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36 コングスベルの優雅なる冷酷

「で、俺達はどんだけ待たされるんだ?」

 

 

 美しい調度品でしつらえられた応接間で、俺はイライラをそのまま言葉にした。

 アセウスは無言で苦笑いを返してくる。

 同意だよな、と俺は解釈した。

 

 取り次ぎはありがてぇことにすんなり済んだ。

 そう時間をおかずに返事が届き、領主様がお会いになるそうです、と屋敷内へ通された。

 案内されながら見た限りは、総(オーク)のご立派なお屋敷だ。

 内装も含め、ソルベルグ邸よりは高雅で上等という印象だった。ソルベルグ邸はどっちかっつーと質実剛健って感じだもんな。

 いちいち彫刻されている扉の一つが開けられ、俺達は長椅子にかけて待つように言われた。

 床には毛足の短い絨毯が敷かれている。 

 さすが「王城」。

 東京観光に来た地方の田舎民みたいに、ドキドキしながら待っていたのだが、いつになっても誰も来ない。

 三分が二十回以上は経ったぞっ!

 俺の二十回以上組み替えた足は、もうずっと小刻みに揺れている。

 

 

「突然押し掛けたのはこっちが悪いんだからさ、時間が作れないなら作れないでそう言やぁ良いと思わねぇっ? 日を改めてでも指定してくれれば、大人しく帰って出直すっつーの! いつ来るのかも何にも言わずに待たせて放置なんて失礼だろ!」

 

「どーした? エルドフィン。そんなに機嫌を損ねるなんて、何か気に触ることがあった?」

 

 

 アセウスは心配そうな顔で声を潜めた。

 え? は? 何その本気で心配してるげな顔。

 お前、俺と同じ気持ちじゃねぇのかよ。

 

 

「気に触るも何も、舐めてんのかって思わねぇ? 仮にも客人にこんな扱い、領主様の程度が知れるだろっ」

 

「舐めて、はないだろ。部屋に通して会うって言ってくれてるし、客人としてもてなしてはくれてるし……。確かに結構待たされてはいるけど、今日会おうとしてくれてるってありがたいことじゃねー? エルドフィンこそ、そんな風に怒るなんてらしくなくねー?」

 

 

 え? 本気で分かってない?

 らしくない(・・・・・)って……

 

 俺はとっさに記憶検索を行っていた。

 まさかこいつら(・・・・)、待たされることに腹立たねぇの?!

 

 

「今日会おうとしてくれてるって、そのために俺らの時間どんだけ奪うんだよ。こーして待たされてる間、俺達はガンバトルに時間使ってるんだぜ。向こうはまだ一分だって俺らに使ってないっつーのによっ」

 

「……そうだけど、それが何かダメなのか?」

 

「何かダメかって、他人(ひと)の時間一方的に奪うとか社会人としてアウトだろ。時は金なりだぞ?」

 

「しゃかいじん……? 時間は誰しも有限だけど……エルドフィンも俺もそんなに不自由してなくね? 領主としてやることが多いガンバトルさんの時間の方が貴重だし、今この時間は一方的に奪われてるんじゃなくて、俺らがガンバトルさんに会うために使ってるよーなもんだと思うけど」

 

 

 集まりつつある検索結果と、目の前のアセウスの澄んだ表情から、俺は知る。

 そうだ、この世界(・・・・)、時間の概念が違うんだ。

 まともに計測されないから、時計もない。

 ここでの時間は、万物のすぐ傍らを、定規みたいな目盛り付きで一斉に消費されていく個人資産じゃない。

 ただ漠然と流れている自然環境の一つだ。

 物凄く曖昧な中間距離標識(マイルストーン)に過ぎない。

 

 エルドフィンもアセウスも、というかほとんどの人間(ひと)が大抵のケースで、時間にはおおらかで、待つことを負担に感じない。共通の測定機器(メジャー)がないのだから、片方が他方に合わせるのは当然の習慣なのだ。

 社会の概念が薄いから、社会人ってゆー考え方もない。

 社会に出てから、既存の(その)ルールに従えるかで評価される前世とは違う。

 この世界の人間(ひと)は、生まれた時から毎日二十四時間、どう振る舞って来たかで評価されるんだ。

 

 

「そ、そーいや、そーかもな。俺、ちょっとイライラし過ぎだな、どーしたんだろなぁ、疲れてるのかなぁ、あははっ」

 

 

 笑って誤魔化した!

 でも、正直恥ずかしさで泣きそうだっっ!

 俺の言ったことは独りよがり、的外れもいいとこだ。

 それを、さも正論みたいに披露して、マウントぶってしまった。

 痛すぎる、アセウスはそんな風に思ったりはしないだろうけど、痛すぎるっ!

 俺ヤバっ!

 僕ヤバは尊いのに、俺ヤバのしんどさよっ。

 あぁ……中学でいちゃいちゃが皆無だった時点で俺の人生は終わってたのか。

 おかしいな、なんで俺の周りには俺を好いてくれる美少女がいなかったのだ? 

 て、どーして今、自分で更に自分を追いつめてんの、俺っ!

 落ちる一方じゃんっっ。

 

 

「疲れてるんじゃね? コングスベルまでの道のり、かなりペース速かったからな。なんなら今眠っておいたら? 人が来たら起こすよ」

 

 

 優しいアセウスの言葉に、俯いていた顔をそろりと上げた時だった。

 バンッという木と木の合わさる音が、部屋の中に響いた。

 応接間の扉、俺達が通された時は片側しか開けられなかった扉が、勢い良く左右両方全開になっていた。

 頭を下げ扉を開けている兵士たちには目もくれず、一人の男が応接間に入ってくる。

 大きめの歩幅で、あっという間に俺達の前まで来ると、上座に置かれていた豪奢な肘掛け椅子にドサッとその身を沈めた。

 

 

「約束もなく、事前の挨拶も手土産もなく、会わせろとは。随分な貴人がお見えになったらしい。まずは名から聞こうか」

 

 

 奴の姿を目にしてすぐに腰を上げたアセウス。

 と、ついでに立ち上がった俺。

 どちらにも礼儀を払う気はないらしい。

 男は、顎を上げて低い位置から見下ろしてくる。

 暗く闇のような感情の見えない瞳。

 彫りの深いくっきりした顔立ち。

 頬にかかる長い前髪を骨ばった長い指が耳にかける。

 

 ……またイケメンですか。

 この世界の顔面偏差値オックスフォード大学か? 

 この旅始まってからイケメンにしか会ってなくねぇ?!

 誰得だよっっ

 

 

「言葉を忘れたのか? この(・・)()の前だからと難しい言葉を考える必要はない。相手を見て許すくらいは余裕だ。早く答えろ」

 

 

 ……っっ! 態度でけぇええっっ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

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