きっと、お母さんのお腹の中はとても気持ちが良かったんでしょうね。それから、お母さん・お父さん、今から大切なことを聞きます。診察の時に話していたこと、覚えていますか?赤ちゃんの解剖のこと。」


診察の時に前もって確かに説明があった

赤ちゃんの解剖に同意するか考えていてくださいと


最初は絶対に嫌だった

でも、もし赤ちゃんに先天的な異常や病気があった時、今いる息子二人にも何かしらの影響があるかもしれないと説明があった


怖かった


もうこれ以上私の宝物を失いたくない

二人でたくさん考えた

正解はないんだと思う

批判もあるだろう

でも、私達夫婦は


「解剖を、お願いします。」


主治医「分かりました。丁寧に丁寧にさせていただきますからね。ありがとうございます。」


そう言ってその場の全員が頭を下げた


後から聞いた話だと、赤ちゃんの解剖はとても貴重なものだとのこと

皆やはり拒否される方が多いから


でも、もしも本当に他に病気が見つかったら?


後から子供達の病気が見つかったら?


この日は取り戻せない

一生後悔するかもしれない


解剖するという決断は、私が一生背負って生きていくから


だからごめんね?


傷つけてごめん


元気に産んであげられなくてごめん


苦しかったかな?


痛かったかな?


ごめんね


ごめんね


ごめんね


謝ることしか出来ないママを許して







数時間後


看護師さんと先生が病室へやって来た


主治医「江藤さん、終わりましたよ。」


「はい。」


主治医「今回の原因は臍帯真結節で間違いないと思われます。それ以外に先天性の病気や異常などは見受けられませんでした。それから......臍帯真結節で赤ちゃんが長い間血流不足に陥っていると赤ちゃんにも何らかの所見が見られることがあります。今回はそういう所見は見られませんでした。」


千早「というと?」


主治医「赤ちゃんは、長い間血流不足に陥っていたわけではありませんでした。何らかのストレスがかかればちゃんと所見として現れますから。本当に、突然の事故だったんです。臍帯真結節による突然死、ということになります。」


「苦しくは、なかった?」


主治医「はい。そのような所見はありませんでした。きっと、とても心地良かったのだと思います。だからきっと、動き過ぎちゃったんでしょうね。そして、お腹の中で事故に遭ってしまったんです。お母さんのせいなんかじゃありませんよ。」


「っ」


ボロボロと涙が溢れる


主治医「出来うる限り、丁寧に綺麗に縫わせていただきましたから。」


そういうと、赤ちゃんを看護師さんが連れてくる


看護師「江藤さん、よかったらこれ......」


受け取ったのは赤ちゃんの手形と足形

色紙に可愛く飾り付けまで施してくれている


「っ、ありがとうっ、ありがとうございますっ」


看護師「あと、これ......臍の緒と中に髪の毛と爪も。」


看護師さんの気遣いに、涙が止まらなくて

お礼を言いたいのに、もう声も出せないぐらい号泣してしまった


千早「ありがとうございます。っ、ありがとうっ。よかったね、絢音。」


その場にいた看護師さんも、堪えられずに泣いていた


看護師「しばらくご家族で過ごしてくださいね?抱っこしますか?」


「っ、いいんですか?」


看護師「もちろんです。また後でお迎えにきますから。」


皆が部屋を出て行く



「......痛かった?ごめんね?」


千早「頑張ったね。えらいね。」


「っ、うんっ。えらいね。すごいよ。っ、ぅ、ひっく」


千早「っ、絢音も頑張ったね。二人とも頑張ったね。」


もう既にこれでもかと泣いているのに、涙は次から次へと溢れて止まる気配すらない


安置されていた為、冷たく硬直している我が子

それでも愛しい我が子には変わりない


二人で抱っこしてしばらくしてからベッドへ寝かせる

包んでいた分厚いタオルを開き傷口を確認する


「......っ、ごめんねっ」


胸からお腹まできっちり縫われた痕

冷たい頬に触れ手を重ねる


そうして過ごしているとお迎えがやって来た


看護師「いったん連れて帰りますね?また明日も会えますからね?」


「はい......」


看護師「江藤さんもしっかり休んでくださいね。」




そう言って赤ちゃんと看護師さんは出ていった



備え付けのソファーの上で眠りにつく夫

ずっと気を張って疲れてるだろう


ベッドの上でぼーっと天井を見つめる


眠れない


凹んだお腹に手を当てる


もういない

少し前まで、元気にぽこぽこと動いていたあの子はもういない

何度拭っても拭っても涙は溢れて止まらない

目はもうパンパンに腫れて真っ赤だ


枕元の携帯を手に取る

ふと写真を眺める


(写真......撮ってもいいのかな。)


子供たちの写真を眺める

考える余裕もなかった

最低だ


(大丈夫かな......会いたいな。)


夜は写真を眺めて子供たちの事を考えながら過ぎていった








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