おっぱい
「おかしいじゃろがい」
「なにがでしょう、勇者様」
「なにがって……もう、色々あり過ぎて一つに絞れないんだけどさ、まずこのおっさんはなんなん? 聖剣の台座なの?」
「勇者様、先代の国王陛下に対して『おっさん』とはいささか無礼が過ぎますぞ」
終わりだよもうこの国。
ていうか『おっさん』でも随分遠慮してる方だと思うよ。ゴミクズとか変わったデザインの傘立てとか言わないだけまだ自制してるよ。
なんで先代国王のケツの穴に聖剣が突き刺さってるんだよ。ヤハウェだってこんな特殊な試練与えないよ! どうなってんだよ女神!
『本人に聞いてください』
「そ、それは、あの」
女神は無視して、答えたのは国王じゃなくて先代の方。さっきまで偉そうな態度取っていたが、聖剣の事について突っ込んだら急にたどたどしくなりやがった。
「いや、たまたま全裸で部屋を歩き回ってたら、つるって滑っちゃって……転んだところにたまたま、その、聖剣があってお尻にはいっちゃったというか」
ピタゴラスイッチじゃねえんだからそんな「たまたま」があってたまるか! それ完全に肛門科に受診に来る、ケツの穴にブラギガス入れてくるタイプの変態じゃねえか。(※)
「今はそんなことは些事にございましょう、ささ、勇者よ、ひと思いに!!」
些事じゃねえよお前が全ての元凶だろうが。女神からもらった聖剣がケツの穴から抜け無くて使えないから世界が滅亡の危機に瀕してるなんてちょっとマニアックなAVの設定でも聞いたことねえよ。滅んじまえそんな世界。女神! おい女神!!
『なんですか、ケンジさん? もう解決しました?』
なんですかじゃねーよこの駄女神。今の流れ見てなかったのかよ。
『ちょっと……女神が直視するには目に余る光景だったので、よそ見してました』
まあ、たしかにな。
ていうか自分は直視すらできないような現場に人を派遣してんじゃねーよ! もう我慢できねえ! こんなイカれた世界に一秒だっていられるか! チェンジだチェンジ!! 別の異世界にしてくれ。こいつらは滅んで当然だ。
『チェンジとかそんなシステムはありません』
「うるせー! クーリングオフだ!! いいからとりあえず一回そっちに戻らせろ!!」
おっと、思わず声に出していってしまった。原住民にも女神の声はともかく俺の声は聞こえてるのでざわつき始める。
自分達が見捨てられるかもしれないとなれば当然っちゃ当然だろうけど自業自得だろう。仕方ねーよ!!
「勇者様……」
「こ、これ、イリユース」
ん? 女の声? 女なんてここにいたか?
俺が思わず振り返ると、そこには黒いドレスに身を包んだ美少女が立っていた。
くっ……ここにきてヒロインを出してきたか。頭にティアラみたいなの付けてるし、さしずめ王女ってところか。胸が凄く、デカいです……
「この部屋に来てはいけないと、年頃の乙女がアレを視界に入れてはいけないと言ったはずだ」
あのさあ、国王さん。だから年頃の乙女が視界に入れる事すら憚られるようなもののところに異世界から来た勇者を案内しないでくれます?
とにかく、これ以上アホな空間に付き合っていたら俺までアホになってしまう。こんな下品な話には付き合いきれん。何とかして元の日本か、それが出来なくとも女神のいる神界に戻してもらわんと……
「勇者様……世界を、救ってください……」
む……
鈴の音のような美しい声。思わず振り返ってしまう。潤んだ瞳でこちらを縋るように見る姫の姿が目に入った。
俺にとっては今日連れてこられたばっかの見も知らぬ世界だけど、こいつらにとってはたった一つの、自分の世界なんだよな。
俺はもう一度、姫の瞳を覗き込むように見つめた。
澄んだ瞳をしている。自分の事ってのもあるんだろうが、本心からこの国を、この世界を救ってほしいと願っているんだろう。
この純真な気持ちを、見捨てる事なんて俺には出来ない。
「分かったよ! 抜きゃあいいんだろ、抜けば!!」
ちっ、泣く子とおっぱいには勝てねーぜ!
……とはいうものの。
「さあ!」
俺はデカい鉛筆削り器みたいになっている先代国王のケツに向き合う。どうやら穴の開いたズボンをはいているようで、下半身丸出しじゃないのがまだマシだがマシじゃねえよ無理だよ無理無理無理無理無理!!
「勇者様!!」
思わず背を向けて逃げ出そうとしてしまった俺の腕を姫がガシリと掴んだ。
「勇者様、逃げてはダメです!!」
俺の腕を抱きしめるようにホールドしている。柔らかい。
そうだ、この腕に、どのくらいの数か分かんねーけどこの世界に生きる人々の命がかかっているんだ。俺が逃げるわけにはいかないんだ。
俺は削り器の柄を強く掴む。
「んひっ♡」
変な声出すな削り器。
気を取り直して、俺は力を込めて、聖剣を引き抜き……ん? なんだこりゃ随分するっと抜けるぞ?ちょっと引っかかりはあるけど本当にこれ誰にも抜けなかったのか?
「んほおっ♡」
「だから変な声出すんじゃねえよこの鉛筆削り器が!!」
十センチほど剣を抜いたところでまた削り器が淫猥な声を出したので俺は手を止めて怒鳴りつけた。人が真面目にやってんのになんなんだコイツは。
「す、すまん、勇者よ。こう、なんというか、剣をヌく時の振動で、前立腺が刺激されて……」
このおっさんホンマに……
俺はなんとなく周囲を見てみると、みんななぜか俺から目を逸らして気マズそうな顔を浮かべる。
先代国王の痴態から目をそらしているんじゃない。明らかに俺の視線を避けている感じだ。
なんとなくだが、話の全貌が見えてきたぞ。
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