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28 完璧少年(スーパーボーイ)に敵はない

「あぁあー。俺は酔えない体質なのかなぁ。酒は飲むなってことかー」

 

 

 食事を終えたアセウスは残念そうに言葉を漏らした。

 

 

「別に酔わなくても美味けりゃ飲めばいいんじゃねぇ? 毎回酔うほど飲むもんでもねぇし」

 

「うーん、美味いは美味いけど、貴重なものを敢えて飲みたいってほどではないんだよなぁ。俺としては、もう酒はいいや」

 

「だが、あの効果は戦闘時に使える」

 

 

 ボソッとジトレフが呟いた。

 ドーピング薬として使うってことか。まぁ、効果があるならアリだよな。

 酔拳は立派な中国武術だし。(いや、中国武術は実際には飲まないけどね、知ってる? by 神の声)

 アリだけど、その言い方はさ、さっきタクミさんに啖呵切った手前言いづらいんだよなぁ?

 そうだろぉよぉっ! 興じねぇとか言っときながら、魅力感じてるって認めてんだからなっ!

 この考えなしがぁっ! 短慮野郎ぉっ!!

 大人なタクミさんに代わって俺が成敗してくれるわっっ。

 

 

「あ? なにモゾモゾ言ってんだ。キメぇんだよ」

 

 

 え? 辛辣過ぎ? むしろお前が成敗されろって?

 ジトレフ(こいつ)鈍感だからこれくらいで調度良いんだよ。

 見ろよ、きょとんとして、全然(こた)えてないぜ、きっと。

 

 

「エルドフィン、ジトレフにはアタリきついよなー。さすがにジトレフには対抗心か?」

 

「あ?!」

 

 

 アセウス(おまえ)がフォローに入るのは想定内だが、なんだそれは。

 ガン見する俺を、アセウスは気に留める様子もない。

 他人事(ひとごと)みたいにきょとんとしているジトレフに話しかけている。

 

 

「エルドフィンはさ、どんなに強い、凄いって人間(やつ)に会っても対抗心とか見せたことないから、ジトレフへの態度は新鮮で楽しい」

 

「そうなのかい?」

 

 

 いつの間にかタクミさんが戻って来ていた。

 よくぞ聞いてくれました、とでも言わんばかりの顔になるアセウス。

 

 

「どんな凄い相手(やつ)でも、必ず追い付いて勝つから。こいつ」

 

 

 相変わらず無表情で反応に乏しいジトレフよりは、そりゃあ相槌イケメンだろう。

 アセウスはタクミさんに向き直って嬉しそうに説明を始めた。

 まるで自衛隊基地で隊員と話す赤スーツみたいなテンションだ。

 それ以外は、同じ金髪でもまるで似たところが見つからないが。

 

 

「どんな相手(やつ)だろーが、エルドフィン(こいつ)にとっては、張り合う相手じゃなくて目標の一つ、踏み台に過ぎないんだよなー。身体が大きいとか、力が強いとか、普通なら絶対に埋められない差があっても、(はな)から(くら)べてないから挫けたり諦めたりしない。むしろ相手の凄いところには心底敬意を表すし。俺がこういう話をすると、いちいち人の行動バラすなって照れてはぐらかすけど、エルドフィンが持てるものと高められるものをただひたすら磨いて、磨いて磨いて、相手との間にある差を超えていくんだ、エルドフィンは」

 

「……いや、すごいね。それは」

 

 

 タクミさんが複雑な表情で俺を見た。

 お前ほんとにそんな完璧(スーパー)少年(ボーイ)だったのか、と同情してくれんのか。

 そうだ。

 アセウスの話は嘘じゃねぇ。エルドフィンはそーゆー奴だった。

 残念だが完璧(スーパー)少年(ボーイ)はジトレフ相手でも変わらなかったと思う。

 流石にジトレフを超えるのは無理なんじゃねぇかとか、心折れるんじゃねぇかとか思いはするけど、

 たぶんエルドフィンはジトレフを超えるまで努力し続けると、変な確信があった。

 だから、エルドフィンはジトレフに対抗心なんて抱かないわ。

 じゃあ、俺のこれ(・・・・)は……?

 

 

「アセウス、ちげぇぞ。これは対抗心なんかじゃねぇ。単なる性格の不一致だ」

 

 

 俺はキッパリ言い放った。

 そして、二日酔いの薬ってどんなのですか? とあからさまにタクミさんへと話題を変えた。

 俺のフリに、タクミさんは薬材を見せて説明してくれた。

 いつものはぐらかしだと思ったのか、アセウスは笑みを浮かべたまま薬材の話を聞いていた。

 そんなこんなで三人それぞれが薬材を口に入れた後、アセウスが改まって話を始めた。

 

 

「タクミさん、俺たちこれから、ヴァルキュリャ伝承に関わる一族を訪ねて回ることになった。それで、善意に甘える形になるけど、タクミさんの転移魔法にお世話になろうと思ってる」

 

「おーけーおーけーっ、遠慮なく言って」

 

「ここへのアクセスが便利で、町からもそう離れていなくて、人が余り立ち入らないところに滞在しようと思うんだけど、いい場所あるかな? 場合によっては魔物(モンスター)の襲撃を受けるかもしれないから、町には住めないんだ」

 

「そうだなぁ、ここから西の断崖沿いなら人はほとんど居ないけれど、ローセンダールの町へはここより遠くなる。アセウスの希望とは違うと思うな」

 

「いや、そんなことはないよ。何日か探索して拠点を決めよう」

 

 

 同意を求めて視線を投げてくるアセウスに俺は頷いた。

 その様子を見ていたタクミさんが口を開いた。

 

 

「俺から提案があるんだけど、ここを拠点にしないか?」

 

「タクミさん?」

 

「既に十分な広さがあるし、住居や生活に必要なものを揃える必要がない。出掛けるときも、わざわざ(うち)へ来る手間が省けるし、何より俺が嬉しい。一番良い案だと思うんだが」

 

「そう言って貰えるのは嬉しいけど、いつ魔物(モンスター)の襲撃を受けるか分からないんだ。タクミさんを危険にはさらせないよ。子どもたちや家族がいるのに、タクミさんに何かあったら取り返しがつかない」 

 

「おいおい、舐めて貰っちゃ困るなぁ。家族ができたからって俺の本質(・・)は変わっちゃいないぞ。他人(ひと)のために命の危険なんて買ったりはしない」

 

「なら――」

 

魔物(モンスター)が来たら、お前らと一緒に(・・・・・・・)俺の知る限りの最果ての地に飛ばして(・・・・)やるよ」

 

 

 タクミさんはニッコリ笑った。けどいつもと違った。

 

 

「中途半端に近くに居られるより安全だ、そう思わないか?」

 

 

 顔は真顔で、目も笑ってない。

 魔術師。

 その目で射ぬいて傀儡(くぐつ)のように従わせる気でいる。

 

 

「……反論するなよ。しても提案を条件に変えるだけだ。俺の転移魔法(ちから)頼りなんだろ?」

 

 

 タクミさんは顎を上げて目を細めた。

 圧倒的な余裕を見せ付ける。

 こーゆーのほんっと腹黒い。

 タラシモードの時と別人かと思うわ。

 

 正直、探索したり仮屋を建てたりが怠い俺は大歓迎だった。

 俺、完璧にタクミさんに懐柔されてるし。

 この腹黒モードもポーズで善意からなのはバレバレだし。良い人だょなぁ。

 こんな上司がいたら、前世の俺、会社もそうダルくはなくてここに来て(・・・・・)いなかったかな……。

 アセウスが頷かなかったら、俺が考え直させるつもりだった。

 でも、その必要はなさそうだ。

 黙ってしまったアセウスに、タクミさんはにっこりと微笑んだ。今度のはいつものやつだ。

 

 

「何て言うんだっけ?」

 

「……分かった、そうさせて貰う。ありがとう、タクミさん」 

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