表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北国物語(仮題)  作者: GP
第一章
13/41

第十二話

【トレイドラン平原・真夜中】


月は雲間に滲み、淡い光が果てのない草原を青白く照らしていた。


風に波打つ草の海を裂くように、三頭の馬が全力で駆けている。


エドランは手綱を強く握り、前方を睨んでいた。頬を打つ夜気は冷たく、肺の奥にまで染み込んでくる。背後には何も見えない。それでも――胸の奥に、拭いきれない不快な感覚がまとわりついていた。


(……近い。何かが、近い)


理由はない。音もない。

だが、背筋を撫でるような悪寒が消えない。


「嫌な感じが続いておるのう」

バーリンが低く唸るように言う。


タルヴァスも耳を伏せ、周囲の闇を鋭く窺っていた。獣人の感覚が、夜の草原に満ちる“異物”を探している。



三人は言葉少なに、さらに馬を走らせた。

目指すは穀倉都市ハーヴェンスロウ。公爵と会うために。



その時だった。



――――高空から、かすかな羽音。



タルヴァスが顔を上げた瞬間、何かが夜空を横切った。


「……鷹だ」

だがそれは一瞬で見えなくなる。


不思議なほど、嫌な予感だけを残して。



=============

【使徒】


交易都市ベルカストを抜ける街道を、一団の黒が疾走していた。


先頭に立つのは、黒いローブに全身を包んだ異形。


月光を受けても、その姿は闇の塊のように輪郭を歪める。


仮面に刻まれた“怒りの表情”だけが、不気味に白く浮かび上がっていた。


エドランを追う目は二つあった。


一つは、自らの仮面の奥。

もう一つは、夜空を翔ける鷹の眼。


そして鷹の視界の中で、草原の一角に散らばる死体が映る。倒れた哨戒兵。踏み荒らされた草。戦闘の痕跡。


さらに鷹は視野を広げ――



北へ疾走する、三つの小さな影を捉えた。



その瞬間、鷹は旋回し、街道へ引き返す。

使徒の脳裏に、言葉も感情もなく情報だけが落ちる。


“発見。”


鷹が肩に舞い戻る。

使徒は、わずかに首を傾けただけだった。


命令はすでに完了している。

追跡対象、捕捉。


次の瞬間。


黒馬の進路が、唐突に変わった。


街道を外れ、草原へ。

躊躇も、確認も、号令もない。

ただ、闇へ突っ込む。


それに従うように、五人の配下も無言で続いた。

馬の蹄が大地を打つ。

だが、その音さえ草に吸われていく。


異様なほど静かな突撃だった。

夜の草原を裂く六つの影。

まるで、闇そのものが獲物を追い始めたかのように。



=============

【トレイドラン平原】


その頃。


理由もなく、エドランの背筋を冷たいものが走った。


「……来る」

思わず、声が漏れる。


「何がじゃ」

バーリンが問うより早く、タルヴァスが振り返った。


金色の瞳が、はるか後方の闇を射抜く。

「……いる。遠いが……はっきりと」


そこには何も見えない。

だが、確実に“何か”があった。


空気が重い。


草原が沈黙している。


生き物の気配が、逃げるように遠ざかっていく。


「……」

タルヴァスの発する呼吸音に、獣の本能が混じった。


エドランは奥歯を噛みしめ、手綱を引く。

「全速だ。もう一段上げるぞ」


三頭の馬が悲鳴を上げるように駆け出す。


だが――


なぜか、エドランの直感は告げ続けていた。


(……追いつかれる)


音もなく。

気配もなく。

ただ“確実に”。


夜の草原の彼方で、何かが彼らを狩ろうとしている。


それが人であるのか、

それとも――人の形をした何かであるのか。

まだ、誰にも分からなかった。


だが一つだけ確かなのは。



今まで彼らが相手にしてきた“敵”とは、質が違うということだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ