十二
八月十六日。
夏休みが始まってから殆ど家にこもる生活に
とうとう飽きてしまった私は、電車で三駅ほど乗り
図書館へと足を運ぶことにした。
行ってみると、夏休み中という事もあってか
いつもより人が多く、同じ年頃ばかり居た。
適当に空いてる席を見つけ座った私は
早速宿題を片付ける事にした。
家の方が一人で、そして静かであるが
ちっとも集中できず中々捗らなかった。
立ち上がり辞書を探し、それを戻しては
別の本を取りに行き、二時間程して、
大方片付いてきたので辞めにした。
時刻は午後三時を少し過ぎた頃であった。
そろそろ帰ろうと決め最後に取ってきた本を
本棚へと戻しに立ち上がり歩き出すと
あまり前方を注意していなかった私は
横から歩いてきた人に気づかず
相手の腕に手が少し当たってしまった。
はっと思い顔を上げ、謝ろうとしたが
顔を確認した私は声を詰まらせてしまった。
あの子だ。と、分かった私は何も言えず、
固まってしまったのだ。
すると、向こうの方から
「大丈夫ですか?」
初めて聞いた彼女の声。
柔らかく、落ち着きのある声であった。
「はい」
慌てて、やっと出た言葉であった。
私の返事を聞いた彼女は微笑み
軽くお辞儀をし、図書室の出口へと向かった。
歩いて行く後ろ姿をただただ目で追っていた私は
このままで良いのだろうか。この場で会えた事は運命。そんな事は普段ちっとも信じちゃいないが
この時だけはどうしてもそう思いたかった。
そうとなれば、急いで待っていた本を棚へ返し
広げたままの宿題や鉛筆を乱暴に片付け
鞄を握りしめ部屋から飛び出た。
二階から階段でかけ降り、図書館を出て見渡す。
駅の方へ向かったのか簡単には見つからず、
荒くなった息を整えながら図書館の敷地内から出た。
周りを見渡すと、数十メートル先に彼女が
長い髪を揺らしながら歩いていた。
後ろ姿を確認した私は反射的に彼女の後を追い
三メートルぐらいになった時、足を止め
「あの、」と声をかけた。
ゆっくり彼女は振り返り、
「はい?」と一言。
何か、何か言わねばと思うが中々
言葉が出てこず後が続かない。
彼女は不思議そうな少し心配したような心持ちで
私の方をただ黙って見守っているようだった。
少しの間、沈黙を決め込んでしまった私は
声をかけた事を今更ながら後悔し始めた時
「ほどけてますよ。」
不意にかけられた言葉におどおどしながら
「ほどけてるって、」
何が何だか分からないでいると
「靴紐、ほどけてる」
そう言って彼女は手を口元に持っていき
控えめな笑みを見せた。




