君に残る傷を
「俺さ、好きな子ができたんだよね」
「え、そうなんだ」
マイクを置いた響が、こちらを振り返った。
「その子がめっちゃオシャレでさ」
「それでピアス開けたいって言い出したの?」
「そういうこと!」
ディスカウントストアで買ったピアッサーを嬉しそうに取り出す響に、心が陰っていく。「だから今日、しきりにスマホ見てたんだね」とか「ピアスなんてがらじゃないくせに」とか、意地悪な言葉は飲み込んだ。もしかして私がピアス開けているから……なんて、勝手に淡い期待を寄せていたのは私なんだから。
「あ、この曲、本人歌唱つきじゃん。ね、この曲のサビの時にあけてよ」
「うん、いいよ」
「あれ。なんか機嫌悪い?」
「そんなことない」
そういうところはすぐに気がつくくせに。小さく呟いた嫌味は、大音量で流れ始めた恋愛ソングに掻き消された。
「やばい、めっちゃ怖い」
近づくサビに、響はぎゅっと目を閉じて、私の服の裾を握る。無防備なその姿に、信頼されていることを実感する。……友達として、か。
ピアッサーにグッと力を入れる。恋愛ソングに負けないくらい、バチっと大きな音が部屋に響く。
「いてっ」
じわじわと赤くなる響の耳。私が開けた。私が、彼の体に穴を開けたのだ。
「開けたからにはずっとつけててよね」
ずっと、塞がずに、そのままでいて。ピアスを付け替えるたびに、私を思い出して。それだけでいい。それだけで……。ぼやけていく視界。零してはいけないと、冷えたアイスティーを一気に飲み干した。
「ピアス開けるのって、痛いんだね」
笑う響に、私も無理やり口角を上げる。
痛いのはこっちだ、ばーか。なんて、言えないから。
「うまくいくといいね」
徐々にフェードアウトしていく音楽の中で、口から出た小さな嘘は、やけに大きく部屋に響いた。