沙汰
「ぐうう、ま、待ってくれ! 全て、全て話すから許してくれ!!」
「ま、待て! 勝手なことを話すな!!」
襟首を掴まれ、テーブルの上にうつぶせに押し倒された方が、俺達と共にダンジョンから脱出した伯爵。もう観念して全ての真実を話そうとしているようではあるが、屋敷から来た伯爵がそれを制止しようとしている。
当然、黒幕の伯爵としては真実を話されたくない。そしてドッペルゲンガーの方はもちろん殺されるくらいなら真実を明らかにした方がマシ、ということだろう。しかしここでその争いに参戦した者がもう一人いた。
「ダンジョンに監禁されてたほうが本物に決まってるでしょうが!!」
伯爵夫人フェンネだ。
「本物の伯爵になんてことするの! すぐにその手を放しなさい!!」
「え? えっ!?」
気迫に押され、そして「もしこっちが本物ならば」という考えも頭をよぎり、アンススは手を放した。彼女はダンジョンにいたのがどちらかは分かっているが、どちらが本物の伯爵かは分かっていないので当然の反応だ。
「さあアンスス! 偽物はあっちよ! 重税と圧政で領民を苦しめていた偽伯爵を成敗して! 勇者も。ホラ!!」
「まあ待ってよ」
俺はごほんと咳ばらいを一つする。
「ダンジョンに囚われている本物の伯爵を救出して館にいる偽物を殺す。それがあんたがアンススに『上書き』した内容だったな」
「ぐっ……」
こいつはアンススのアホさ加減をある程度知っていた。少なくとも最後に話しかけた奴の情報に記憶が上書きされることを知っていた。それを悪用してイーク、というか伯爵の依頼を利用しようとしてたんだ。
ただ、そのアホさ加減を知っていたからこそ保険として俺達にもギルドを通して正式な依頼をしたんだろう。
「ど、どうするの? どうすればいいの? ケンジくん……」
アンススは混乱しきっているようだ。無理もない。
「アンススでも勇者でも何でもいいわよ! 本物の伯爵が救助されたのよ! 早く圧政を敷いていた偽伯爵を殺して!!」
「いいや、ワシらへの依頼は『偽伯爵の殺害』ではなく『真実を明らかにする』ことじゃ。依頼を果たさせてもらうとしよう」
ん? え? ちょっとアスタロウ?
「事の発端は伯爵が魔族と接触し、ドッペルゲンガーの存在を知ったことにある」
ちょっとアスタロウ? 今俺のターンなんですけど?
「領民の支持は失いたくないが蓄財と贅沢な暮らしに憧れていた伯爵は考えた。『自分そっくりのドッペルゲンガーを用意し、全部そいつのせいにしてやりたい放題できるんじゃないか?』とな」
あっ、ちょ、俺が言いたかったやつ。
「そんなわけで『ある日を境にまるで人が変わったように』圧政を敷き、ある程度満足したら冒険者にドッペルゲンガーを救出させ、それと入れ替わり『悪性を敷いていた偽伯爵を倒した』という体で元の生活に戻り、全てを有耶無耶にする。考えていたのはそんな所じゃろう」
くそ、全部言いやがったコイツ。
だが所詮はそこまでよ。この事件には『もう一人の黒幕』がいる。そいつを明らかにしない限り、全ての真相を突き止めたことにはならない。お前にこの事件が解決できるかな?
「じゃあ、伯爵夫人はそれに乗っかるついでに本物の伯爵を殺してフェルネッド領を自分のものにしようとしてたっていう事?」
なんでだよアンスス!! お前そんな頭のいいキャラじゃなかっただろうが!! 急に知能指数が上がってんじゃねえよ!! 俺の見せ場はどうなるんだよ!!
「じゃが、まさか依頼先の勇者に先代国王の儂まで同行しておるのは流石に想定外じゃったようだのう。どうじゃ? 全ての真実を明らかにしたぞ?」
「くっ……」
え? なんなんこれ? 水戸黄門みたいな感じになってきてるじゃん。
「魔王軍との戦時下にあるというのに魔族の手を借りて圧政を敷いたとなれば混乱の元になる。特例じゃがこの場にて沙汰を下す。よいな? 人払いをしたのもこのためじゃ」
人払いをしたのは俺なんスけど。
「伯爵は禁固二年とする。但し公には出来ぬ故、フェルネッド領にて管理する事。よいな? フェンネ夫人」
「は、ハイ!」
「ドッペルゲンガー、お主は暫く伯爵のふりを続け、ほとぼりが冷めた頃どこへなりと消えるがよい」
ドッペルゲンガーがふう、とため息を吐く。運が悪ければこの場で殺されるところだった命が繋がったからな。
「そして夫人」
アスタロウにぽんと肩を叩かれ、びくりと身を震わせる夫人。伯爵の悪事に気付きながらも騙されたふりをして自分に都合よく真実を捻じ曲げようとしたこいつも全くの無垢とは言えないだろう。
「領の運営はお主に一任することとなる。速やかに被害を与えた領民への補償をし、元の善政に戻す事。それができなければ今度こそ領地召し上げもあると知れ」
「か、かしこまりました!!」
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なんだかなあ。
なんだかんだで美味しいところは全部アスタロウに持っていかれてしまった。結構俺頑張ったつもりだったんだが、余裕かまして結論引っ張ったのがよくなかったのか。
溜めに溜めて一気に逆転しようとしたところを横から全部掻っ攫われるとか、納得いかない。
一日休んでその翌日、なんとも釈然としない気持ちのまま俺は荷物をロバの背に括り付けながら考え事をしていた。
とはいえ、元々今回の件は俺の冒険とは無関係な事件だし、このまま何事もなかったかのように魔族の国グラントーレを目指すしかあるまい。
「もう行ってしまうのか、ケンジくん」
荷支度を終えて出立しようとしたところに現れたのはアンススだった。
「今回の件……いろいろと、ありがとう」
なんか感謝されるような事したっけ? ダンジョン内で聖水を絞り出したことへの感謝だろうか。
「一度は諦めかけたけど、やっぱり私のことを一人前の人間として扱ってくれたのは、きみが初めてで……その……二人の絆が固いのは分かったけれど、私も、諦めないから!!」
真っ赤な顔でそう宣言すると、アンススは走ってどこかへ消えてしまった。
なんだかなあ。
あいつまだ俺の事ホモだと思ってんのか。
アンススの介護もしたくはないけど、ホモだと思われるのはもっと嫌なんだよなあ。
「勇者よ、出立の準備は出来たようじゃな。ところで、旅に出る前に、その、武器の手入れをした方がいいと思うんじゃがな? ちょっと抜いてみてくれんかの?」
しかもよりにもよってこいつとなんか。




