蛙化現象
某掲示板サイトが出てきます。
彼女に振られた。付き合い始めはとても良好な関係だったのに。3回目のデートで一方的に別れを告げられてしまった。しかも、その理由も酷いものだ。
「ごめんなさい、蛙化現象で私…好きな人のこと苦手になっちゃうの…本当にごめんね…。」
だとさ!なんじゃそりゃ!!蛙化現象ってなんだよ!?俺はイライラした気持ちを鎮めるためにスマホを開く。振られたっていい。また新しい彼女をつくれば済む話なんだから。
さっきダウンロードしたばかりのマッチングアプリで女の子の写真を吟味する。
どうして最近の女は加工するんだ。これじゃあ本当の顔が分からないだろ。顔が変形していて気持ち悪い。これのどこが可愛いんだか。スクロールしまくっていると、清楚そうな可愛らしい女の子の写真が出てきた。
そうそう!こんな感じのでいいんだよ!変に飾らない可愛らしいお淑やかさ。女はこうでなくちゃ。ブランドでギラギラした女や、プライドが高そうな化粧の女なんてろくな奴がいない。
俺は早速その女の子にいいねボタンを押して反応を待つことにした。
数日後。
見事その子とマッチングできた俺は上手く口説き、今日会うことになった。
誠実そうな、いかにも紳士的な姿勢を見せるだけで女ってのは簡単に落とせる。安いもんだ。
俺はニヤニヤしながら待ち合わせ場所にたどり着いた。
そこには既に写真通りの可愛い女の子がいて、俺は胸が踊る。
「あの、もしかしてミカさんですか?」
俺が声をかけると、女の子は驚いた表情でこちらを見た。だが、すぐにその表情は和らいで言葉を返す。
「はい!そうです。会えて嬉しいです、カズさん。」
なんとも謙虚で礼儀正しい女の子なんだろう。まさに理想の子だ。蛙化現象だなんて言って別れた元カノとは大違い。
俺はその後、その子…ミカさんとのデートを楽しんだ。
「あの、今日はありがとうございました。」
ミカさんはにこりと笑ってお礼を言う。俺はその日彼女の食事代も払い、しかも新品のカバンまで買い与えた。ここまでしたんだから、落ちないことはないだろう。
俺は余裕の表情でミカさんに告げる。
「俺も楽しかった。…あのさ、おれ…ミカさんのこと好きになったかも。もし良かったら付き合って欲しい!」
「…!」
ミカさんは目を見開き、俺を見る。そして嬉しそうに何度も頷いた。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
はい、簡単。あとはどうやって致すかだなぁ。この後暇が聞いてみるか?それともホテル街に連れ込んで休憩しようと提案するか?まあ、しつこくお願いすれば聞いてくれるだろう。恋人同士なんだし断るなんて、絶対ないよな!
「別れてください。」
「……は?」
ラブホテルの一室で彼女の冷たい声が響く。俺は固まって動けない。今、なんて言ったんだ?
「……いや、付き合って初日にこんなことするって…女慣れしてて気持ち悪いし…無理です。」
いやいやいやいや!!!ミカさんだってOKって言ってくれたじゃないか!?どうして俺が悪いみたいになっているんだ!!
俺は慌てて返す。
「いや、ミカさんだっていいって言ったし、俺いやだって言ったらやめるって言ったよね?」
「そういうの、察してくださいよ。こっちが無理してるの分かりませんか?」
「え、えぇ…そんなの言ってくれないと分からないよ…それに嫌がってる様子もなかったし…。」
「ちょっとならいいかなって思ってたんですけど、なんか、ハァハァ息荒らげて…すごい必死で気持ち悪くなりました。……付き合う前のデートの方が楽しかったです。」
なんだよそれ…。なんだよそれ!!!!!男なんて好きな女の裸見りゃハァハァ息荒らげるだろ!!!!!!
「なんか、蛙化現象?ってやつみたいです。とにかく、もう気持ち悪くて会いたくないので…さようなら。」
「えっ!?う、嘘だろ!?待ってよ!!ミカさん!!」
彼女は冷たく言い放つと、さっさと荷物を持って出ていってしまった。デート代返せよこのアバズレ!!!!
俺は怒りでどうにかなりそうだった。なんだよ。どいつもこいつも!蛙化現象って!!意味がわからねぇよ!!
やっぱり女なんてろくな奴がいない。クソ、最悪だ。俺は気を紛らわす為にスマホを開く。
すると、気になるSNSの書き込みを見つけた。
【女さんの蛙化現象について←】
「蛙化現象……俺が振られた原因だな。なんなんだよこれ。」
俺は蛙化現象がどんなものなのか知りたくなり、そのスレを開いた。
【1】これってなんなん?蛙化って蛙になるんか?
【2】恋愛成就すると相手のことが気持ち悪く感じてしまう病気らしいで。つまりは恋する自分が好きってことや。<<<< 1
【3】なんやそれ、自分勝手すぎやろwww
<<<< 2
【4】蛙化って病気なん?ちがくね
<<<< 2
【5】相手が蛙に見える病気ですよ。
【6】おもんな
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【7】蛙化って結局なんなんだ?それって女しかならないんか。だれかkwsk
【8】1は振られたんか?
【9】蛙化現象とは、好意を抱いている相手が自分に好意を持っていることが明らかになると、その相手に対して嫌悪感を持つようになる現象である。「好きだった相手」が「生理的に無理」と思うほど逆の感情になることから、グリム童話『かえるの王さま』に例えて蛙化現象と呼ばれる。
wikiからやで。
【10】やっぱ蛙になるんじゃねぇか
<<<< 9
「……はぁ?生理的に無理になるってなんだよ?」
俺はため息をついてスマホを閉じる。どうやら蛙化現象とは、まんま自分勝手な幻想らしい。自分の欲求を満たすために他人を傷つけるなんて最低だろ。
完全に興が冷めてしまった俺は顔を洗うために洗面所へ向かう。
【15】蛙化現象って、本当に蛙になるんですよ
【16】またお前かよ
<<<< 15
【17】自分の欲求を満たすために近づく害悪な人間を蛙だと認識するようになるんです。あなたの、身体。財産。持っているもの全てを狙う、汚い蛙に気づくために。
【18】何言ってるんですかね
<<<< 17
【19】きも
<<<<17
【20】気をつけてください。多数の人に蛙だと認識されると、戻れなくなりますから。
冷たい水で顔をバシャバシャと洗い流す。なんだかサッパリして気分もスッキリした気がした。俺はタオルで顔をゴシゴシと擦り、鏡を見る。
「え……?」
そこにはぎょろりとした黄色い目と緑色の皮膚。
そう、蛙が映っていた。
【53】顔が緑色になってる、助けて。かおが、かおごがあこおのひぬえ