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秘密

「待てー、アスタロウをかえせー」


「心がこもってない!」


 そんなこと言われてもさあ、イルウ。


 俺は先を走るカルアミルクの方を見る。


「た、助けてくれえ!!」


 これが女の子ならやる気もわいてくるよ。この際だからチュートリアル王女のイリユースでもいいよ。でもさ。実際に攫われてるのはアスタロウなわけよ。


 ケツの穴に聖剣の鞘の突き刺さった特殊性癖者の中年男性を人質に取るってさあ……なんというか、気が利いてないよな。あのカルアミルクって奴。こんなんじゃやる気もわかないつうの。


 そもそもあいつが変なことしなけりゃ俺がこんなに苦労することもなかったはずなのに。あ、でもそうなるとこの世界にも呼ばれなかったことになるからそもそも死んでおしまいだったのかな? まあいいや。


 そうこうしてるうちに追いついちゃったよ。


 まあしゃあないか。


「ぜはーっ、ぜはーっ、ちょ……ちょっと、待って……」


 おっさん一人抱え上げて走ってるんだから。そりゃ追いつかれるよ。


「ちょっと……ほん……オェッ」


 吐かないでくれよ、汚い。


「しかしこいつも計画性がないな。こんな敵の目の前で疲れ切った姿を晒すとか、殺ってくれって言ってるようなもんだろ」


「ちょっ、ホントに……」


「あ、あー……ケンジ、ちょっと」


 聖剣を振り上げたところでイルウが待ったをかけた。まあ、複雑な立場ではあるけど、イルウにとってはこいつは仲間だからな。でも俺としてはここで始末した方が圧倒的に後が楽になるのも事実。どうしたもんかね。


「ちょっと、カルナ=カルア。この後どうするつもりなの?」


 イルウが俺に聞こえないように少し離れた距離で話しかけてる。まあ、少し待つか。疲れた演技して、罠にかける気かもしれないしね。


「あ、悪魔を……悪魔を召喚してあるんだけど」


「その悪魔でケンジを倒すつもりなの? 勝算はあるの?」


「……帰っちゃった」


「は?」


 正直周りが静かだから丸聞こえなんだよな。結局切り札も無くしちゃってるのか、この魔族。少し可哀そうになってきたわ。


「お前らが一週間も待たせるから……ついさっき、砦に戻ってきたら、もう、いなくて……」


 え、なに? 俺が悪いのこれ。


「じゃあ……もう失敗じゃん。どうすんの? 謝って帰ってもらう?」


 勇者に謝って帰ってもらう四天王ってどうなのよ。とはいえ、体が弱ってる時っていうのは心も弱ってるもんだから、そうなっても仕方ない気はするけどね。


 ところが、カルアミルクの心はまだ折れてないようだった。アスタロウの身体を担いだままこちらを人睨み。あごの先からはまだダラダラと汗が滴っているが、心はまだ折れてないようだ。


「もう一度召喚しなおす」


「は? そんなぽんぽん召喚できるもんなの?」


 イルウの言うとおりだろう。一回怒って帰っちゃったのにもう一度来てくれるもんなのか?


「正当な手順を踏んでグリモワールに書かれている通りに召喚すれば拒否はできない。呼び出すところまでは出来るはずだ」


 呼び出されてもまたすぐに帰られて終わりじゃねーのかよ。てか絶対そうなる気がしてきたぞ。もうネタ振りだろそれ。


「前回とは状況が違う。目の前に勇者がいるんだ。今度はこの機を逃さずに悪魔を勇者にぶつけられる筈だ」


 どうかねえ。そう上手くいくかどうか。というか、そこまですることが分かってるんなら悪魔の召喚なんかさせるワケないだろ。今お前が言った通り目の前に勇者がいるんだからな。


「イルウ、お前はその間勇者の足止めをしてくれ」


「えっ!?」


 そう来るのか。


 とはいえ結局イルウは魔王軍だからな。他の四天王の目の前で魔王軍を裏切るような真似は出来ない。彼女の立場は俺も分かっているつもりだ。


「くっ……仕方ないわね……」


 そう言ってイルウは俺とカルアミルクの間に立った。やっぱり衝突は避けられないのか。


 とはいえだ。


 聖剣はあれからずっと俺の右手に握られてる。つい先ほど、どうやってもイルウでは俺に勝てないと分かったばっかりなのにいったいどうやって足止めするというのか。


「頼む、イルウ。十分……いや、五分でいい。ケンジを足止めしてくれ。それだけあれば悪魔を召喚できる」


「簡単に言ってくれるわね」


 カルアミルクに背を向けたまま悪態を吐くイルウ。そんな彼女を一人残してカルアミルクはアスタロウを担いだまま廊下を奥に進んでいった。


 本当に、「簡単に言ってくれる」だぜ。


 聖剣の力を知らないわけじゃないだろうに。しかも聖剣の新しい力を引き出すことが出来たために魔眼も利かなくなっている。うぬぼれが過ぎるような発言ではあるが、本気を出せば一分ももたないだろう。むしろ殺さないように手加減する方が大変なくらいだ。


「アヌスカリバー、今からダークエルフと戦うけど、殺さないように手加減してくれよ」


『その呼び名は気に入らないが、まあ何とかするわ』


 イルウはこの逆境をどう処理するつもりなのか。


「……私の胸、どうなってるか気にならない?」


 気になる。


 唐突な話の転換だが、気になる。


 既に既知の情報だが、イルウはいわゆる男の()だ。そしてトップスはいつもビキニみたいな薄着なんだが、見た感じどうも控えめながら女性のようなふくらみがある様に見えて仕方ない。


 まさかこの世界に生理食塩水を注射したりシリコンを入れたりする豊胸の技術があるようには思えない。ではあの胸はいったいどうやって?


『ケンジ、早くいかなきゃいけないんじゃないの?』


 待て、アヌスカリバー。急がば回れということわざもある。たとえここでイルウの胸の秘密を解き明かしたとしてもすぐに倒してカルアミルクを追いかければそう時間はかからない筈だ。


『おっぱいの秘密だけ聞きだして速攻倒すの? ……あんたクズね』


 違う! これは知的好奇心だ! 人がサルから進化した故に避けられない万物の霊長たる本能なのだ。


『結局おっぱいが好きなだけでしょう。それも男のだっていうのに』


 男じゃない。男の娘だ。


 いいか。俺は勇者である前に一人の冒険者なんだ。未知の事柄に対して前に前にと突き進んで謎を解き明かさなければならないという使命がある。その冒険心を捨ててしまったら、俺はもう冒険者でも何でもない。


 人類の発展のために、俺はここでおっぱいの秘密を解き明かさねばならないんだ。


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