33 王の町《コングスベル》
薄青い空を白い帯状の雲がぐんぐん流れている。
風を強く感じるのは、川沿いの高地を歩んでいるからではないらしい。
歩きやすく整備された岩肌を踏みしめながら、俺はポンチョの襟口のひだに顔を埋めた。
「助かったよ、ヤクモ! これなかったら、結構寒かった!」
俺の呼び掛けに前方を歩く少年が振り向く。
黒髪のおかっぱ頭にもこもこした頭巾風フード。
フードの隙間から外ハネ癖のついた髪がぴょんぴょんと飛び出ている。
「魔術師からお世話をうけたまわってもすからね~。コングスベルはここよりも高いところにあるもす。旅の方はみんな寒さにビックリするもすよ~」
目を糸目にして、にゃはっと笑う。
猫目あるある。
なぜ奴らは笑う時「にゃはっ」という擬態語を背負うのか。
同中にいたなぁ、あいつ、おっさんになっても「にゃはっ」て笑ってんのかなぁ。
「コングスベルは燃える石が採れるお山の町なのもす~。北と南を結ぶおっきな川が流れていて、人の行き来や物の運搬が便利だったんでしょね~。そこそこお山の石とかで栄えた、そこそこの町だったのもすが、先代領主様がやっちまったのもすっ」
おっきな、のところで両手を広げたり、仕草がいちいち期待を裏切らない。
軽やかな足取りで、こっちを向いたり、前に向き直ったり。
ヤクモ少年は道案内をしながらツアーガイドもしてくれるようだ。
コングスベルの北東、二~三日の距離のところに、タクミさんは魔法陣を設置していた。
利用する顧客の多い人気地点なんだとさ。
いつの頃からかそこに案内人が常駐していて、顧客がお世話になるもんだから、タクミさんも親しくなったという。
それがこの元気で華奢な少年、ヤクモくんだ。
現地ガイドが居た方が良いだろうと、タクミさんがコングスベルまでの同行を頼んだのだ。
え? 案内料金どうなってんのかって?
知らんっっ。
「もともと征服欲が強かったんですかねぇ、人を使って町を整備して、周囲に領地を拡大してはいたのもすが……なんと、他の町の領地にまで手を拡げてしまったのでもすっ。それまで仲良くご近所付き合いをしていたお隣さんのでもすよっ」
「もすかっ」
「もすっ」
ノリで言ってみたけど、いや、おかしいだろ。
もすってなんだよw
しゃべりも動きもまるで二次元キャラだ。
「コングスベルはぶっちゃけそこそこの町なのもす~。燃える石とシャケくらいしか目玉がないもす、ぶっちゃけだけに。……」
目をまんまるく見開いて期待いっぱい見つめてくる。
俺を見つめたかと思うと、アセウスを見つめたり、おめめらんらんの満面の笑みをせわしなく向けてくる。
何待ち? ねぇ、ヤクモくん、何待ち?
ぶっちゃけとシャケがダジャレってますとか
笑い待ちぢゃないよね?
いや、笑う奴いねぇだろこんなの。いくら待たれても俺は笑えねぇ。
俺が戸惑っていると、ヤクモ少年の表情が瞬で変わった。
俺とアセウスに向ける目が、価値のないものを見るような冷たい半目になった。
情緒……だいじょぶか?
「……お隣さんは逆にすっごい町だったのもす~。港があって交易で栄えてわっさわっさっすわ、人も物も豊かにそりゃあ溢れてたのもすっ。自然にも恵まれてて食物には困らないし、文化も進んでて、学問も盛んだったのもすよ~」
「え? そこを侵略しちゃったわけ? そんなすごい町を?」
「そうなのもすっ! 世界で一番の町だろうって、誰もが思う町だったのもすよ~。領主様はとってもお人柄の良い方で、何もかもがぴかぴか一番の町なのに、武力の類いはまるでなかったそうもす~」
「そんな町が……《冷たい青布》は?」
真面目な声でアセウスが聞く。
ヤクモ、アセウス、俺の順に歩いているので、俺にはアセウスの表情はわからない。
「もちろん、いたもすっ。でも、必要最低限だったみたいなのしょ~、コングスベルの侵略の前では何の妨げにもならなかったとか~」
「で、どうなったよ?」
俺の問いにヤクモは立ち止まり、俺達の方へ数歩足を戻した。
深刻な顔を寄せ、声を潜める。
「『神の牧草地』と呼ばれ愛された町は消えたのもすっ。コングスベルに取り込まれ、領主様一族は行方知れずでもすっ」
「まじか……」
アセウスは言葉も出ないらしい。
まぁ、そうだろな。
なんだかんだこの世界の、
というか、アセウスやエルドフィンの周りの世界の人間達は平和だ。
人間同士でそんな血生臭いこと――――。
普通は引くだろ、俺もばり引いてる。
「他人のものを奪うために人間同士で戦うなんて、時代遅れ過ぎて誰も彼もが理解しがたいのもしょ~。人間達の敵はもう長いこと魔物だけだったもすからねっ。形は残っていても、人間が人間を支配なんてものは風化してるのもすっ。だから、多くの人間が侵略を目撃したのに、誰一人として語ろうとする者はいないのもすっ。まだ一世代も経っていない最近の話もすよっ」
ヤクモは大きな身振り手振りの末に拳を握り締めた。
もう声の大きさも戻っていて、熱く演説する政治家みたいだよ。
正義感があふれちゃう奴なの?
建前を頑張る奴なの?
どっちも俺はお近づきになりたくない奴もすなぁーっ。
俺は「多くの人間」って奴の方だ。
見ざる聞かざる言わざる。
やらかしはなかったことにするのが鉄板。
そこはこの世界も同じらしいな。
ヤクモがいなかったら知らずに訪ねてた訳だ。
知れて良かったのか。
知らない方が良かったのか。
「『神の牧草地』の恩恵で、そこそこの町は急速に潤ってどぅわんどぅわんっすわっ。沈黙した目撃者達の精一杯の皮肉だったんでしょね~。町はそれまでとは違う名で呼ばれ、それがそのまま現在の町の名になったのもすっ、『王の町』と」
エルドフィンの記憶を探す限り、この世界には王様っつーのはいない。
領主様による地方分権だ。
しょっぱなから王様きどりが相手かよ。
俺は黙ったままのアセウスの背中に、心の中でそう呟いた。
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【冒険を共にするにゃはキャラ】
ヤクモ
【冒険を共にするイケメン】
戦乙女ゴンドゥルの形代でエイケン家の神の血継承者 アセウス
【冒険の協力者イケメン】
ローセンダールの魔術師 タクミ
ソルベルグ家当主 カルホフディ
【冒険のアイテム】
アセウスの魔剣
青い塊
黒い石の腕鎖(シグルの監視石付き)
イーヴル・コア(右手首に内蔵)
【冒険の目的地】
コングスベル
【冒険の協力者ヴァルキュリャ】
エイケン家 ゴンドゥル
ランドヴィーク家 通称ソグン
ソルベルグ家 通称シグル(ドリーヴァ)




