二十二
ただお互い黙ったまま門を潜り外へと出た。
帰る際も来た時と同様
他の生徒や先生達が私達二人の事を
不思議そうに見たり、指を刺されたりと
あんまりいい気分はしなかった。
学校から出ても、まだまだ他の生徒が
立ち止まり円になって話をしていたり
挨拶を交わしたりとしている中で
恵子と並んで歩く事が照れ臭かったので
わざと並んで歩かずに後ろから着いて行く事にした。
私の事を気にも止めずに、恵子の足は
自然と駅の方へと向くので私は黙って
後から続くだけであった。
学校から随分と離れ、周りに学生らしき姿も
見えなくはなってきたがどちらからも
並んで歩こうとも、話そうともしないまま
駅に着きとうとう電車に乗ってしまった。
隣に座ってはみたが何だか気まずく
恵子が何を考えているのかさっぱりだった。
二駅目の駅で止まった時に漸く恵子から
「この後まだ時間ある?」と言われ「あるよ」と
答えるとまた会話はぴたりと無くなってしまった。
恵子の様子を悟られないように横目で見ると
まるで正気を失ったような、暗い表情であった。
何かあったのかしら?と思っていると
「いつもの場所でいい?」と聞かれ「うん」と
返事してからまた、沈黙が続き一言も
話さないまま図書館の前まで私達は辿り着いた。
着いてからも中々話出さなかった。
時間こそ、それ程経ってはいないんだろうが
着いてから数十分程度だろうが何時間も
時が流れている様な感覚であった。
そんな中、痺れを切らしたのは私の方だった。
「どうかした?」
恵子はちらっとこちらを見たと思ったがすぐに
真下の地面を見つめた。が、やっと重い口を開いて
「私、引っ越す事になったの」
頭が真っ白になった。
「引っ越すってどこに?近く?」
「ううん。ずっと遠いわ」
「どこ?」 「大阪に」
大きいショックを受けた私は
走馬灯のように出会ってから今までの事を
頭の中で振り返っていた。
受け入れたくないと強く思ったが
畳み掛けるように恵子は話を続けた。
「母の体調がずっと良くならなくてね。
大阪の方に父の同級生の医者がいるから
そこで診てもらうのが良いだろうって。
何でも腕がいいんですって」
「恵子は?学校は?」
「着いていくわ。学校も辞めてしまうの」
「そっか」
「えぇ、仕方がないけど」
私は、仕方がないと思えなかった。
あんまりだと思った。一目惚れして
奇跡的に出逢ってからやっとここまでの関係になれて
そして、途絶えてしまうのかと思うと残念だった。
恵子は無論、俯いたままであった。
だが、冷静になって考えてみると
恵子は慣れた土地から離れて、友とも離れて
母親は病気で、恵子の立場を考えると
気の毒で仕方がなかった。
かと言って何と声を掛けたら良いのか
わからなかったが、
「お母さんの為だと思うと仕方ないか」
「そう、なんだけど」
「不安?」 「ええ、少しは」
「きっと大丈夫だから、
恵子もちゃんと上手くやっていけるよ」
そう言って恵子の方を見ると
恵子は目を真っ赤にしてぼろぼろと泣き始めた。
目からいっぱいになって溢れ出した涙を
手で拭き取りながら
「どうして、」それだけ言うと
言葉を詰まらせ後に続かなかった。
泣いている姿を見ていると私まで悲しかった。
抱き寄せたいと思った思いを堪えて
背中を摩ってやるのが精一杯だった。
だが、恵子は私の腕を片手で押し返すようにして
慰めている筈だった手を激しく拒んだ。
「どうして、何にも言ってくれないの?
私、貴方が何を考えているのかちっともわからないわ。
酷いわ。貴方って」
そう言って、恵子は勢いよく立ち上がり
立ち去ろうとしたので、私は拒まれた手でもう一度
恵子の腕を掴んだ。
「いつ?大阪に行くの」
「来週の土曜日よ」
「金曜日、学校が終わったら
また、会えないかな」
「うん」 「待ってるから」
私が言い終える前に恵子は行ってしまった。
もう一度ベンチに腰掛け、暫く放心状態となった。
当たり前に逢えたり、会話もなにも、
これから出来なくなるんだと思うと
目頭がぐっと熱くなってきた。
だが、同時に次に会った時に必ず
今までの想いを伝えようと。
一人になってから気付けば一時間程経っており
整理も覚悟も出来たのでやっと帰る事にした。




