十九
始業式の朝。
夏休みの間に随分と身体がだらけてしまった為
早起きするのに少し苦労した。
まだ視界もぼんやりとしている状態で
時計を見た私は慌てて洗面所へと向かった。
漸く居間へ行くと母はすでに身支度を整え
朝食を食べ進めていた。
やっと居間へ現れた私をちらっとだけ見て
「いつまでもお休み気分でいちゃいけないよ」
「うん」とだけ返事しといて
早速自分も食べ始めた。
食事をしている私に向かって
先に食べ終えた母はちくちくと嫌味を続ける。
「新学期早々、遅刻なんてしたら
みっともないんだからね」
「わかってるよ」
自分が悪い。確かにそうである。
しかし、こうもしつこく言われると何故だか
余計に反省する気を失ってしまう。
自分に非がある事は十分に心得てるつもりだが
まるで自分が被害者のような。変な話だが
しつこく言う相手の方が悪いように思ってしまう。
少し前までの自分は母から小言を言われると
不貞腐れ、反省の色などまるで無かったが
今は少し違った心持ちである。
食事を終えた私は制服に着替えていた。
シャツのボタンをかけていたら後ろから
「急ぎなさいってば」と声をかけられた。
それに対して私は首だけを後ろに捻りながら
「はいはい、行って来ます」と言って
ボタンをかけ終えた手で鞄を持ち玄関へと向かった。
「やけに素直な事。行ってらっしゃい。」
母は他にも何か言いたげな表情で
私の事を送り出した。
久しぶりに制服に身を包みなんだか
清々しい気持ちで学校へと向かった。
九月の上旬はまだまだ暑かった。
駅に着くと同じ制服を来た者や
そうで無い者がちらほら見えて来た。
明るく友達と楽しそうにしている者や
新学期の始まりを喜ばない者と
様々な表情を一人で楽しみながら学校へと着いた。
教室に着いてもやっぱり様々であった。
席に着き周りの話し声を聞きながら
静かに座っていると、後ろから藤野に声をかけられた。
「よっ、」「おう」
短い挨拶が終わると早速藤野は
例の話をしだした。
「それで、恵子ちゃんには聞いてくれたか?」
「あぁ、ちゃんと言ったよ」
「どうだった?」
「行ってもいいってさ、」
「そうかそうか、良かったよ。
別に最後まで観てなくてもいいからさ」
「何で行かなきゃ行けないのか
さっぱりわかんないけどな。」
「親友だろ?いいからいいから」
いつもこんな調子である。
2人で笑い合っていると担任が来たので
藤野は自分の席へと帰って行った。
最初はあまり乗り気でなかったが
今はちょっぴり楽しみになってきた。
始業式で長い長い挨拶を聞いたのち
午前中には帰れる事になっていた。
席で帰る用意をしていたら藤野から
寄り道しようとの誘いがあったので乗る事にした。
学校から駅に行く間に公園がありそこで
少し喋って帰る事にした。
藤野と居ると、恵子とはまた違った
居心地の良さがあった。
適当にベンチに横並びで腰掛け藤野から話し始めた。
「恵子ちゃんとは?どう?」
「そんなに気になるのかよ。どうって、
それ程何も進展はないさ」
「だって気になるだろ、お前が好きな奴できたって
俺、他の奴らに言えないよ。」
「言わなくて良いって、そう言えば
今度の日曜日に会おうってさ」
「会おうってさって、恵子ちゃんから?」
「そう、」
藤野はただ、へーっと言いながら
にんまりとしているだけであった。
冷やかされているのかしら?とも思ったが
藤野なりに私の事を応援しているんだろと解釈した。
その後、一時間程話をして公園を後にした。
学校が始まり二日ほど経ったある日の放課後。
いつものように電車に乗り本を読んでいたら
隣に座った者に肩を指先で突かれた。
おや?と思いながら顔を横に向けると
その正体は恵子であった。
「びっくりした、今帰り?」
「そうなの、一緒の車両なのに誰かさんは
一向に気づかないんですもの。」
「ごめんごめん、全く気づかなかった。
良かったら少し話しない?」
「えぇ、いいわよ」
恵子の最寄りの駅で一度降りて
どこにしようかと話し合いもないまま
自然と図書館の方へ向いて歩いていた。




