俺たちの戦いはこれからだ
「いやどす」
『そう遠慮するな。これは私の厚意。世界を正しい姿に導いてくれた感謝のしるしだ。必ずや無事に日本に送り返すことを約束しよう』
そういう話じゃねえんだよ。しかしこちらの意図を汲み取れないケツアナコワレトルは壊れたケツ穴をこちらに向けて尻尾を振る。
「ケンジくん……もしかして、私と離れたくないから……」
「ちげーよ! 蛇のケツの穴に入りたくねーんだよ!!」
『ケツの穴とは失礼な』
ケツの穴だろうがよ! 他になんて表現すりゃいいんだよ!!
『この穴は人間でいえば肛門と尿道の両方の役割を果たしている。さらに生殖器もここに収納されており、雌は出産もする。総排泄口というのが正しい。まあ、我は蛇とも違うがな』
たいして変わんねーよ。っていうか余計悪いよ。しかもさっき聞いたところによるとちょっと前まで下痢便を垂れ流していた総排泄口だ。そんな汚いところに誰が入るか。
『そして今は君を日本へ送り出すためのワームホールとしても機能している。さあ』
さあじゃねーよ。蛇なのにワームホールとは此れ如何にじゃねえんだよ。
「勇者……いや、ケンジよ」
そう言いながらおれの肩をポンと叩いたのはアスタロウだった。急になんだ。しかも名前で呼びやがって。
「おぬしが何を危惧しているのかは分かる」
ようやく分かってくれる奴が出てきたか。いきなり目の前に神が現れる、というあまりの異常事態にみんなやられてしまって何が異常で、何が異常でないのか、それを見失っているとしか思えない。
「エイリアス問題じゃろう」
「ちげーよ!! なんで分かんねえんだよ!! 単純に汚ねぇケツの穴に入りたくねえってんだよ!! 分かれよ!!」
「ケンジくん……私と別れたくないから駄々をこねてるのね……」
ちげーよ!! 分かんねえなら黙ってろよアンスス!!
「ケンジ。アスタロトとの戦いに臨む私達を心配する気持ちはうれしいけど、心配しないで。もしさみしいなら私が、一緒にそのニホンとやらについてい……」
だから違うっつってんだろうが!! イルウ、お前はむしろこの世界にいたくない理由の方なんだよ!!
「髑髏林くん!」
なんだよ髑髏林って。誰のことだよ。
「君が日本に帰る権利を手放すというのなら、代わりに僕が帰ってもいいだろうか?」
ようやく勃〇ショックから立ち直った鬼龍院アキラ。まあ、俺もほかに手があるんなら帰りたいけども、正直このワームホールを通って帰る気にはならないので、そんなにアゴ出汁うどんが食いたいならお好きにどうぞ。
「うぅむ……」
しかしアキラはケツアナコワレトルのアナルに向き合って唸る。そりゃそうだろ。人間のそれとは大分様相の違うものの、うろこの裂け目のぴったりと閉じた穴はまさしく排泄のための穴であり、そして異臭を放っている。
『ワームホールとはいえ総排泄口。自分でうまく広げることはできないので君が肉をかき分けて中に入ってくれたまえ。初体験なので、ゆっくりと頼む』
全く記憶にないんだけど俺この世界に来た時こんなところ通らなかったよね? これからも絶対通らないけど。アキラ、君は頑張れ。
「なんだろな、その……やっぱりこういうのは髑髏林くんの得意分野なんじゃないだろうか? 僕には少し無理そうだ」
なんでそう思ったの? 俺そんなの得意じゃないよ?
「ちょっと肛門に入ったりとか、そういうのは僕にはノウハウがないというか」
当方にもありませんけど?
「どうあっても、俺をこの世界から逃がさないつもりらしいな」
もうね、何となくは分かってはいたけどね。この世界が全力で俺に嫌がらせをしてきていることには気づいていたけどね。
いったいアキラと俺で何が違うっていうんだい? 同じ世界で同じ目的に向かって進んでいて、同じように聖剣を手に入れたというのに、こうも冒険の過程に世界観の差が出るものかね? 同じ世界を冒険してるというのに。
『同じような聖剣の手に入れ方はしてないと思いますけど』
うるさい女神。そんなことはどうでもいいんだ。とにかく帰りたい。帰りたいが……帰る方法が(まともなのが)ない。
「ケンジくん……帰らないで。一緒にこの世界で生きていこうよ」
まるで捨てられた仔犬のように不安げな表情で、アンススが縋りつくように声をかけてくる。
まあ、この世界も悪い事ばかりじゃない、というのは分かる。
「師匠、ワタシ、もっと師匠についてあんなことやこんなことを学びたいッス」
エイメも、俺を引き留める。こいつも口を閉じて行動を起こさなければ本当に文句のつけようのない美少女なんだよな。
「行かないで、ケンジ。あなたがいなくなったら、私のこの滾る下半身は何にぶつければいいっていうの?」
イルウか……本当に、本当に男でさえなければなあ……俺のアナルを狙うのだけはやめて欲しい。なんかこう、帰りたい気持ちの方にぐらついてきた。
「勇者様、もし地獄の大公爵アスタロトを倒してくれるなら、この私のすべてを捧げますわ……」
黙ってろこのビッチ姫が。おっぱいは魅力だけど俺を見限ってアキラについたことは一生忘れねえからな。
『ふふふ、ケンジよ。今こそこのアヌスカリバーの力を見せてやろうではないか。もし私が女神の言う通り人間の容をとれたなら、これだけの力のある剣だ。きっとクソデカおっぱいのいい女になるに決まっている。そのときは、ふふふ……』
聖剣も黙ってろ。お前が初対面の時命を要求したことも忘れてねえからな。
「ごっつぁんです。勇者殿、地獄の公爵とやらにもスモウの素晴らしさを知らしめるいい機会にごつ」
お前は……お前には特にいうことはないけど相撲の普及は勝手にやってくれ。俺は知らん。
「勇者よ、それぞれに立場はあるものの、みなおぬしの行動力と、自らを貫き通す信念に期待しておることに変わりはない。すまぬが、もう一度みなのために戦ってはくれぬか」
「アスタロウ……」
まあ……俺がやるしかねえか。
なんだかんだ言っても、みんながみんな俺の方に期待の目を向けている。ホームシック勃〇勇者のアキラには期待できねえもんなぁ!! 俺がやってやらあ!!
「よし、そうと決まれば勇者よ、さっそく剣を抜き、天に掲げ、ケツ意を示すのじゃ!!」
そう言ってアスタロウは俺に小汚ねぇケツを向ける。
「さあ! さあさあ早く!! 魔族も見てる衆人環視の中、儂の鞘から聖剣をヌプッと引き抜いてくれい!!」
はぁ……
帰りてえ……




