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イルウの目的

 聖剣とか言っても所詮は剣だ。人間に逆らうことなどできない。


 だがあまりにも大声で叫んで最後には泣き出したので今回はとりあえずアスタロウのケツにしまうのは見送った。どうせ叫んだところで俺にしか聞こえないがな。


『ひっく……う……ねえ、嘘だよね? 私が中年男性のケツの穴にしまわれてるだなんて……』


「ああ、冗談だよ。いくら何でもそんな非常識なことあるわけないだろ。ちょっとからかっただけだ。いつも鞘にしまってる」


『よ……よかった……』


 まあその鞘は中年男性のケツの穴の中にあるんだけどな。知らぬが仏という事もある。


 それはともかくだ。


「話が中断しちゃったけど、なんでイルウは魔王に仕えてんの?」


「ああ、うん。実は、魔王様が性別を後天的に変更する秘術を知っているらしいんだ」


 マジか。


 そこのアホ聖剣みたいにハサミでちょん切るとか言い出すんじゃないよな。


『……アホじゃないもん』


 なんか急に聖剣の精神年齢が下がった気がするな。いくらかわいい女の子風の喋り方してもお前が初登場の時『命を差し出せ』とか言ったことは忘れないからな。


 それはそれとして性別がどうにかなるって事だと話が変わってくる。


 何の話が、ってもちろんこの物語のヒロインが、だ。


 イリユース、アンスス、エイメと、正直言ってこの世界に来てからろくな女に会ってないからな。


 それに引き換え、イルウの唯一の欠点は性別で男で、俺のケツを狙っている、という事だけだ。まあ、それが一番問題なんだけど、そこが解決されて女になれるってんなら話は別だ。


「だから私は、魔王様に恩を売って『ふたなり』になるのが目標なの」

「そこは女だろがああぁぁぁ!!」


 ああああおかしいじゃろがい!! なんでそこで「ふたなり」なんだよ!! そんなところでよくばりセット取ろうとするんじゃねえよ!!


「ど、どうしたのケンジ……」


 どうしたのじゃねえだろうが。今の自分の発言、客観的に見ておかしいと思わねえのかよ。もしかしてアレか、そこまでして俺を掘りたいのか。


「落ち着け、勇者よ。逆に考えるんじゃ。『おちん〇ん一本分お得だ』と考えるんじゃ」

「死ね!!」


 そりゃお前にはお得かもしれんけど俺は嫌なんだよ!!


「お、落ち着いてケンジ。私も『女になる方法』をいろいろ探してみたけれど見つからなくって。でも『ふたなりになる方法』なら見つけることが出来て。もう他に方法が無いの」


 むうう、そう言う事なら、仕方ないと言えば仕方ないのか。しかしそうなるとたとえ性別が変更できたとしても常に背後に気を払って生きていかなければならないのか。


 ってナチュラルに俺とイルウが結ばれる前提で話してるけど相当キモいな、俺。一旦落ち着こう。よくよく考えてみたらイルウがどう生きようがそれはイルウの人生だ。俺には関係ない。


「もし……さあ」


 首を捻って考え込んでいると、イルウが俺の袖を引っ張り、上目遣いでこちらを見ながら話しかけてきた。


 本当に外見的には少女にしか見えない。それもとびきりの美少女だ。潤んだ瞳と赤く染まった頬はそれだけで本能に訴えかけてくるなにかがある。


「もし私がふたなりになったら……その時は、ケンジのお嫁さんにしてくれる?」


 ごめんちょっと即答できない。


 いや分かるよ? これが正解じゃないことくらい。


 多分、輝くような笑顔で「俺なんかでよければ」とでも言えば正解なんだろうな。もしかしたら「たとえそのままでも俺は君が好きだ」なんて言えたら、さらにその上の正解なのかもしれないけどね。


 でもね、俺は俺のケツを守りたい。


 『ふたなり』って言葉が出た時に「あ、これ違うわ」って感じがした。俺は俺の本能に従う。今、俺の中のもう一人の俺が「気をつけろ、ケンジ」って言ってるんだ。「ラブコメのラストシーン風のいいセリフっぽいけど言ってること無茶苦茶だぞ」って警鐘を鳴らしてるんだ。


「いつまでそこでラブコメやってんだ」


 ラブコメじゃねーよ。


 声に振り向くとそこには浅黒い肌に一対の角を頭部に備えた魔族の男が、アスタロウの体を抱えて立っていた。


 すっかり忘れてたわ。


 ここにはもう一人魔族が。カルアミルクとかいう奴が罠を張って待ってるんだった。


「むおお、何するんじゃ、放せ!!」


 というかあいつ、アスタロウを捕まえてどうするつもりだ。


「暴れるなじじい、焼き殺すぞ」


 ああ、そういやこいつ、なんか炎を操る能力持ってたな。ファーストコンタクトじゃ雑魚そのものだったけど、あんまり見くびるのも危ないか。イルウみたいになんか対策してきてるかもしれないからな。


「いいかケンジ、こいつの身柄を返して欲しくば砦の奥まで入ってこい。熱烈に歓迎してやるぜ?」


 カルアミルクは俺に向かってそう言うと高笑いをしながら砦の内部に入っていった。


 ああ、人質って事か。アスタロウかあ……


 まあ……いいか。


「ちょ、ちょっと! 追わないの? ケンジ!」


 ええ? だって……めんどくさくない?


「助けに行かないと! 何されるか分からないよ!」


「何されるかって……何を」


「何って……」


 イルウはそのまま黙り込んでしまった。


 というかさあ。なんであいつを人質にとるわけ? あいつに人質としての価値があると思ったのか? 鞘だぞ。


 逆にあいつを人質にとれば俺が追ってくるに違いないと思われてること自体がムカつくわ。なに? 傍から見てると俺とアスタロウそんなに仲良さそうに見えんの?

 むしろあいつと仲良いと思われたくないから助けに行きたくない、まであるわ。


(どうしよう……多分カルナ=カルアの任務的にはアスタロトの身柄を手に入れてこれで完了なんだろうけど、わざわざケンジを呼んだってことはついでにケンジも始末したいって事なのよね……私が協力しないわけにはいかないわね。なんか、さっきのケンジの反応も微妙だったしなぁ……)


 イルウもなんか渋い顔してんな。まあこの一週間一緒に暮らしてた見知った顔だしなあ。


「ケンジ……仲間を見捨てるの……?」


 仲間……うん、まあ……仲間ではあるか。助けに行くか。

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