表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/123

うどん

「暴力ってホントに素晴らしいよね」


 魔王の一言にその場が凍り付く。アキラの方を見てみると、眉間にしわを寄せて怒りに打ち震えているようだ。


「魔王ッ!!」


「いやお前のこと言ってんのよ」


 アキラが大きく吠えたが魔王ベルメスはあくまでマイペース。


「正義と名の付く暴力はさぞ楽しかったでしょうね」


 魔王。こいつもなかなかの煽りカスだな。


「言葉は無用。聖剣イムカルテの力を見せてやる」


「受けて立とう!」


 ああ、戦いが始まっちゃった。っていうかこいつ魔王がサキュバスの血を引いてて魅了の力があるって知ってんのかな? なんか対策立ててあんのか? 俺はそれなりに対策考えてあるけど、まあお手並み拝見と行こうか。


 しかしアキラが切りかかるより先にギラリと魔王の両眼がピンク色の光を放った。先制で魔眼を仕掛けられた形だ。


「ぐうっ!?」


 おいおい全然ダメじゃん。アキラの奴、苦しそうにうめき声をあげて何とか立ってる状態だが、完全に動きが止まっちゃったぞ。


「まさかこれは、魅了(チャーム)!? 安心してください勇者様、すぐに私が解除を……」


 そう言いながら僧侶の……なんだっけ、名前。あの、パイズリホールの服の人がメイスを高く掲げ……そして固まった。


「邪魔はさせんぞ。おとなしく見ておれ」


「は……はい」


 速攻で僧侶も魔眼に堕とされたみたいだな。もしかしてこのヒーラーが切り札だったのか? だとしたらお粗末すぎる。


「精霊の矢よ!!」


 すぐさまエルフの弓兵(アーチャー)が矢をつがえようとしたが……


「だからおとなしくしてろって」


「ぐっ……」


 同じ手に何度もかかってんじゃねえよ。お前らホントに勇者パーティーか。


「すぐ助けます! (いかづち)よ!!」


 もういいよ、どうせお前も魔眼で止まるんだろ。


「シャラップ」


「むぐ」


 ていうかイリユース姫さあ。魔法使えたのかよ。俺の時そんなこと一っ言も言ってなかったじゃん。


 しかもなに? そっちのパーティーにいるときはチュートリアルキャラも封じてるの? なんなんそれ? 相手によって態度を使い分けるのって良くないと思いますよ?


 ホント、どこで道を間違えちゃったんだろうな。聖剣を抜いたのがまずかったのかな。もっと違う攻略ルート辿ってたら俺にもそんな素敵な仲間ができてたんかな。どういうリアクション取るのが正解だったんだ、あれは。


「はぁ……」


 なんだかやる気がなくなってきた。俺はごろんと横になって頬杖をついて観戦する。もう好きにしろお前ら。


「俺は……負けないッ!!」


「ほほう、なかなかの精神力」


 おお~、粘るじゃんあのイケメン。魅了の力に抵抗してんのか。ゆっくりとだけど、一歩、二歩、と剣を構えたまま進んでる。


「逆らえば苦しむだけだぞ。私にその身を委ねるのだ。さすれば永遠とも思える快楽と、肉欲の愉悦を約束しよう」


「ほざけ! 誰が貴様なんかに!!」


 何がそんなに彼を頑張らせるのかねぇ。あんなセクシーなお姉さんがエッチなことしてくれるって言ってんのに。俺だったら魅了されてなくてもコロッとイッちゃうよ? コロッと。魔王、俺を誘惑してくんねぇかな。


「みんな、俺に力を貸してくれ!」


 俺は貸さねえよ? 魅了されてる仲間に言ってんだよね?


 それにしてもアレだな。こいつって……主人公みたいだな。


 主人公なのかな、もしかして。


 そうか、主人公なのか。だからこんなに俺と違うのか。


 ああ、なんかだんだん分かってきたぞ。俺、この物語の主人公じゃなかったのか。この魔王討伐の物語は、鬼龍院アキラとかいう勇者が王国の姫と、どこが聖職者だよって服装のパイズリホール僧侶と、気高いエルフを連れ立って旅行く英雄譚だったんだな。


 そんでケツに聖剣の刺さったおっさんと、アホな冒険者とエルフの相撲取りを連れた変な偽勇者が終盤になってコメディリリーフとして出てくんだ。で、その変な奴らをメインにした外伝っていうか、スピンオフの物語が俺たちの話なんだな。


 わかっちゃった。


 わからせられちゃった。


 ああ~~~……やる気が地に落ちた。もうどうでもええ。


「帰りてぇ……」


「僕は、絶対に魔王なんかに屈したりしない!!」


「日本に帰りてぇ……〇亀製麺のうどん食いてぇ」


「邪神の使いである貴様らなんかにうるさいなあもう!!」


「ふえ?」


 俺に言いました?


「人がまじめにやってんのにうどんがどうとかやめてくれないか!!」


「だってさぁ……食いたくない? うどん。サクサクのてんぷらを上にのっけてさぁ……いや、違うな」


 しばし目をつぶって熟慮する。


「素うどんがいい。かつお出汁のしっかり効いた素うどんか、きつねうどんを。いや、アゴ出汁もいいな」


「ぐうッ!?」


 ガランと金属音が響く。あいつの聖剣……なんつったっけ? 田舎そばとか、そんな名前の剣を取り落とした音だ。苦しそうに耳を抑えてる。どしたの?


「アゴ出汁のうどん、嫌いだった?」


「やめろ! それ以上アゴ出汁の話をするな!!」


「嫌いなの? 甘いアゴ出汁のうどんでさ、九州風のトロトロになるまで煮込んだうどん食べたくない?」


「ぐああッ! やめろ! 僕は九州出身なんだ!! せっかく最近ホームシックを断ち切ったのに!!」


「唇で噛み切れるくらい煮込んであってさあ、あれもううどんっていうかスイーツだよね。食べたいなあ」


「あああああ!! 帰りたいぃぃぃ!!」


 こいつホームシックになるのも全力だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ