十三
運命だとか奇跡なんてものを
私は全く持って信じちゃいない。
今でもそうである。だが、当時十六歳の私は
それらが本当にあるんだと本気で信じ込んだ。
彼女に指摘された足元を見てみると
片方の靴紐がだらし無く垂れていた。
恥ずかしさのあまりすぐに片膝をついて
地面と靴紐等を見つめながら「急いでて」と
何か返事しなければと思い咄嗟に出た一言であった。
脳を一切働かせずに身体が動くままに従って
必死に彼女の後を追って来た私は
いざ、彼女を前にすると中々言葉が出なかった。
「それで?何か用があるの?」
もたつく私に一切の不快感を見せず
ただただ優しい口調でこう言われた。
「本が好きなの?」
「ええ、好きよ。毎日読んでるわ
あなたも本がお好きなの?」
「うん、俺も毎日読んでて」
少しでもいいから好かれたいと言う
卑怯な考えから少しばかり嘘をつき
私は読書家の青年を演じる事にした。
「そうなの、何を読んでいるの?」
「今はこれ、もう少しで読み終わるけど」
そう言って鞄に手を入れ
彼女に一冊の本を手渡した。
彼女は表紙をじっくり見ては後ろを見て
あらすじや作者を確認していた。
「そう、知らない人だわ。
まだこの人の本は一度も読んだ事がないわ。」
「貸すから一度読んでみるといいよ」
「ええ。試しに読んでみようかしら」
「君が読んでいるのも貸してよ。交換しよう」
「いいわ。それより、どうしてわざわざ
私の後を追って来たの?」
自分にしてはここまでの流れに中々
上出来だと褒めてやりたい所だが、
どうして追ったのなど聞かれては困ってしまう。
電車で見かけ一目惚れした、などと言うと
不審に思われそうでどうにか誤魔化す為に
次の一句で返事した。
「何となく色んな本を読んでそうだから」
「それで?それだけで追って来たと言うの?
随分と急いで追っかけて来たみたいだけど。」
少し曇った表情で彼女はこう言った。
確かに言う通りである。だが、今更
正直に話す事が出来なくなってしまった私は
強引に何となくだよと答え押し通した。
ちらりと彼女の顔を見ると、
長いまつ毛をぱちりとさせ、面持ちは
あまり納得のいかないようであった。
「まあ、いいわ。私、恵子。
多部恵子。あなたは?」
「川島直樹」
「そう。じゃ直樹君ね。」
「何て呼べば、多部さんでいいかな」
そう私が言うと彼女は笑いだし、
手を口元に持っていき声を抑えるようにした。
「可笑しな人ね。恵子でいいわ、
さん付けで呼ばれるの何だか変だもの。」
彼女の笑顔につられ、自然とこちらも笑顔になった。
そして、私達は簡単な自己紹介を終え
三日後の午後一時に図書館の前で待ち合わせ
お互いの本を交換する事にした。




