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ふと、思い出して  作者: 櫻美
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同じ道を通り帰るはずだが

朝とは全く違う道を歩いている心持ちになる。

朝には気がつかなかったチューリップの

赤色や黄色。無駄に大きくピカピカと光る看板。

平家で立派な門構えの家。読み方に苦労する居酒屋。

周りをキョロキョロしながら歩いていると

あっという間に駅に着いてしまった。


電車に乗ってからはもっぱら読書に没頭する。

夕暮れ時、程よくゆれる車内は心地よかった。

本を片手に支えながらうとうとしていると

最寄駅へと到着した。

車内の椅子から無理やり剥がされるように

電車を降り、改札へと向かう。

構内から出てみると、まだ家には着いていないものの

帰って来た気分になった。

見慣れた景色、歩き慣れた道。焼きついて

今でも鮮明に思い出す事が容易だ。


玄関のドアを開けるのと同時に「ただいま」と

声を出してみると、台所から母が顔を覗かせ

「おかえり」と微笑みこちらをみる。


自分の部屋に入り鞄を置き、制服を脱ぎ捨て

ほったらかしにしたまま白い半袖と

膝あたりのズボンに着替える。とりあえず

何もする気にならないので仰向けに寝そべり

天井をながめてみる。ただ何も考えず

畳の匂いと静寂に包まれながら。

だんだんと重たくなってきた瞼を閉じてしまおうと

思った途端、向こうから母に「ご飯よー」と

呼ばれた。やれやれと思いながら立ち上がり

返事もしないまま部屋を出るのと同時に

みそ汁と魚の焼けた匂いがぷんと匂った。

匂いに誘われながら食卓についた。


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