十五
恵子と待ち合わせてからあっという間に時間は過ぎ
気付けば、二時間程経っていた。
恵子は自分が通う高校から二駅先の
高校に通っており、歳は自分と同じ歳であった。
家族は父親、母親と二つ下に弟がいる。だが、
父親は仕事の関係上、大阪の方にいる事が多く
殆ど家には帰って来ないらしい。
なので、三人家族と言っても過言じゃないらしかった。
この夏休み中に二、三日は帰ってくると
宣言されたみたいだが、まるでそんな気配はなく
母親があの人の言う事なんて何一つ信用ならないと
愚痴をこぼしていたのを聞いた恵子は
寂しさよりも、段々と呆れた気持ちが大きくなり
その問題に対して期待や関心を持つ事を
一切辞めにしたと言う。
暫く、重たい空気が流れる中
気の利いた一言も言えない自分を
少し恥ずかしく思った。
黙って遠くを見ていた私に少し顔を近づけ
「それでね、聞きたかったんだけど
本当はどうして私を追ってきたの?」
「どうしてって、こないだ言った通りだよ」
「本が好きそうだって言った事?」
「うん」
恥ずかしさを紛らわす為に
恵子の目を見れず、遠くを見たまま返事をした。
「だって、変よ。」
「どうして?」
「どうしてって、」
恵子は返事に困り、ただ私の横顔に
視線を突きつけるだけであった。
今度は私から恵子に質問を投げかけた。
「どうして恵子は俺と会う事にしてくれたの?」
「いきなりだったけど、悪い人には見えなかったわ」
「どうして?」
私がそう言って恵子の方を見ると
恵子は一瞬目を大きく開きそしてその後すぐ
大きな口を手で上品に抑えながら笑った。
その笑顔に釣られて、私も自然と笑顔になった。
「お互い様って事かしら」
微笑しながらそう言われた私は
言おうか、言うまいか迷っていた事を
この場の雰囲気に呑まれ打ち明ける事にした。
「実はさ、本当は少し前に
会ってるんだよ」
「本当に?いつ?」
「二ヶ月ぐらい前に」
私がそう言うと、恵子は二ヶ月前の事を
必死に思い出そうと自分の頬に手を当て
難しい顔をし始めた。
「さっぱりだわ。ちっとも思い出せない」
「そうだと思う。覚えてる筈がないんだから」
恵子は何も言わず首だけを傾げ
黙ってこっちを見ているだけであった。
「六月の雨が降ってた日に、
学校の帰りに電車に乗って前を見たら
ある女の子が座っていて何故か妙にその女の子に
惹かれてしまっていたんだ」
「それって、」
「君の事だよ」
ここまで勇気を振り絞って話せた自分に
もう、緊張だとか照れ臭さなどは
持ち合わせていなかった。
どんな風に思われても構わないから
ただ正直に恵子に話たかった。
「一目惚れってやつなのかな。
君とまた会えれば、話なんか出来たら、
何日も何日もそう思ってた」
「本当なの?」
「うん。まさかたまたま行った
図書館で会うなんて思ってなかったよ。」
私がそう言った後、暫くの沈黙が続く。
その中で私は少し後悔をし始めた。
不快感を与えてしまってはいないだろうか。
打ち明けてよかったのだろうか。
そんな事を頭で考えていたが
恵子の反応は予想よりも遥かに良いものであった。
「あなたってロマンチストなのね」
そう言った恵子はこちらを見ながら
目一杯笑顔を見せた。
それに釣られ私も笑う。
図書館の時計のチャイムが午後四時を知らせる。




