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パントマイム感

「さあ勇者よ! 一思いにやってくれ! ぬぽっと!!」


 ケツをこっちに向けてハイテンションで叫びまくる鉛筆削り器の方をちらりと見てから、俺は周囲の人間に視線を移す。


 誰も俺と目を合わせようとしない。気まずそうに視線を逸らしてなんとも言えない表情で黙っているだけだ。


 なるほどね。


 なんとなく話の全貌が分かってきたわ。


 こいつら、聖剣抜こうと思えば抜けるな。


 触りたくねーんだよ、誰も。これに。


 俺だって触りたくねーよ!!


 まずいまずいとは思いつつもみんな触りたくねえからって異世界から人召喚してやらせるってどういうこと!? そんなことで女神の力借りてんじゃねーよボケ!!


「おい女神」


『なんですか?』


「これ別に俺じゃなくても抜けるだろ。チェンジだチェンジ。こんな世界救う必要ねーって。こいつら自分で何とか出来るわ」


『え? でも今まで異世界から十人ほど勇者を送ってるけど誰も抜けませんでしたよ?』


 じろりと国王の方を見るとまたも気まずそうに視線をずらした。こいつ……俺が初めてじゃねえのか。んなこと一言も言ってなかったぞ。


『私は確認のしようがないですけど抜けないんじゃないんですか? 本当に他の人が抜けるんならケンジさんを戻してもいいですけど』


「言ったな? じゃあ俺以外のやつが抜けたらここから戻してどっか別の世界に行かせてもらうからな」


『問題が解決したなら全然いいですよ』


「いや……その」


 脂汗を流しながら何か言い訳をしようとする国王の手首を俺は力強く掴んで引っ張る。待ってろ、今誰でも抜けるって証明してやるからなこのゴミどもめ。


「んあっ!?」


 しかし国王は空いてる方の手で俺の手首を逆に掴むとぐい、と上に引き上げ、今度はしゃがみながらくるりと背を向けるように俺の腕の下に潜り込む。


 必然的に俺は後ろを向かされたかと思うとかかとに足を引っかけられて、ずでん、と仰向けに倒れてしまった。


「いや、暴力はやめてくださいよ、勇者様」


 え? なに? いまの?


「いてて……どっちが暴力だってんだ! いいから来い!!」


 変な動きをされないように今度は両手で国王の片腕をがっしりと掴む。


「むん!」


 今度は国王は掴まれた自分の腕をさらに掴んで思い切り自分の方に引っ張った。引き込まれないように俺が踏ん張るが、体勢が崩れたところで急に上方向に旋回、そのまま自分の腕に引っ張られるように俺は仰向けにフッ飛ばされてごろごろと転がってしまった。


「いっ……え、なんなんこいつ?」


 何勇者を投げ飛ばしてんのこの国王。


「どうしたんです勇者様? さっきから一人でごろごろと」


 え? ホンマなんなんこいつ? もうお前が魔王と戦えや。


 ほんでなんで周りのやつらは半笑いやねん。今のあきらかにこいつの合気道的なやつで勇者様に対して暴力振るったやろ。誰か止めろや。


「勇者様、この聖剣は、確かに選ばれし者にしか抜くことができないのです。城のものは勿論、異世界の勇者様でも、今までは抜くことができませんでした」


 汚ねーからだろ。


「あのさあ、ごちゃごちゃ言うならまず試しにテメーが抜いてみろや。それでできねーってんなら俺も納得するからよ」


 正直納得したところでもう抜きたくないけど。っていうかこいつにごろごろ転がされて体中いてーんだけど。ホント勇者様に対してこの仕打ちはなんなん?


「……わかりました。この私が自ら抜いて見せましょう。おい、あれを!」


 お、なんか急にやる気見せ始めたぞ。国王が毅然とした態度で傍仕えのものに何かを取ってこさせると、場は急に慌ただしくなってきた。


 こうして堂々としてる時は凄く威厳があるんだよな、こいつ。何を取ってこさせたんだろう? なんか戦装束とかそういうのかな? ん? 小さな、白い布みたいなもんだな……


「軍手じゃねーか!!」


 おいふざけんなよ、直接手で触りたくねーから軍手取ってこさせただけかよ! 俺もう素手で触っちゃってるんですけど!?


「え? だって、ちょっと……汚いじゃないですか。雑菌がつくかもしれないし」


 くっそ腹立つ。しかしもうどうでもいいわ。これでこいつが聖剣を抜けさえすれば俺もこの変な仕事からは解放されて別の異世界に行けるんだ。やってられっかこんなの。


「……では、いきますぞ、むんっ!!」


 国王は両手でがっちりと剣の柄を掴む。


 両手で柄が掴めるって事は両手剣なんだよな……だとすると刃の長さもだいたい想像つくんだが……これ一体どうなってるんだ? 普通に考えたらあそこまで深く刺さったら鉛筆削り器の口から聖剣の先っぽが出てきそうな気がするんだが。


「むむ、んんんんんぅ!!」


 ……なんだろう、これ。


「んんぬぅああああぁぁぁ!!」


 すごいパントマイム感。


「ああ~、やっぱりダメでした……」


「ふざけんなよお前!!」


 この期に及んで全力で剣を抜くふりとかナメてんのか。子供のやる事じゃねーんだぞ!!


「ちょっと! お前は柄を握ってろ!! 俺がお前を引っ張って抜かせるから!!」


「ちょちょちょ、ダメですダメですって!!」


 問答無用。俺は国王に無理やり剣の柄を握らせる。とにかくコイツに抜かせちまえば文句は無いはず。


「ちょ、ホントダメですって! それだとアレです! 儂の体を通して勇者様の力がアレしてることになるんで!! 実質勇者様が抜いたのと同じですから!!」


「うるせー黙ってろ!! とにかく剣なんか誰が抜いたっておなぬああっ!?」


 みたび。


 俺は国王にひっくり返されて青天井。


「……はぁ」


 ホンマなんなんこいつ。


「あ……あの、今のは、勇者様が悪いんですよ? ……その、力づくで無理やりさせようとするから」


 マジでブチ切れる5秒前。


 寝転がったまま静かに怒りを溜めているところ、王宮の壁から凄まじい爆発音がした。


 気付けば城の外壁が破壊されて外が見え、その縁には一人の若い男が立っていた。浅黒い肌に巨大な翼、そして頭部には一対の巨大な角が生えている。


「ふふふ、性懲りもなく異世界から勇者を召喚したそうだな。魔王軍四天王筆頭、獄炎のカルナ=カルアがここで勇者の息の根を止めてやるわ!!」


 あ、これ有無を言わせないやつだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] また懐かしい名前が!!!
[良い点] カクヨム無理だったの納得しました! 大変素晴らしい……。 しかしケンジ、災難ですね~。 どうなるんでしょう、これ。相手は強いし。 [一言] 今夜はカルアミルク飲みます。
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