十一
母の話を聞き漸く心が晴れてから
数日経ったある日、お客がきた。
玄関の扉を二、三度叩かれ声はしないなか
誰だろう?と思いながら少し緊張しながら
ゆっくりと扉を開けると、そこに居たのは
藤野であった。
終業式からおよそ二週間ぶりに会ったわけだが
随分と久しく感じた。
開けて私の顔を確かめてすぐ藤野は
「よう、どうせ暇だろ?」と
挨拶を済ませ、悪餓鬼の様な笑みをもらした。
半ば強引に外に連れ出されて
何処へ行く何をするなど細かい事は決めず
とりあえず二人で歩き始めた。
歩きながら話を聞いていたら試合がどうとか
顧問の森が朝から機嫌が悪い日は八つ当たりを
してくるなど、とにかく夏休み中に大事な
試合があるとかで大変な時期らしかった。
愚痴をこぼしてはいるが、私には
充実している様に見えた。
数十分歩くとベンチとブランコだけがぽつりとある
静かで人通りが比較的少ない公園の前で
藤野が足を止め座ろうと言ったので
ベンチに腰掛ける事にした。
蝉の鳴く声が公園の四方八方から響く中
それに混じって遠くから女の話す声が近づいてくる。
その声の主が公園を横切って通り過ぎる途中に
藤野からあの三人の中で誰が好みかと聞かれた。
適当に考えてるふりをしていたら、続けて
「好きな奴いないのか?」と聞かれ
少し動揺した私は質問を放棄して
お前はいないのかと逆に答えを求めたが
部活を頑張る事に精一杯で今はいないと、
すらすらと答えられた。
もう一度お前はどうなんだと聞かれたので、
「いる」とだけ答えると藤野は目を見開き
私の顔をじっと見て、本当なのかと言ってきた。
何をそんなに驚くんだと聞いたら
どうやら藤野から見た私はそんなもんに
まるで興味を持たない男だと思っていたらしく
大変驚いたんだと言う。
名前など聞かれたが
何も答えれる事が出来ない私は
分からないとしか言いようがなく、
そう答えると藤野は納得いかない様子でいるので
仕方なく今までの事を打ち明けた。
「そうか、隣町の高校かな。」
「どうだか。何も分からないんだよ」
「お前が一目惚れしたんだからな、
どんな子なのか会ってみたいよ」
「帰りの電車が一緒なら会えるだろうけどな」
「夏休みとなると、今は会えそうにないな」
話をするうちに彼女の姿を思い出し
そして、夏休みが少し憎く思えた。
暫く話こんでいると段々と日が沈み始めたので
二人は公園を後にした。
来た道を戻り歩いていると藤野が
次に会った時は声でもかけてみろと言った。
簡単に出来るのであればやっていると思いながら
黙っていると、また藤野の方から
「後悔すんぞきっと」と真面目な顔を見せたと思ったら
にやりと笑って、またな。とだけ言って帰って行った。
暫く立ち尽くして、小さくなっていく
藤野の背中を見守っていた。




