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ふと、思い出して  作者: 櫻美
7/24

七月の中旬頃。蝉が一生懸命泣き喚き、

恨みでもあるかのように太陽が照りつける。

まもなく夏休みが始まろうとしていた。

特にする事も無いのでいくつか本を借りておこうと

放課後に図書室へと足を運んだ。

教室を開けるとともに本の香りが漂い、

静かで落ち着いた空間が好きだった。

今思えば読書が好きと言うよりも

図書室が居心地良く好きだった為に

本に浸るようになっていたのかも知れない。

借りるだけにして帰るつもりが

この一室に誘惑され少し読み始めてしまった。

暫く読み進めていくうちに段々と外が

青色から赤色へと変わり始めてきたので

きりのいいところまで読み進め図書室を後にした。

駅へと歩いていく途中、遠くの方で

黄色何かが風に吹かれ右へ左へと揺れている。

気になり歩く事を中断し、目を凝らしてみた。

ひまわりだ。目一杯に花びらを大きく広げ

空に向かって立派に伸びている。

母が一番好きな花で、小さい頃はよく

ひまわりの絵を描き喜ばそうと必死であった。

再び歩き出して駅に着き、暫く待ったのち

電車へと乗り込んだ。

乗り込んだ瞬間大きく胸が弾み、そして

一瞬時間が止まったかのように思えた。

やはり夢などではなかった。そこには

あの日みた名も知らぬ彼女が座り、本を読んでいた。

ようやく、もう一度会う事ができ

嬉しく思い心がみたされたのと

何故だか少し緊張した心持ちで

彼女の右斜め前あたりに座った。

垂れた前髪を白く細い指を使い耳にかける仕草は

今までみた何よりも美しく心を奪われた。

一度目で目を奪われ、二度目には心までもが

奪われてしまっていた。

名前や声、他にどんな顔をするのか

もっと知りたいと思うようになったが

今はただ、同じ空間に居るだけで幸せだった。

私が降りるひとつ前の駅で彼女は

長い髪を揺らし降りて行ってしまった。

彼女が去った後、残りの一駅は余韻に浸り

降りる際に今日は

車内で本を取り出さなかった事に気づいた。


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