Layer15 グループ名
グループを作って情報共有するのは賛成だが、立花がこんな姫石が言いそうなことを言うなんて意外だな。
もしかしたら、姫石と仲良くなったことで立花が毒されてきているのかもしれない。
一刻も早く立花から姫石を引き離した方が良さそうだ。
「それすごく良いと思う!」
案の定、姫石が立花の案にものすごく乗り気だ。
「どうせなら、いい感じのグループ名も考えようよ!」
「情報共有のためにグループを作るのはわかるが、別にグループ名なんて考える必要はないだろう」
「いいじゃないですか、先輩。グループの名前ひとつでもモチベーションって変わるって言うじゃないですか」
「それは、そうかもしれないが……」
天才を言いくるめられる立花の方が天才なんじゃないだろうかと思ってしまうほど、立花は八雲のことを上手くコントロールしていた。
言いくるめられた八雲を見ながら俺はそう思った。
「どんな感じのグループ名がいいかな? 歩乃架ちゃんなんか思いついた?」
「う~ん、そうですねぇ……」
立花は少し考え込むものの、すぐに何かをひらめいたようだった。
「『転校生だって取り替えたい』なんていうのはどうですか?」
「はぁ~、なんだその変な名前は」
八雲がため息と一緒に躊躇なく言った。
いや、そりゃあ俺も変だなとは思ったよ。
もちろん、これを姫石が言っていたなら俺も八雲と同じ反応をしただろう。
けど、これは立花が言っているわけだし、もう少しオブラートに包んでもいいんじゃないだろうか。
「え……そんなに変ですか?」
立花が顔に影を落とす。
「いや~そんな変じゃないと思うぞ。ただ、なんかグループ名というよりはラノベのタイトルみたいだな~って感じなだけだから。全然変じゃないと思うぞ」
俺はすぐさまフォローに入った。
「姫石先輩はどう思いますか?」
「……」
おい!
なんで黙ってるんだよ!
いつもだったら真っ先に褒めまくってるところだろ。
なのに、どうして黙り込むんだよ!
さすがに、お前が変だって言ったら立花のメンタルは確実に死ぬぞ。
『お願い、死なないで歩乃架! あんたが今ここで倒れたら、姫石や玉宮とのグループ名はどうなっちゃうの? メンタルはまだ残ってる。ここを耐えれば、八雲に勝てるんだから!』
どこからか、そんなフレーズが聞こえてきた気がするが今はそんなことを気にしている場合じゃない。
変な焦りを感じながら姫石の方に目をやると、姫石の体がなんとなくだが小刻みにふるえていた。
どうしたんだと思った時に急に姫石が喋った。
「……歩乃架ちゃん」
「ッ! はい!」
不安のためか少し上ずった声で返事をした立花。
「す……す、すごく良いよ! それ最高だよ! さすが歩乃架ちゃん、わかってるね! よし、グループ名はそれで決まりだね!」
世紀の大発見をしたかのような興奮ぶりで姫石は立花を褒めまくった。
「おい、姫石」
「ん、何?」
「……だったら、さっさと言えーーー!」
そう言って俺は姫石の頭を思い切りはたく。
「褒めるなら最初からすぐに褒めろ。なんだったんだよ、さっきの重い空気は。何であんな空気を味わわなきゃいけなっかたんだ」
「ッ! 痛っ~! だからって何すんのよ! あたし女の子なんだけど。女の子の髪の毛触ること事態アウトなのに、叩くとかありえないから!」
「残念だったな。俺はあくまでも玉宮香六の頭、俺の頭を自分で叩いただけだ。決して女子の頭を叩いたわけでもないし、ましてや女子の髪の毛すら触ってない」
「中身は女の子なんですけど!」
「それは関係ないだろ。体は男だし」
「関係大アリよ! いくら見た目が男だからって、中身は女の子なんだからもう少し玉宮は――」
このままだと、この不毛な会話が長くなると思ったため俺は姫石の言葉の続きを遮って、立花に質問をした。
「どうして、『転校生だって取り替えたい』というグループ名にしたんだ? 何か由来でもあるのか?」
「え!? あ、それはですね、玉宮先輩達みたいに男女が入れ替わるみたいな物語のタイトルから取ったんです。古い映画のタイトルと古文の現代語訳を合わせてみたんです。何年か前にも男女が入れ替わるアニメ映画がありましたけど、ちょっとわかりやすすぎると思ったのでそっちはやめときました」
姫石もグループ名の由来が気になっていたのか、いつの間にか静かになっていた。
「だから、『転校生』と『取り替えたい』なのか」
俺の言葉に姫石はいまいちピンときていないようだ。
古い映画だし仕方ないのかもしれない。
古文のほうも教科書で取り上げられることはあまりないしな。
「なんだ、それなりには名前に由来があったのか」
「あるに決まってるじゃないですか! 何も考えずにグループ名を決めたりなんかしませんよ。先輩は私のことどう思ってるんですか!」
立花が食い気味に八雲に言った。
「……」
八雲が急に黙り込んだ。
なんで今度は八雲が黙り込むんだよ。
さすがに、姫石の時みたいには天才の頭は叩けないからな。
俺ごときが天才の脳細胞を殺しでもしたら、国家の損失、いや人間の損失になりかねない。
そんな損失はさすがに俺では補填できないしな。
そもそも今の立花の言葉のどこに黙り込む要素があるんだよ。
ん?
待てよ、もしかして……
「そろそろ、科学室の鍵を閉めるから各々帰る準備をしてくれ」
八雲の奴、普通に話をそらそうとしてきやがった。
「ところで玉宮香六と姫石華はこれからどうするんだ? 今日はどこに帰るつもりなんだ?」
八雲が話をそらすためか変なことを聞いてきた。
姫石も首をかしげている。
そんなこと聞くまでもなく……
「ちょっと、先輩! 話をそらさないでちゃんと答えて下さい! 玉宮先輩も姫宮先輩も帰るところなんて自分の家に決まってるじゃないですか――」
「あ……」
「あ……」
「あ……」
俺達三人はそろって情けない声を漏らした。
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