地下牢
さて、そんなわけで今俺たちは魔王城の地下牢にいるっていうわけだ。
え? 唐突すぎてわからないって? 察しろよ。魔王軍のスタンプラリーするのがいやだったから無視して城に忍び込んだら捕まったんだよ。
和平の提案にきた人間の使者を地下牢にぶち込むとかサイテーだな。魔族は。やはり人と魔族が分かり合うことなど不可能なのだろうか。だが俺はあきらめないぞ。平和という概念のない劣等種族め。今に後悔させてやる。
「反省しましたぁ?」
「あ、すいません。反省してます」
呪いの言葉をぶつぶつと吐いていた俺は慌てて佇まいを正して正座する。一緒に牢に入れられてるアスタロウとアンススも姿勢を正した。守衛のところで俺に対応した魔族のお姉さんが様子を見に来たようだ。
「今日はしっかり反省して、明日んなったら出してあげるスからぁ、おとなしくしててねぇ」
「うぃス」
まあ、地下牢と言ったが、別に逮捕されたりだとか、処刑待ちだとか、そういうわけではない。なんか留置場みたいな感じでとりあえず放り込まれた感じだ。だからだろうか。男も女も関係なく一緒にぶち込まれてるのは。
「お、おい勇者よ、このままでいいのか?」
ん? どういうことだアスタロウ?
「このままじゃ結局スタンプラリーする羽目になるぞい。ここで何とか交渉して魔王に会わんといかんのじゃろう」
そうだった。すっかり忘れてた。何しろ逮捕とか補導されたの生まれて初めてだったからな。大丈夫、こっちが勇者だとわかれば守衛のお姉さんも対応しないわけにはいかないはずだ。むしろ魔王の方が黙ってないだろう。
「待ってくれ、守衛のお姉さん」
「ルビィよぉ」
ルビィさんていうのか。なんかこう、気怠げなお姉さんてのもいいなあ。
「勇者よ」
「あ、ハイ」
いかんいかん集中しないと。勇者の名乗りとか正直今まで一回もしてないから緊張するな。
「俺の名はコバヤシ・ケンジ。女神ベアリスより人類を助けるために遣わされた使者だ。魔王と話がしたい。取り次いでくれないか」
「勇者ぁ?」
上から下まで舐めるようにお姉さんの視線が俺を蹂躙する。まあ、いきなりこんなことを言われても信じられないのは無理もないか。
「ホントに勇者なら証拠とか見せてくれるぅ?」
「フ……いいだろう」
ついに来たか、この時が。
なんかこう、なんだかんだで初めてじゃないか? 勇者としての力を示す展開。普通もっと頻繁に来てもいいと思うんだよな。こういう、主人公の力を分かりやすく示して愚民どもがひれ伏す展開はさ。何回やってもいいと思うよ。減るもんじゃないし。
「アスタロウ!」
「応ッ!」
俺の呼びかけに答えてアスタロウがこちらに背を向けたので俺はその背中を蹴り飛ばして四つん這いにさせ、マントをめくる。
「……え?」
ふっふっふ、驚いているな、守衛のお姉さん。彼女の視界に入ったのは根元までずっぷりとケツに突き刺さったアヌスカリバーだ。人は理解しがたいものに遭遇してしまったとき、意外と間抜けな反応をするんだよなあ。
俺はそのまま四つん這いになったアスタロウのケツに右足を乗せ、台座がぶれないようにしっかりと固定し、力強くアヌスカリバーの柄を両手でつかむ。
「んふンッ♡」
「ちょ、ちょっとぉ! 何やってるのあんたたちぃ!?」
「危険だから下がっていて」
アヌスカリバーの抜刀体勢に入るとそれまで冷静さを装っていたお姉さんも俺たちを制止しようと鉄格子に近づいてきた。しかしそれを格子越しにアンススが止める。
「彼のアナルは、危険よ。成人の腕一本くらい軽く呑み込んでしまうんだから」
アスタロウのアナルから聖水を取り出す時、実際に俺の腕を根元まで飲み込んでいる。そういう意味でアンススはアスタロウのアナルの能力を最もよく知る人物と言ってもいい。彼女がゾンビ化せずに今こうして元気にしていられるのも、アスタロウのアナルのおかげであるといっても過言ではないからだ。
「ぬおおおお!!」
気合を入れてアスタロウのアナルから聖剣を引き抜く。
「んおおおぉぉ♡♡♡」
そして中年男性のキモい恍惚の声が牢屋の中に響き渡る。
「ひっ、何して……」
ふっふっふ、ビビっているな。そりゃあそうだろう。どこにでもいる普通の中年男性にしか見えない男のケツの穴から刃渡り1メートル以上もあるような剣が引き抜かれているんだからな。目の前で起こっていることが信じられまい。
そして薄暗い牢屋の中に白銀に輝く聖剣が姿を現す。
どうだ。まさか貴様ら魔族が最も恐れる聖剣がこんなところにあったとは夢にも思うまい。おそらくはただのイキったお上りさんだとでも思っていたのだろう。ろくに身体検査もせずに地下牢にぶち込みやがって。
まあ、身体検査したところでケツの穴に剣が刺さってても対応に困るだろうけどね。見逃すわけにもいかないし、かといって没収しようにも触りたくもないしな。俺だったら見なかったことにしてそのまま牢屋にぶち込むわ。
まあ、それはともかく。
「どうだ? これで勇者だと分かってもらえただろう」
お姉さんはおびえた様子を隠せていない。もしくは畏怖の視線で俺を見ているのだろうか。
ともかく、これで魔王に取り次ぎしないわけにはいかなくなっただろう。何しろ魔王に仇をなす勇者がこんなところに捕らえられているんだからな。
最悪でも応援を呼んで対応をせざるを得ないだろう。魔王城の地下でそんなことになればどちらにしろその騒ぎは魔王の耳にも入る。どちらにしろ魔王と接触はできるという完ぺきな作戦。自分の頭脳が恐ろしい。
「あ……頭おかしいんじゃないのあんたたち」
へ?
「ヤバいわこいつら……」




