異世界案内うさぎ
仕事から帰り、一人暮らしの私は今日もいつものようにタブレットの画面を触っている。
つまらない。
何もかもがつまらない。ただただ日々の時間が溶けていく私の日常。
タブレット画面に映っているアニメは今流行りの異世界転生ものだ。異世界転生ものが流行っているのは異世界に転生したい人が世間には多いということなのだろうか?
・・・・少なくとも私が異世界に転生したところで何も変わらないだろうな。
そんな瑣末なことをソファに座りながら考えていると、目の前にタキシードを着て、真っ黒の目で真っ直ぐ私をみている白いうさぎがいた。・・・え!?すごい!二足歩行だ!?
「・・こ、こんにちは。うさぎさん?」私はとりあえず、うさぎに挨拶してみた。
「こんにちは。異世界案内人のドドです。」
うさぎは丁寧にお辞儀をしてから答えた。
・・・異世界案内人?
「・・・え、えーと。異世界案内人ってなに?」
私は目の前のうさぎに質問した。
「異世界案内人とは、異世界をご案内する人です。」
「へ、へぇー。そうなの?」
異世界って漫画や小説とかでよくあるあの異世界のことかな?ということはうさぎさんて本当にうさぎじゃなくて・・・天使だったりするのかな?私は目の前の白いうさぎをまじまじとみる。
「あの、そんなにまじまじとみられますと少し照れます。」
うさぎは照れている。
・・・かわいい。
「あ、ごめんなさい」私はとりあえず謝った。
「いえ、お気になさらず。それでですね、異世界をご案内させていただく前に、いくつか注意事項がございますので説明させていただきますね」うさぎが説明を始めた。
「はい。お願いします」と私。
「まず、異世界に転移される場合、転移先の世界には魔法が存在していますので、本当に気をつけないとすぐに死んでしまいます。」
「はい、わかりました。気をつけます」
私はとりあえず返事をした。
「・・・本当に気をつけてくださいね?」とうさぎは心配そうに私をみつめる。
「はーい」と私は適当に返事をした。
「それでは、次の注意事項ですが、異世界の言語を理解できるようにして転移させますので、言葉は大丈夫です」とうさぎは説明を続ける。
「はい、それもわかりました」と私はまた適当に返事をした。
「・・・本当に気をつけてくださいね?」うさぎは不安そうに私をみつめる。
「はーい」と私はまた適当に返事をした。
「・・・それでは、最後の注意事項ですが・・・」
うさぎは言いにくそうにしている。
・・・なんだろう?すごく嫌な予感がする。
「最後の注意事項はですね、異世界だからといってハメをはずさないように気をつけてくださいね。」
うさぎは言いにくそうにしながら注意事項を説明した。
「はい、わかりました。気をつけます」と私は適当に返事をした。
うさぎはまた不安そうに私をみつめる。
・・・少しだけうさぎのことがかわいそうになってきた。というかこのうさぎすごい表情豊かでかわいいな。うさぎって表情豊かなんだなー
「では今から黄色い粉をあなたに振りかけます。目を閉じてください」
「は、はい。わかりました」
私は目を瞑った。黄色い粉!?私は少し身構えた。
するとすぐに黄色い粉が私の身体に降り注ぎ始めたのがわかった。
「はい。もう目を開けていただいても大丈夫ですよ」とうさぎは言った。
私はゆっくりと目を開けた。
すると目の前には、草原が広がっていた。
「さあ、異世界ですよ!一緒に楽しみましょう!」とうさぎが楽しそうに飛び跳ねている。
「はい、楽しみましょう!」と私も少しうきうきした気分になった。
「異世界での注意事項は覚えてらっしゃいますか?」とうさぎが心配そうに私に問いかける。
「・・・・てへ」私は笑ってごまかした。
「てへじゃないですよ!本当に気をつけてくださいね!」とうさぎが心配している。
「・・・はーい」私は適当に返事をした。
「それでは、ご案内させていただきます。」私はうさぎについていった。
草原をしばらく歩いているとうさぎが話しかけてきた。
「そういえば、あなたのお名前をまだ聞いていませんでしたね。教えていただけますか?」
私は少し考えてから答える。
「私の名前は・・・竹内聡美です」
「ありがとうございます。それでは、竹内さん。まずは、あちらの村に行ってみませんか?」とうさぎが指さす先には、小さな村があった。
「はい、行ってみましょう」と私は答えた。
私とうさぎは小さな村に向かって歩き始めた。そして、村の入り口には看板が立ててあった。
『ここは象の村です。象の、象による象の為の村です。』と書かれている。
・・・象の村?どういうことだろう?とりあえず中に入ってみるか。私とうさぎは、象の村の中に入ることにした。
中に入ると、そこは象の置物や象のオブジェが沢山あった。
「あのー、すいません」と私は近くにいたメスの象に話しかけてみた。
「あら、人間が象に話しかけてくるなんていい度胸ね?」
メスの象は私を睨みつけた。
「え?あの、すいません。ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」私は少し怯えながらも質問した。
「なにかしら?」メスの象は不機嫌そうに答える。
「・・・あの、本当に象ですか?」私は目の前に居るメスの象に質問した。
「ええそうよ!どこからどう見ても立派な象じゃない!」とメスの象は自慢げに言った。
・・・確かに立派な大きな鼻をしているけど・・・。私が困っていると横にいたうさぎはメスの象に話しかけた。
「象のお姉さん、すっごく綺麗なお鼻ですね!羨ましいです!」
「あら、あなたなかなか見る目があるじゃない。」とメスの象は少し機嫌が良くなったようだ。
「あの、象のお姉さん。こちらの女性は異世界からいらっしゃったのです。何か象の村について教えていただけないでしょうか?」とうさぎが説明した。
「あら、そうだったのね。別に教えてあげてもいいけど、何を知りたいのかしら?」メスの象は得意げな表情で聞いた。
「はい、あの・・・まずはどうやって寝ているのか教えていただきたいです」と私は答えた。
「まあ、そんなことでいいなら教えてあげるわよ」メスの象は少し気怠げに話し始めた。
「まず、象は立って寝るのよ」とメスの象は当然のように答える。
「え!?立ったままですか!?」私は驚いてしまった。
「そうよ?知らなかったのかしら?」とメスの象は不思議そうに私をみつめた。
「・・・はい、知りませんでした。ありがとうございます!」私はお礼を言った。
「いいのよ、これくらい」メスの象はまんざらでもない様子だった。
「あの・・・うさ、ドドちゃん?象が立って寝るのって普通なの?」私は小声でうさぎに聞いた。
「はい、普通ですね」とうさぎは答える。
・・・そうなのか、異世界だからそういうものなのかな?でもまあ、象が立って寝ていることなんてどうでもいいか・・・。私はあまり深く考えないことにした。
「他には何か聞きたいことはあるかしら?」メスの象は少し得意げな表情で言った。
「いえ、ありません。ありがとうございました」と私はお礼を言った。
「いいのよ、また何か聞きたいことがあったらいつでも聞いてちょうだい」メスの象は笑顔で答えた。
「はい、ありがとうございました」私とうさぎはもう一度メスの象にお礼を言って立ち去った。
・・・さてと、うさぎに聞いておかなければならないことがある。
「ねえ、ドドちゃん?」私はうさぎに問いかけた。
「はい、なんですか?竹内さん」うさぎは笑顔で答えた。
「話す兎や象がいるってことは、他の動物もいるってことだよね?」
「はい、もちろんですよ!」うさぎは答える。
「具体的にはどんな動物がいるの?」と私は尋ねた。
「そうですね・・・例えば、馬とか犬とか猫とかですかね。」
「なるほど・・・人魚は?小人は?妖精は?ドラゴンなんかもいる?」私は思いついた空想上の生き物を次々と挙げていく。
「はい、いると思いますよ」うさぎは答える。
「他にはどんなのがいるんだろう?楽しみだなぁ!」私はわくわくしてきた。
「竹内さん、まだまだ沢山いますよ!楽しみにしてください!」うさぎは得意げだ。
「そうだね!楽しみ!」私は笑顔で答えた。
「竹内さん、これからどうしますか?」うさぎは私に問いかける。
「そうね・・・まずはこの世界の情報を集めたいんだけど・・・」と私が言うと、うさぎは目を輝かせて言った。
「でしたら近くの森の奥の大きな木に聞きに行きましょう!」
「え?大きな木に?どうして?」私は不思議に思って質問した。
「はい、木は長生きですから色々なことを知っています」
「そうなの?じゃあ行ってみようかな」と私は答えた。
「はい!そうしましょう!」うさぎは元気よく飛び跳ねている。
私はうさぎに連れられて森の奥の大きな木のところにやってきた。
「あのーすいません」とうさぎが話しかけると、大きな木は返事をした。
「おや、うさぎが私に何の用だい?」
「はい、聞きたいことがありまして」うさぎは真剣な表情で言った。
「なんだね?言ってみなさい」大きな木は言った。
「いえ、私ではなくこの女性からお聞きください」とうさぎが私を紹介する。
「ふむ、そこのお嬢さんは?」大きな木が私に尋ねる。
「はい、私は異世界からやってきました竹内聡美と申します」私は緊張しながらも自己紹介をした。
「なるほど、異世界から来たのか・・・それで聞きたいこととは?」大きな木は優しい口調で尋ねた。
「はい、まずはこの世界のことを知りたいのです」私は答えた。
「ふむ、この世界についてか・・・」大きな木は少し考え込んだ後、ゆっくりと話し始めた。
「この世界は君のいた世界とは違う世界だ。そして魔法が存在する世界でもある」私は黙って聞いていた。
「・・・それだけですか?」と私は質問した。
すると大きな木は大きな声で言った。
「それだけだ!以上。世界はシンプルなものさ」
「え、えっと・・・もっと詳しく教えていただけると嬉しいのですが・・・」私は困っていた。
「うーむ、これ以上のことは知っても無駄さ。それよりも、どうやって死ぬかを考えた方が賢明だろう」と大きな木は大きな声で言った。
「え?死ですか?」私は驚いてしまった。
「もちろんだ!死はこの世で一番不思議なことだからね!」大きな木は大きな声で言った。
「・・・わかりました、ありがとうございます」私はお礼を言った後、その場を後にした。
・・・変なところに来ちゃったな、でもなんか楽しいかも!私は前向きに考えることにして歩き始めた。
するとうさぎが話しかけてきた。
「竹内さん、これからどうしますか?」うさぎは嬉しそうにしている。
「うーん、ドドちゃん、私お腹空いて来ちゃった」と私は答えた。
「わかりました!それでは何か食べに行きましょう!」うさぎは張り切っている。
「うん、そうだね。でも私お金持ってないよ?」と私は心配になって言った。
「大丈夫です!私の家に案内しますよ」
とうさぎは自信満々の様子だ。
「そっか、ドドちゃんのお家で食事させてもらうんだね?ありがとう」と私は感謝を伝えた。
「いえいえ!さあ、こちらです!」うさぎは嬉しそうに案内してくれる。
しばらく森の中を歩いていくと、小さな黄色の家が見えてきた。
「ドドちゃん、ここがあなたのお家?」私は尋ねる。
「はい!そうです!」うさぎはニコニコしながら答えた。
「へぇー可愛いおうちだね」と言って私は家の中に入る。
家の中は意外と広くて綺麗だった。私はうさぎに勧められるまま小さい椅子に座る。するとうさぎがキッチンと思われる場所に行き、何かを作り始めた。
「ドドちゃん、これ何?すごくいい匂いがする!」私は鼻をクンクンさせながら言った。
「これはぶぶるという食べ物です!美味しいですよ!」とうさぎは言った。
「へぇー、楽しみだなぁ!」私はわくわくしてきた。
しばらくすると、うさぎは小さなお皿の上に乗ったぶぶるを私に出してくれた。
「いただきます!」と言って私はぶぶるを口に運ぶ。すると口の中に懐かしい味が広がった。母に抱かれていた頃の記憶が蘇る。私は夢中になってぶぶるを食べた。
「ドドちゃん、このぶぶるすごく美味しいよ!」と私はうさぎに感謝の気持ちを伝えた。
「当然です!これは私が作ったのですから!」とうさぎは自慢げに言った。
「本当!?すごいねドドちゃん!天才だよ!」私は心からの賛辞を贈った。
「ふふ、ありがとうございます」うさぎは嬉しそうだ。
私はあっという間にぶぶるを食べ終えた。とても幸せな気持ちになった。
「ごちそうさまでした!本当に美味しかったよ!」と私は感謝の気持ちを伝えた。
するとうさぎが近づいてきた。そして私の膝の上に乗り、甘え始めた。
「・・・え?どうしたの?」と私は困惑する。
「あ、いえ、特に意味はないのです!なんとなく甘えたくなってしまって・・・」とうさぎは恥ずかしそうにしている。
「そうなんだ、じゃあもっと甘えてもいいよ?」私は笑顔で答えた。
「はい!ありがとうございます」とうさぎは嬉しそうに言った。
それからしばらくの間、私はうさぎを撫で回した。
「ふふ、ドドちゃん可愛い」私は自然と笑みが溢れる。
うさぎは気持ち良さそうに目を細めていた。モフモフっていいなぁ。
「ドドちゃん、もっと撫でてもいい?」と私は尋ねる。
「はい!好きなだけどうぞ!」とうさぎは答えた。
私は時間を忘れてうさぎを撫で続けた。そして気づけば夕方になっていた。
「ねえ、ドドちゃん、明日仕事だから帰らなくちゃ」私は名残惜しいが帰ることにした。
「はい、わかりました!では青い粉を取ってきますので少しお待ちください!」
「うん、ありがとう」
しばらくして、青い粉を持ってきたうさぎは私に言った。
「・・・あの、竹内さん、また来てくれますか?私、寂しいのです・・・」うさぎは悲しそうな顔で言った。
「うん、また来るよ!」と私は笑顔で答えた。
「本当ですか!?ならまた迎えに行きますね!」
「うん!」
「それでは目を瞑ってください!」うさぎがそう言ったので私は目を閉じた。すると青い粉が私の身体を包んだ。そして次の瞬間、目を開けるとそこは自分の家の中だった。
「あれ?戻ってきたのかな?」私は不思議に思った。
するとテーブルの上に手紙があることに気がついた。
『竹内さんへ、今日あったことは内緒ですよ』とうさぎが書いたであろう辿々しいメモが置いてあった。