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森の中

「うわ……本当に勃〇してる……キモ」


「み、見るな!!」


 心底汚いものを見るような目でコンコスールを睨みつけるアンスス。コンコスールは慌てて股間を隠したが時すでに遅し。


 思わぬところで俺の「勃気を感じ取る能力」が炸裂してしまったぜ。


 とまあ、それは置いておいてだ。そろそろ真面目な話をしよう。


「それで『聖剣狩り』の事は何か分かったのか?」


 俺が訊ねるとアンススは快く答えてくれた。


「大したことは分からないけどね。街道がこの村の近くで森の中を通る部分がある。そこを通るときに帯剣している人間がいると魔族が現れるらしい。あれこれ調べるよりも直接行ってみた方が速そうだからね。早速今夜行ってみるつもりだ」


「バカ! お前暢気に話してんじゃねえよ!」


「そうやってまた私の事をバカ扱いする」


 なんかコイツ適当に喋らせておけばどんどんアンススとの仲が険悪になっていくな。そんな小学生みたいな愛情表現しかできないんじゃ彼女との仲が縮まらないのも納得だわ。


「俺達は別にそっちの手柄を横取りするつもりはないぞ。もちろん協力はする」


 当然だ。王家のサポートのおかげで資金は潤沢にあるし、名声も別にいらん。欲しいのは情報だ。


「はっ! 殊勝な心掛けだな。だがな、お前みたいな素人がついて来て足引っ張られるのはごめんなんだよ! たまたま聖剣を手に入れただけのシャバゾウが出しゃばってんじゃねえ」


 聖剣聖剣って段々腹立ってきたぞ。俺がこんなもん欲しくて手に入れたとでも思ってんのか。


「じゃあ、お前も聖剣抜いてみるか?」


「あ?」


 俺がどれだけの業を背負って「勇者」という職業をしているのか、こいつにも味わってもらおうじゃないか。


「アスタロウ、ケツを」


「うむ」


 そう答え、アスタロウはおもむろにマントをたくし上げ、背後をコンコスールに見せる。


「こっ、これは……」


 当然ながら、コンコスールの視界には見事にケツの穴にブッ刺さった聖剣がその悩ましくも恐ろしい姿を晒すこととなる。


「抜いてみろよ、聖剣をよ」


「ぐっ……」


 苦悶の表情を浮かべるコンコスール。


「もしお前にそれが抜けるなら、勇者の座を譲ってやってもいいぜ」


 っていうか貰ってくれ。アスタロウごと。俺はいらん。


「む……無理だ。俺にはとても抜けん」


 諦めるなよ。試しにちょっと抜いてみてくれよ。


「儂からも頼む。たまには別の人に抜かれてみれば、新しい刺激となるやもしれん」


 貪欲だなコイツ。


「数々の無礼、謝罪する……たしかに、お前は勇者だ」


 そんな簡単に認めるなよ! やってみなきゃ分からないだろう! いいから抜けよ!!


 とはいえ、まあね。だいたいこうなるような気はしてたよ。イキりやがってこのシャバゾウが。


「ふふ、これでコンコスールもケンジ君の凄さが分かったかしら」


 なんでお前がそんなに自慢げなんだよ。


「とにかく、暗くなる前に森に移動したいから、準備を始めましょう、ケンジくん」


 おお、もう今日から行くのか。善は急げとは言うものの、こういうところがハリネズミ級たる所以なのかもしれないな。



――――――――――――――――



 昼なお暗い森の中。日の光は木の葉に遮られ、人と獣の区別もつかない。いや、実際にその森の中で倒れた朽木に座っているのは人とも獣ともつかない化け物であった。


 そのシルエットは大柄な人間の男性のようではあったが、前身は金色の体毛に覆われ、黒い縞の模様のある虎男。頭部は完全に獣のそれである。


「調子はどうだ? ヴェルトレ」


 その虎男に言葉を投げかける者がいた。


 木陰の暗がりの中で不気味に輝く赤い瞳。褐色の肌は人と変わらないように見えるが、頭部には大きな一対の角が生えている魔族の男。魔王軍四天王筆頭、カルナ=カルア。


「……その名はもう捨てた。今の俺はヴェルトレではない」


 不意に賭けられた言葉ではあったが、虎の獣人の男はその獣の五感によって気配を感じ取っていたのだろう。視線も合わせず、驚いた様子もない。


「『勇者』が、パンテの村に現れたらしいぞ。他にも何人か冒険者を引き連れてな。近いうちにこの森に来るだろう」


 『勇者』という言葉に反応してか、虎男はようやく後ろに振り向いた。


「ということは、『聖剣』もか」


 カルナ=カルアはその問いかけには応えなかったが、不敵な笑みをもって肯定の意とした。


「見事聖剣を奪取できれば、お前の望んでいる魔王軍への復帰には十分すぎる手土産になるだろう。俺は今は別の任務を与えられているから手伝うことは出来んがな」


「十分だ」


 虎男はおもむろに立ち上がった。その身の丈は軽く二メートルを越える。鍛え上げられた腕は丸太の如き太さを備えており、前腕から先は獣の姿を色濃く残し、ジャックナイフのような鋭い爪を纏っている。


「お前の情報だけで十分だ。勇者は俺と、その部下だけで討つ」


 自分を鼓舞するための言葉ではない。確かな実力に裏打ちされた確信がある。


「最近、実力者を育て上げるための養成所を作っているらしいな……とすれば、そこの精鋭ということか」


「お前は黙ってみていろ。手柄を横取りされたんじゃたまらんからな」


 自分が負ける姿など想像すらしない。傲岸にして不遜。


「ふっ、いいだろう。元四天王の実力、十分に見せてもらうぞ」


「一一俺の神経を逆なでするようなことを言うな。ヴェルトレも、四天王も、所詮は過去の物。新しくよみがえった俺にはもっとふさわしい名がある」


 木々の中、彼の他にも数名の(つわもの)の気配があった。


「我らトライアヌスが、勇者を下し、聖剣を手に入れる!!」

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