57 籠
俺は確認をするように瞬きをしてみた。
その度に闇に包まれる。
う~ん、さっきのも、俺が瞬きをしたみたいだな。
ゲイロルルは変わらず白銀に輝いているもんなぁ。
『何を知りたい』
「えっとっ、初代ヴァルキュリャが生んだ子どものことを聞きたいです。私達はヴァビーって呼ぶことにしたんですけど」
『子の何を』
「親とか……本当にヴァルキュリャの子なんでしょうか、父親は誰なんでしょうか」
『知らぬ』
「う゛っっ、そ、そうですか。力を封印されたとかいう話ですが、そんなすごい力を持ってたんでしょうか。どんな封印なのでしょうか」
『あれは……、いや、ヴァビーだったな、やはり混ざっていたが神に近かった』
「え?!?!」
『オージンに頼まれて籠を編んだ。ヴァルキュリャ十一人と……オージン自身も加わっているだろう』
「かご……ですか?」
『偉大なる力を封印するための籠だ。複数の力で編むことで、神のような図外れの力も閉じ込め封ずることが出来る。一度成されれば破れることはまずない、厳重な封印の型だ』
「……そんな……」
期待できないと思ってた、どーせ「知らぬ」で終了だろぉって。
だからまさかの重大情報、一気に核心をゲットか?! て興奮したさっ。
だけど、破れることがないっ?!
それじゃあ、困るんだがっっ!!
「っそんなに、解けない封印なんですか? いや、ほら、何百年も経ってるし、対象自体は何世代も生まれ変わって別の人間だし。何かの拍子で閉じ込められた力が暴走したりとか……、あ、あったら大変じゃないですか、だから、可能性があるなら知っておかないとって」
『困るのか』
ドキッッ!! とした。
心の中を読まれたようで。
いやいやいや、自分で誤魔化して言ったんじゃないか。
封印が解けたら困るんだって。
ビビるな俺っ!
「困りますよっ」
『彼の力を解放する方法がなければ、友人を救えないからか』
「は、え、うぇっっ、ぇえっっ?!?!」
今なんつった?! え?! おかしくない?!?!
聞き間違えか? え、ちょっと待って、ちょっと落ち着こう、あれ?!
俺の心……
『恐れなくて良い。目的が封印を解くことであろうと、お前達を消したりなどしない。……誰かに話したりもしない。もはや何にも関わる気はないのだ。ただ、お前が真実を知りたいと聞いてくるから、お前の真実も見せて貰っているだけだ』
読まれてるのか……っ。
だぁーっと身体中から変な汗が流れ出した。
信じて良いのか?
俺の真実を話しても良いのか?
そしたら、知っている真実を教えてくれるのか?
いや、でも、そんなに単純な話でもないはずだ。
ゲイロルルだって、元は人間だ。
「何言ってるんですか、いくら無関心だからって、そんなこと、ないでしょう。オージン神の施された封印を解くなんて、許されることじゃありませんっ。見過ごしたら共犯と思われますしっ。私は、封印が解けたら困るなぁって、考えられる可能性を全部排除しておきたいだけで」
『籠の封印を破ることは出来ない。例え、かけた者全てが倒れた後でも。可能性など万に一つもない。だが、ヴァビーの封印に限っては解く方法がある。知っているのは私だけだ』
「まっっ」
『籠を編む時、ほどく口を残して編んだ。破ることは出来ない強固な籠でも、ほどき口があれば解ける。どうする? 見過ごしたらお前は共犯だな』
え? え? え???
な、何て言った? 籠を編む時??
「な、なんでそんなことを……。籠を頼まれたのってヴァビーが生まれてすぐのことですよね? ヴァルキュリャのみんな、初代の裏切り行為に動揺して、初代やヴァビーのことは良く思っていないはずなのに。そんな、……オージンを裏切るようなことっ」
『裏切りではない。現に今もなお封印は解かれていない』
なんて相手だ。
美しい顔は彫像のように少しも変わらない。
とんでもないことだろうに、淡々と無表情で語ってる。
そして、語ること全部が正しいって思わされてしまう。
神って、こういう感じなんじゃないか。
『私とてファストルの裏切りは受け入れられぬことだった。ほとんどのヴァルキュリャが思ったのと同様、ヴァビーなど、すぐにもオージンの御許に捧げるべきだと思っていた。だが、オージンは許されたのだ。ファストルもヴァビーも。オージンの御心は私などに推し量れるものではなかった。その慈愛の深さをただただ畏敬した。だから、オージンがヴァビーを連れて現れた時、私はファストルを許してくれたオージンに深い感謝を告げた。だがオージンの反応は不自然だった。私は疑いを抱いた。オージンは何かを隠している』
「それで……籠に仕掛けを残したのですか……」
真実だ、と思った。
表情は読めないけど、こんな嘘、つく理由がない。
『封印を解きたいなら言うといい。力になろう』
「……どうして。突然出てきた俺なんかに」
『……エルドフィン・ヤール、お前は人間が好きか?』




