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北国物語(仮題)  作者: GP
第一章
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第二十一話

【ハーヴェンスロウ公爵邸・地下通路前】


地下へ続く入口は、装飾壁の裏に隠されていた。

崩れた彫刻の奥。

焼け落ちた壁布の裏。

そこに、石扉があった。


「ここだ!」

ロンドリックが即座に動いた。

「非戦闘員を先に入れろ!

 負傷者、続け!」


護衛が一斉に反転する。

円陣が歪み、“通す形”へ変わる。


だが。

その瞬間を、敵が見逃すはずがなかった。


「――来るぞ!!」


奥の廊下から、

炎を背にした敵の塊が雪崩れ込んできた。


一人や二人ではない。

列。

面。

押し潰すための数。


盾が押される。

足が滑る。

誰かが壁に叩きつけられる。


通路に入ろうとした使用人の肩を、槍が掠める。

護衛が割り込む。

その護衛の腿に刃が刺さる。


「このままじゃ……!」

タルヴァスが叫ぶ。


実際、その通りだった。


入口がある。

だが、そこへ“集中”した瞬間に、陣は細くなりすぎている。

守る点が、一つに絞られた。


つまり――

そこを割られた瞬間、全てが崩れる。

エドランの中で、はっきりとした像が浮かんだ。


敵の進路。

味方の密度。

通路の幅。

崩れる順番。


(……持つのは、あと数十息。誰かが止まらなければ)


誰も口にしていない。

だが、全員が同じ未来を見ていた。


次に敵が踏み込んできたら。

次に一人倒れたら。

次に誰かがよろけたら。


“守る形”が、“踏み潰される形”に変わる。


その時だった。


「……ここで止める必要があるのう」


バーリンの声は、妙に静かだった。


振り向いたエドランの視界に、

ドワーフの背が入る。


盾を構え。

手斧を握り。

通路の入口、その一歩外に立つ位置。


「バーリン……?」

「殿が要る」


即答だった。


「この入口は狭い。

 だが、その分、真正面になる」


敵は数で押す。

ここを抜ければ、後は下り。

混戦になる。


だが、この入口そのものに誰かが立てば。

幅は、一人分になる。


敵の“量”は、“列”に落ちる。


「おぬしら三人で下がれば、護衛は守れる。

 だが、この入口に誰も立たねば、次の一波で割られる」


盾に刃が当たり、火花が散る。


「……それをやれるのは、わししかおらん」


エドランの口が開く前に、バーリンは続けた。


「この仕事は老兵のものじゃ」


視線を上げる。

敵の塊。

護衛の疲弊。

子供を抱える手。

震える使用人。


「先にゆけ」

その目に迷いはなかった。


「……すぐ戻る」

エドランの声は、低く掠れていた。


「無理を言うな」

バーリンは一歩、前に出た。


その瞬間。

敵の先頭が踏み込んだ。


バーリンの盾が、真正面から叩きつけられる。

骨に響く音。

だが、彼は下がらなかった。

叩き返し、

斧を振り、

一人を足元に沈める。


「行け!!」

その声は、怒号ではなかった。

命令だった。


ロンドリックが歯を食いしばり、叫ぶ。

「――退け!!」


護衛が一斉に動く。

非戦闘員が、地下へ吸い込まれていく。


エドランは最後に、バーリンを見た。


炎を背に。

盾を前に。

数の前に。

一人で立つ背。


その周囲だけ、

敵の流れが“詰まっている”のが、はっきりと見えた。


「……必ず戻る」


言葉にしたかどうかも分からない。

エドランは、タルヴァスとともに、

公爵たちを押し込むように地下へと下がった。


背後で、

バーリンの盾に、

複数の刃が同時に当たる音がした。


それでも。

入口は、まだ、割れていなかった。


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