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46 Back to zero

「もう、ほんと、どんだけ俺の心臓止めにかかってくるつもりー?」

 

 

 日暮れ前の、夕食の利用客で混み始める食堂の喧騒に、アセウスの溜息は書き消された。

 

 

「心臓を1ダース準備できたとしても俺は不安になるよ、エルドフィン」 

 

 

 真面目な話をしているような顔で訴えかけてくる。

 え、これ、どーするのが正解……。

 困った時は、とりあえず笑ってみるのが日本人らしい。

 

 

「ははっ」

 

「それだけっ? 膝を打つような説明があるんじゃねーの?」

 

「え? えっと……、自由になれただろ?」

 

 

 対面のアセウスは、驚きと脱力と笑いがごちゃまぜになったような表情(かお)になった。

 俺は満面の愛想笑いを崩さずに、あ、向こうの席の料理ウマそーっ、と話題を逸らす。

 

 

「まぢかよ……。ほんと、お前の変貌ぶり読めねーわ」

 

 

 逸らせてナーイ。はい、失敗。

 でも、アセウスの表情はまんざら悪い気がしている訳ではなさそうだ。

 ほっとした俺は、顔に貼り付いていた愛想笑いが解けた。

 そして、少し、申し訳無さが生まれた。

 

 

「エルドフィンさぁ、やる気のない無気力系かと思わせて、激情振り回すみたいな唐突な言動増えてない? 空気読まないところは前からあったけど、心配することなんてなかったし、どっちかっていうと、後から説明聞くたびに賢いなーって俺、尊敬してたんだけど」

 

 

 出たよ、完璧少年(スーパーボーイ)

 

 

「……改悪されたんだろ。昔の俺はもういない、忘れろ。だって、ムカつかねぇ? ガンバトル(あいつ)。何様だっつーんだっ」

 

「んー……、言わんとすることは分かるけど、『領主様』だよ」

 

 

 ちーん。

 そうでした。

 地方自治の支配者。

 国家という上位の支配権力がなければ、実質的には君主に等しい。

 

 

「いろんなことがどーでも良くなったからかなぁ、はは、つい感情に流されてそーゆーの(・・・・・)忘れちまう。オージン神のことも……変な聞き方したんだよな、悪ぃ」

 

「変っていうか、神のことを探ろうってのは流石にまずいっしょ。しかも、ヴァルキュリャ一族相手になんて。ガンバトルが変人で良かったよ」

 

「なんだ! お前も変人だって思ってるんじゃんっ」

 

 

 ついほころんだ顔から、飛び出すように大きな声が出ていた。

 アセウスらしからぬすごい表情(かお)を返されて、あ、また間違ったっぽい、と悟る。

 

 

「そこじゃねーだろっ。喜びすぎっっ」

 

「はははいはい、つい素直な感情がさ、飛び出てしまったさ」

 

 

 前世では感じることのなかった安心感に俺は心地好く浸った。

 アセウスは俺を突き放さない。

 例え何回間違えても。

 しょーがねぇなぁこいつ、って目の前に居てくれるのだ。今もそうだ。

 こそばゆい。

 ふ~ん、神のことを探るのはNGなのか。

 そういえば、ソグンもシグルも、オージンのことを聞いた時はまともに答えてくれてないような。

 力を授かった半神だからかと思ったけど、そういう訳じゃないのか?

  

 

「ヴァルキュリャ一族にだと、余計まずいんだ?」

 

「そりゃそうじゃ……信仰心が強い場合、他の人間にもそれを強いる人は多いし、尊い神を軽んじることはそれだけで大罪に扱われる。ヴァルキュリャ一族なんて、普通に考えればオージン神への信仰が厚い人達の筆頭だろ? そんな人達相手にあの言い方は殺されかねないよ。もう二度と止めてくれよな、あーゆーのは」

 

「宗教か……」 

 

「ん?」

 

「でも、ホフディとはそんな感じじゃなかったじゃん」

 

「……エルドフィン、それで逆に? いや、あ゛ーっ、確かにらしくないとは思ったけど」

 

「??? ヴァルキュリャ一族だろ? 信仰心厚いんじゃねぇの? 俺、結構あんな感じで話してた気がするけど、特に殺気を感じた記憶は……」

 

「……おま、それ、本気で聞いてる? ……ホフディは俺のことを家族以上に思ってくれてるから。何よりも神の御意志を尊重する一族の当主が、神の封印を解こうとする奴を生かしておけると思う?」



 アセウスが毎回ふんわりと濁すもんだから、ひっかかってはいたのだ。

 ジトレフにも、あんなにベラってしまったのに、封印された力のことは「知りたい」としか言わなかった。

 オッダ部隊を考えてのことだとしても、話した内容と話さなかった内容の基準が分からなかったんだよな。

 

 

「あ……あぁ……それで……。そーゆーことかよ……」

 

 

 アセウスとホフディのやりとりやソルベルグ邸での出来事が、走馬灯のように頭をかけめぐる。

 そこにはその時俺が感じた以上のもの(・・)があった。

 俺達がしてたことは、帰宅部ないから囲碁部に入っとく? みたいな軽いノリの活動(こと)ではなかったのだ。

 アセウスもホフディも、危険な断崖へと足を踏み出していたんだ。

 共に(・・)

 

 

「……ホフディ、いいやつだな」

 

 

 ぐるぐると、俺の中は生まれてくる感情で一杯になっていく。

 その中に「嫉妬」を見つけてしまって、俺は、他に言葉を口に出すことが出来ない。

 無知、独り相撲、思い上がり、強欲。

 際限のない自己嫌悪に擂り潰されながら、見つけたくなかった感情をそれらで覆い隠そうとする。 

 救いようのねぇクソなんだな、俺は。

 

 人の輪に入らなくなってから、ずっと外から眺めていた。

 人間(やつら)がどんな風に動いて、どんな時にどんな顔をして、どんな言葉を吐くか。

 眺めていると気づくことがある。ルールやパターンも見えてくる。

 他の奴らには見えていないことが、俺には見える。

 なんて、物知り顔でいた。

 全然、何にも、見えてねぇじゃねぇか。

 

 アセウス(あいつ)を助けられるのは俺だけだなんて、いつ勘違いしたんだ。

 俺にあいつしかいないからって、あいつにも俺しかいないなんて気になってた。

 そんなことないのに。

 なんの根拠もなく。

 バッカじゃねぇの。 

 アセウス(あいつ)はいっぱい持ってる。「ぼっち」は俺だけだ。

 

 

「エルドフィン……?」

 

(めし)、注文しよぉぜ」

 

「あぁ……久しぶりに食いたいもんが食えるな!」

  

 

 アセウスが嬉しそうな笑顔で答えたけど、俺は全然笑えなかった。

 俺はシグル相手に結構ヤバイことをしちまってたんだ。

 上手く行ったから良かったものの、下手したら全部台無しにしてた。

 俺は何にも分かってない。

 全然分かってないんだ。

 

 

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