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ふと、思い出して  作者: 櫻美
21/24

二十一

こないだの日曜日はいつもより早く

一時間程だっただろうか、それぐらいで

恵子とは解散して帰って来た。と言うのも実は

今日は用事があるんだから長くは居れないと

わざわざ嘘をついて帰って来てしまった。

少し前までは楽しみで仕方がないくらいだったが

今となっては少し億劫になってきてしまった。

もし仮に、恵子に告白したとする。

そして振られたとする。その後はどうなる?

告白する事に対して抵抗だとか、恥じらいなどはない。

振られてしまってからお互いに、今まで通りの

関係を続けていけると私は思わないし自信もない。

会う度に次の約束をしっかりしといて、

決まった時間に、決まった場所で会う。

今の幸せを失うかもしれないと思うと恐ろしくて

何も言わない方が都合が良いだろうと思った。

今思えば、この辺りから私の後悔は

とっくに始まっていたんだと思う。

少し前までの晴れた気分から一変し

もやもやとした日々を過ごさなければならなくなった。

気分が晴れず、曇ったままの状態で

藤野と約束をした試合観戦の日になってしまった。

当然、今更断る訳にもいかず恵子と約束した時間より

五分程前から大人しく待っていた。

いつもとはまるで違うどきどきとした気持ちで

恵子が来るのをただただ待っていると

見慣れた美人がワンピース姿にツバの広い

真っ白の帽子を片手で押さえながら歩いてきた。

私の姿に気づいた彼女は薄っすらと微笑み

目の前まで来て漸く立ち止まり「おはよう」と一言。


「おはよう。行こうか」


案外いつも通り自然に出来たので良かった。

行こうかと声をかけると恵子はにこにこしながら

首だけを縦に振り私の後に続いた。

電車で私が通う学校へと向かう。

電車を待っている間はお互い何も話さず

周りの雑音だけを二人揃って聞いている状態だった。

漸く話出したのは電車に乗り込んで

椅子に座った時からであった。

「こないだはごめんね」と言うと恵子は

「どうして?」と不思議そうに聞いてきた。

確かに恵子からすると私から謝罪をされる覚えなど

決してないように思えた。自分自身もなぜ

第一声目がごめんねなのかこの時はわからなかったが

後から段々とわかってきた。

恵子に嘘をついた事に対して謝ったんだと。

だが、どうして?と聞かれて素直に

答える訳にはいかないので、

「早く帰ったから」とだけしか答えれなかった。


「そんな事気にしていたの?いいのに。」


「そっか。」


また、長い沈黙が続く。

恵子の方ではまったくいつも通りなんだが

私だけがいつも通りできず、不自然になってしまう。

気づけば学校に着いてはいたが、

どうやって来たのか覚えていなかった。

「綺麗な学校ね。」と恵子がぽつりと

独り言のように言い歩きながら

上を見上げ校舎をじっくりと見ていた。

練習試合は全く別のグラウンドを借りて

すると聞いていたが、どう言うわけか

二、三日前にうちの学校を使う事になったらしい。

自分の通う学校に恵子を連れて歩くのは

何だか小っ恥ずかしくなってきて

すれ違う生徒や先生達がじっと目で追う様子を

確認した私はやっぱり帰りたかった。

グラウンドに行くとちらほらと生徒が

集まって来ていたが、練習試合なので

観る側も気合があまり入らないと見えて

幸いにも人は少なかった。実際私も、

なんだ練習試合か。と思った一人であった。


「ここで観ようか」


「えぇ」


グラウンドから少しだけ離れた

背もたれもない、殆ど板だけの椅子に座った。


「お友達ってどの方?」


「あれだよ、9って背中に書いてる奴」


「へぇ、それより誘われてつい来ちゃったけど

私ルールなんてちっとも知らないの。」


「俺も、」と言うと恵子と何だか可笑しくなって

気づけば二人で笑っていた。

ピーっと笛の合図と共に試合が始まり

激しくどちらのチームも動き回っていた。

いつもとまるで違う藤野を見た私は

なんだか新鮮な気分だった。


「直樹くんと同じクラスの人達も来ているの?」


「あぁ、何人か。なんで?」


「ううん。何となく」


前を向いたままそう答えた恵子に

少し違和感を覚えた。


「どうかした?」

我慢出来ずに言ってしまった。

横を見ると恵子は下を向いたり前を見たり

動くものの返事は返ってこなかった。

聞いてなかったのかしら?と思ったが

じっと、ただ黙っていた。

ぴーっと笛の音がグラウンドに鳴り響く。

どうやら知らない間に試合は終わったらしい。


「終わった、のかな?」


「いいなと思って。」


「え?なにが?」


「直樹くんと同じ学校で

同じクラスメイトだったら良かったなって」


驚いて、ただただ恵子の横顔だけを

見つめていた。恵子は下を向いたままだった。


「おい、直樹」


「おう、お疲れ」


藤野がタオルで顔を拭きながら

私に挨拶したと思ったらすぐ恵子に目をやり

二人は会釈し、簡単に挨拶を済ませた。


「直樹の彼女?」


「違うよ、友達」


もぉ、試合は終わって後はトレーニング

するだけだからと言われ、用が無くなった私達は

それじゃ、と立ち上がり学校を後にする事にした。




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