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ドラゴンの落とし物

「ちょっとそこ座れ、じぶんら」


「……座ってますけど」


「正座や!!」


「ええ……」


 めちゃキレてはるやん。


 なんなん急に。あれか? 月のものが来はったんかな?


 しゃあなしに俺とアスタロウは椅子から降りて床に正座する。アスタロウは聖剣が邪魔して座りづらそうだ。それにしてもなんなんだろう、急に。


「じぶん頭おかしいやろ」


「……さーせん」


 とりあえず誤っておくに限る。いったい何が彼女の逆鱗に触れたのかは分からないが、まあ、重い人は本当につらいって聞くしな。こんなことならアンススにもうちょっと小屋にいてもらうんだった。


「『覗くな』言われたらほんまに覗かんのかじぶんら」


「ええ? それは……言われたら守るもんちゃうんすかね……」


 どういうこと? 『覗くな』って言われたから覗かなかったのにそれに対して怒ってんの? いくらアレが重いからってそういうキレ方はないんじゃないのかな。


「じゃあなんや、じぶん『死ね』ゆわれたら死ぬんかいな」


「それ、は……」


 なんだよめんどくせぇな。ガキみたいなこと言いだしたぞ。これは長くなりそうな予感がするわ。


「え、じゃあ逆に聞くけど、じぶんら気にならんの? 材料も道具もないのにどうやって鎖帷子作ってんのかな~? とか。普通気になるやんなあ?」


 全然『逆』じゃないと思いますけど。


「じぶんらが覗いてくれんと話が進まんやんなぁ!?」


「そんなん言われましても……『するな』ゆうこと勝手にやって、呪いでキン〇マ四つになったりしたら困りますやん」


「そんな呪いあるわけないやろッ!!」


 つい最近あったんスよ。


「まあええわ、それは置いといてや。二ヶ月もの間女に食わせてもろて、じぶん情けないとか思えへんのか」


「それは……思いますけど、でも『女に食わせてもらうのはおかしい』とか、そういうジェンダーロールを気にして『恩返しさせてくれ』いうんを断るんも、なんか、ちゃいますやん? 今そういうんはホンマあきませんって」


「何がジェンダーロールじゃボケ!!」


 怒鳴るなよ。なんかだんだん腹立ってきた。そもそもこいつの方から押しかけてきて恩返しするって言ってきたのにそれを受け入れたらこんなキレ方するなんてあまりにも理不尽だろ。


「もうええスわ」


 俺は立ち上がる。もともと小柄な女性なので、立ち上がって対等な立場になれば当然ながら俺の方がセリカさんよりも背が高い。こちらが強気に出ることで向こうも少したじろいだようだった。


 そもそも何か要望があるならそっちからはっきり言ってくればいいだろうがこの「察してちゃん」が。


 「覗くな」って言われたんだから覗かないに決まってるだろうが。俺は何も間違ってねえわ。ただでさえ言われたことを守らないでイルウがこの間悲惨な目にあったばっかなんだから。


「そんな文句ばっか言うならさっさと出てけばいいだろ。別に恩返しを強要してんじゃねえんだから」


「あっ、ちょっ……」


 頭にきた俺は暴力こそ振るわないものの、若干強引にセリカさんの肩をぐいぐいと押して小屋の外に押し出そうとする。しかしそれを止めたのはアスタロウだった。


「まあまあ、そう興奮するでない。よくあるちょっとした行き違いじゃ」


 こいつも正座させられてたのに、さすが三百年以上も生きた奴は余裕があるというか。というかそもそもずっと気になってはいたんだが……


「アスタロウ様……またも私をかばって助けてくれるとは……」


 そもそもアスタロウがこいつを助けたってのは何のことを言ってるんだ? 俺と出会う前の話なのか?


「儂がおぬしを助けたというのは、いったいいつの話なんじゃ」


 そう。そこが気になる。火の鳥鳳凰編みたいに「あの時助けていただいたテントウムシです」とか言われたらさすがに分からんけども。


「……私は、あの時助けていただいた、セリカです」


「だから誰なんだよセリカって!!」


 思わず大声が出てしまった。なんか認識の齟齬があるというか、向こうは「セリカ」だけで通じると思ってるみたいなんだけど、俺もアスタロウもそれじゃ思い出せねーってのになんでそれが分からないんだ。


 一応、初対面の時から名前は聞いている。だがその「セリカ」ってのが誰か分からないんでここまで話が拗れているんだ。セリカさんは俯き、少し考え込んでから顔を上げた。


「あの時、ドラゴンに犯されそうだった私を、アスタロウ様はかばってくれました」


 ドラゴンに?


 えーっと……


「車の?」


「はい」


「ちょっと待ってね」


 少し情報を自分の中で整理する。そんな名前だっけ? あの車、なんか202とか、そんな名前じゃなかったっけ? っていうかドラゴンカーセックスの話だよな?


 たしかに。


 たしかにあの時アスタロウは、車を犯そうとする邪竜メルポーザとの間に割り込んで、車の代わりに犯されていた。


「えっ? あの時の車が代わりに犯されてくれたアスタロウへの恩返しとして手編みの鎖帷子を作りに来たってこと?」


「はい。最初から言ってるじゃないですか」


 分かるかボケ。


 トリッキーすぎるだろ。恩返ししに来るのはせめて有機物以上にしてくれ。


「なるほど、そういうことじゃったか。しかし礼には及ばん。儂は儂の心の赴くままに行動したに過ぎん」


 どっちかっていうと性欲に突き動かされて動いてたように記憶してるしな。


「しかし、そのためにわざわざグラントーレにまで鎖帷子を作りに?」


「そうですが、それだけではありません」


 それだけじゃない? どういうことだろう。


「恐ろしい化け物が、この世に産み落とされてしまったのです」


 お前以外にか。


「その化け物は、勇者様の命を狙っています。そのことをお知らせするためにここまで来たのです」


 えっ……


 二ヶ月も何やってたのこの馬鹿は。

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