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マイグレーション 〜現実世界に入れ替わり現象を設定してみた〜  作者: 気の言
Phase2 警視庁公安部公安第六課突発性脳死現象対策室
105/152

Tier52 空白

 電車に揺られて一時間程過ぎた頃、僕達は目的の警視庁本部に着いた。

 千代田区の霞が関にある警視庁本部。

 ここら辺に来ると、どうしても僕は日本という国の中心に来たという感覚になってしまう。

 この辺りには、警視庁本部はもちろんのこと、財務省を始めとする様々な省庁に皇居、国会議事堂、最高裁判所、首相官邸など、国の中枢機関が一挙に集まっている感じがする。

 そういう意味で日本の中心だと僕は思う。

 あと、これは全く関係のない話だけど、この画角から警視庁本部を見ていると眼鏡を掛けたオールバックの紳士とカーキ色のジャケットを着た男の人の二人組や左腕を三角巾で吊るして赤いキャリーバッグを引いて歩るく女の人と坊主頭で口を捻った紙袋を片手に持ち歩いている男の人の二人組が通りがかったりはしないだろうかと期待してしまう。


「おい、伊瀬! 何してる? 早く行くぞ」


 警視庁本部の建物を見上げながら考えにふけっていると、遠くからマノ君の声がした。

 いつの間にか、僕は皆からかなり離れてしまっていた。


「ごめん、すぐ行くよ」


 僕は小走りで皆がいる所に追いつく。


「何してたんだよ、あんな所でぼーっとして」


「ちょっと考え事をしてただけだよ。本当に昔、小さい頃にドラマで見た警視庁の建物だな〜って思って」


「見惚れるような建物じゃねぇだろよ、ここは」


「俺はその気持ち、ちょっと分かるな」


「え? 丈人先輩も分かるんですか?」


 驚きつつもマノ君が丈人先輩に疑いの目を向ける。


「伊瀬君と全く同じというわけじゃないけどね。ほら、俺達さっき桜田門駅から降りて来たでしょ。それで俺、いつも桜田門って字を見ると、大老の井伊直弼が暗殺された桜田門外の変が起きた場所に来たのか〜ってどうしても思っちゃうんだよ」


 歴史の教科書で何度も見てきた桜田門外の変という言葉が丈人先輩の話を聞いて妙にリアルさが増したような感じがした。


「それ、丈人先輩だけじゃないですか?」


「え? そうかな〜? 皆は思ったことないの?」


「言われて見ればそうだなって思うくらいですかね」


「あたしもそんな感じです」


 市川さんと美結さんは丈人先輩の気持ちが分からないというわけではないようが、微妙な反応をする。


「まぁ、那須先輩なら二人の気持ち分かるんじゃないか? ほら、あの人よく聖地巡礼だとか叫んでるし」


「那須先輩と同じ感覚というのはちょっと……」


「なんか嫌だな」


 僕が濁した言葉を丈人先輩は躊躇なく言った。


「那須先輩、可哀想に」


 マノ君は口ではそう言いながらも面白そうに笑っている。


「アンタが一番たち悪いわね」


「なんだよ文句あんのか?」


「あーほらほら、喧嘩しないで二人とも。そろそろ着くよ」


 マノ君と美結さんの仲裁に入った丈人先輩が言う通り、僕達はもう警視庁本部の入口の前にまで来ていた。


 中に入って行くと、駅の改札のようなものがあった。

 そこを僕達は支給されているICカードをかざして改札のようなところを通過する。

 通過した後は、エレベターへと向かっていき六課のある15階へと上って行く。

 階に着くとクランクした構造になっており、クランクを抜けると廊下に出る。

 廊下を歩いて行くと、いくつかのサインプレートのような物が目に入った。

 そこには「外事第一課」、「外事第二課」、「外事第三課」、「公安第四課」などと書かれている。

 そして、やっと「公安第六課」と書かれたサインプレートが出て来た。

 中へ入ると驚いたことに六課の内装が完全と言っても良いくらいに立川の六課と同じだった。

 もし、ここまで目隠しをされて連れて来られたりしたら、どちらの六課であるか言い当てることは僕には出来ないと思う。

 それほど、内装も見た目も同じだった。


「お、やっぱり驚いた?」


 僕の反応に気付いた丈人先輩が声を掛けてきた。


「は、はい。あまりにも内装が同じなので」


 強いて言えば、僕のデスクだけ立川の六課と違って私物が置かれていないくらいの違いしかない。


「本当、すごいよね。ここまで同じにしちゃうんだから。江戸川乱歩とか金田一とかのトリックに使えそうだよね」


「たしかに、こういうトリックを使った話ありそうですよね」


「でしょ! けど、何で同じにしてるか俺にも分かんないんだよ。前から気になってはいるんだけど」


 丈人先輩の気になるという言葉を聞いて、僕は一つ思い出したことがあった。


「あ、丈人先輩。少し話が変わってしまうんですけど、『公安第五課』って無いんですか? 今来たところを見る限りは見当たら無かったですけど、もしかして別の階にあるとかですか?」


「あ〜そのことね。それのことも俺はよく知らないんだけどさ、公安第五課は無いんだよね」


 公安第五課が無い?

 六課があるのに?

 一課と二課は僕が見て無いだけで、さすがに別の階にあるはずだ。

 そうなると公安には一課、二課、三課、四課、六課しかないことになる。

 これは、あまりにも不自然だと思う。


「どうして五課だけが無いんですか? 六課があるのに五課が無いなんて変ですよ。普通なら僕達六課が五課になるんじゃないんですか?」


「それは俺も本当にそう思うよ。風の噂で聞いた話だと、元々五課を発足する構想は随分前からあったみたいなんだ。けど、そこにマイグレーターに対抗するための六課発足の構想が割り込んで来た。しかも、事が事だったからすぐにでも六課を発足しなければならなかった。でも、六課よりも先に五課を発足するのは時間的にも政治的にも難しかった。それで、六課が先に発足されて五課は空白のままっていう状態になったらしい」


「なるほど、そういう経緯だったんですか。それなら、時間が経てば五課も発足されて不自然な空白も埋まるってわけですね」


「噂だから本当かどうは分からないけどね。五課が発足されれば本当だし、ずっと発足されなければ噂は噂程度のものってことだよ」


 あくまで噂と付け加えて、丈人先輩は自分のデスクへと向かって行った。


「お〜、皆おはよう。あれ、那須君は一緒じゃなかったの?」


 六課の奥から出て来た手塚課長が一目で那須先輩がいないことに気付いた。


「あ〜なんか那須先輩は生徒会の仕事とかで遅れるそうなんで先に始めててくれってことでしたよ」


 表情は普段の通りだったけれど、マノ君の目は笑っていたように思う。

 那須先輩に写真の件についてやり返せたのが、よっぽど嬉しいみたいだ。


「分かった、伝えてくれてありがとうね。それなら、早速始めちゃおうかな」


 手塚課長の言葉に空気がピリッと変わったのを僕は肌で感じた。

 それは、今回の招集理由が明かされる合図でもあった。

最後まで読んで頂きましてありがとうございます。

次話の投稿は一週間前後を予定しております。


少しでも面白いと思った方、ブックマーク、ポイントをして頂ければ幸いです。

よろしくお願いいたします。


活動報告も書いています。

よろしければそちらもご覧ください。

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