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収入印紙

「どうじゃった? 勇者よ」


 日が暮れそうだったので先に城下に戻って宿をとってもらっていたアスタロウが心配そうな顔で俺に訪ねてきた。


 俺は宿屋の食堂の椅子に座ると、タンブラーの水を飲みほしてから答える。


「アポってやつがないとダメらしい」


「なんじゃそれは」


 なんじゃと言われてもな。俺は一枚の羊皮紙をダイニングテーブルの上に置く。



――――――――――――――――



「銀貨2枚?」


 なんだろう。アスタロウ達を先に街に戻らせて二人きりになると、守衛の女魔族は金銭を要求してきた。俺は賄賂を要求されているんだろうか。


「えっとですねぇ……魔王様に謁見するのなんて事前に申請しないとできないんスよぉ」


 それと銀貨二枚とどう関係があるっていうんだ。賄賂を渡さないと取り次ぎもしてくれないってことか? やっぱり魔族は腐ってやがるな。賄賂がないと動かないなんて、国家の体をなしてない三流国家の証だ。劣等民族め。


「でねぇ、収入印紙付きの申請書に必要事項を書いて提出してもらえますぅ?」


「しゅ、収入印紙?」


 収入印紙……なんか、どこかで聞いたことがある単語だ。この用紙、よくわからんがこれが高いってことか……



――――――――――――――――



「ああ……事前に面会の予約を取っておかんと謁見もできんということか。なるほどのう……」


「俺は多分、勇者ということを見抜かれて適当にケムにまかれたんだと思うんだが、どう思う?」


「私も同じ意見ね」


「全然違うわい」


 ぬ?


「儂は謁見する側だったから詳しいことは知らんが、ただでさえクソ忙しい国のトップに予約もせずにいきなり謁見できるわけないじゃろう。大した理由もなく時間を取られんように、身元と用事のはっきりせん者の面会希望なんか受け付けんということじゃ」


 ん~……つまり、どういうことだ? 俺は差別されたってことか?


「ここに来るまで、俺は魔族といえども同じ言葉が話せるなら、分かり合えると思っていた。だがそれはどうやら思い違いだったようだな。使者に対してこんな仕打ちをするなんて、とてもまともな国家とは思えない」


「話聞いてた? どこの国でも同じじゃぞ」


「魔族もイルウやメルポーザみたいに話が通じるなら、戦いも避けられると思っていたのに、やはり衝突は避けられないのか……」


「儂はおぬしの話の通じなさが怖いんじゃが」


 まあ、それはとりあえず置いておこう。俺はちらりと渡された紙を見る。


「お金払えば謁見してくれるの?」


 アンススが訪ねてくるが、しかしどうやら違うらしい。


「アスタロウ、これを」


 ダイニングテーブルの上に用紙を置く。紙にはこまごまとした説明が書かれているが、俺にはこの国の文字は読めないし、アンススも読めない。なので、紙をアスタロウの方に向けながら、守衛のお姉さんに説明された内容を思い出し、みんなに話す。


「聞いた話だとグラントーレのそれなりの地位にいる魔族の承認が得られないと謁見も受け付けられないらしい。予約も取れないそうだ」


「ふむ、作成、確認1、確認2、承認と、サインする欄があるのう」


「その『作成』は自分の名前でいいらしい。で、承認は四天王クラスの幹部のサインが必要だそうだ。」


「確認の欄は?」


 ここからが少し難しくなる。


「四天王ってのは、基本的に軍団長らしい。で、その配下には『十二神将』と呼ばれる配下の将校がいる。この『十二神将』って奴の下にいるのが人間の町を襲ったりする有象無象のモンスターらしい」


「ん……んぅ」


 すでにこの時点でアンススはかなりついてくるのが厳しそうだ。


「で、『十二神将』が従えているモンスターの中でも特に彼らを補佐している部隊長が通称五人衆と呼ばれる、幹部候補生らしいんだけど、確認1がその五人衆、確認2の欄に十二神将のサインがいるらしいんだ」


 何も難しいことは言っていないんだが、アンススは額から脂汗を垂らして苦しそうな表情をしている。どうやら会話の中に数字が出てくるともうその時点で拒否反応が出るようだ。


「で? 結局魔王に謁見するにはどうしたらいいんじゃ?」


「まあ、その五人衆の誰かに納得してもらってサインをもらって、それができたら十二神将にサインをもらう。この十二神将はサインをもらった五人衆の直属の上司じゃないといけない。で、さらにその上の四天王の承認をもらえば、やっと謁見の予約がとれるそうだ」


 アンススとアスタロウがうなり声をあげて考え込む。


 何を考えてるかはわかる。


 うん。めんどくさいよね。


 俺もまさか異世界に来てまでスタンプラリーする羽目になるとは思いもよらなかったよ。


「アスタロウ、これどうすりゃいいの?」


 どうやらアスタロウはこういうのに詳しいようなので聞いてみる。伊達にケツに剣が刺さってるわけじゃないだろう。何かいい知恵があるはずだ。


「まあ、サインをもらうしかあるまい。もしくは儂は下野したから出来んが、アルトーレから国家として正式に謁見の申し込みをすればこんな手順すっ飛ばして話し合いはできるとは思う」


 おいおい、ここまで来るのにどんだけ時間がかかったと思ってんだよ。今更戻ってあのクソ国王にそんな手続きしてくれなんて言えねえよ。っていうか……


「それもう……勇者の仕事じゃないじゃん」


 あくまでも魔王討伐に行った勇者が戦い以外の方法で物事を丸く収めたっていうところに意外性と価値があるんであって、国に出戻ってきて「すいませんけど国家として正式に会談を申し込んでください」なんてやったら「あれ? 最初から勇者なんかいらなかったんじゃね?」ってなっちゃうじゃん。


 俺の立場ないじゃん、それじゃ。


「やはり暴力か……暴力はすべてを解決する」


 俺の作戦はこうだ。まず、守衛と城門を破壊して魔王城に突入して、城内で大暴れする。どうせこっちゃ四天王を一撃でぶっ倒すくらい強いんだ。そうそう簡単に負けることはあるまい。


 そして、魔王が出てきたところで話し合いを持ちかける。これだ。


「ちょっと冷静になった方がいいのう。それは作戦とは言わん。行き当たりばったりと変わらんぞ」


「じゃあほかに方法があるっていうのかよ」


「ないが……結局暴力でそこまで行くんならそのまま魔王を討伐しても変わらんと思うがのう」


 とはいえなあ。暴力のほかに俺が持ってるものっていうと四天王のイルウと仲がいいってところくらいだろうか。何しろ俺のケツを一方的に狙ってくるくらい仲がいいからな。


 せめてイルウの連絡先とかわかれば承認のサインももらえるかもしれないけど、いつも神出鬼没なんだよなあ、あいつ。


「城門を武力で突破されて剣を突き付けて会話をするとなると向こうの面目も立たん。相手も一国を統べる王じゃからな。弱い王に国民はついて来ぬ」


「となると、気づかれないように密かに忍び込んで非公式に魔王にコンタクトをとる、とかはどうだ?」


「……それしかないかのう」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ファンタジー小説の各話タイトルが『収入印紙』 さすがです 最終章ってまじですか 一生ケンジとアスタロウのドタバタ珍遊記を見ていたい
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