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10 オージンの書

「……箱、ですね」

 

「中に何も入っていない、ただの木箱だよな」

 

 

 机の上に置かれた手のひらサイズの小さな木箱。

 それを慎重に開けたホフディは顔を曇らせ、目で訴えかけられたアセウスが、ホフディへの同意を言葉に表した。

 それは蓋開閉式の箱で、俺の側からは良くは見えない。

 ホフディが手にとって入念に調べた後、手渡されたアセウスも同様に、箱をひっくり返したりしながら隅々を確認していた。

 

 

「中身、空っぽなのか? どこかに持ってかれちまったってこと?」

 

「そんなことは……この部屋は代々の当主が管理していますし、書にもそのような記載は……」

 

 

 ホフディは取り返しのつかない過ちをしたかのような面持ちで、覚え書きに今一度目を走らせる。

 

 

「なかったよな。分かってるよ、ホフディ。持ち出されたとしたら、何かそれなりの事情があるはずだ。お前がそんな風に(・・・・・)感じることじゃないよ。この部屋も、この部屋の中にあるものも、ソルベルグ家当主のものだから、動かすことだってあるだろう。俺らは、善意で見せて貰ってるだけなんだし」

 

「……すみません。一番、核心に近付けそうな()だったのに。こちらでも、調べてみます」

 

「謝るなって。でも、確かに期待度の高いお宝(・・)ではあったよな。書かれてる順番としても、その次の盾のレベルからいっても。もし、何か分かったら、また教えて貰えるか?」

 

「もちろんです!」

 

 

 ……美しい(・・・)関係だな。

 微笑み合う二人を見て、俺はそんなシャレにもならないようなことを思っていた。

 後から考えるとガラでもねぇし、爆死しそうなほど恥ずかしくなるケド。

 前話でコンプレックス発動して、一人でバトってたからかもな。

 漫画で見るみたいな、でも前世では一度たりとも見たことのないものだと思った。

 この世界は前世よりは澄んでいるのかもしれない。

 

 

「ホフディ、いろいろ良くしてくれてありがとう。ここで出来ることは一通りやり終えたと思うから、今日明日にでも発とうと思うんだけど」

 

 

 俺が木箱を手に観察していると、アセウスが言った。

 俺たちはまた椅子に座り、何とはなしに時間を潰していた。

 

 

「そうですね。では、また宴を催して送り出したいと思いますので、出発は明日にして頂けませんか?」

 

「そんな気を遣わないでって言いたいとこだけど、そうさせて貰うよ。ありがとう。アクセル達には昼食の時に話そうと思う」

 

「分かりました」

 

 

 木箱は金具を使わない木組技法を使っているようだった。

 細工が外観からは分からないから、指物(さしもの)の技術が使われているんだろうか?

 箱根の秘密箱みたいに隠し部屋があるんじゃないかと探してみたのだが、見つからない。

 

 えぇ?! そこは前世で箱根細工にハマってて、自分でも作っちゃうようなマニアだったってぼっちにお似合いの設定が出てきて、見事に開けてみせてエルドフィンすげぇぞ! おおおって展開(とこ)じゃねぇのかって?!

 ねぇよっ! 普通のぼっちで悪かったな!!

 幾何とかCADとか、は? て感じだ。エクセルだって、マクロ? 数式?

 表作って満足してるネ申エクセルユーザーだよ!!

 なんだ使えねぇなって言ったか、おいっ

 そんなレベルでも正社員で仕事やってけるんだよ、前世の日本ってお国はよぉ!

 そーゆーお前はどんな関数使えるって言うんだ?!

 言ってみろよぉぉ!

 

 

「しかし、案じてたのとは違い、魔物の襲撃はありませんでしたね」

 

「そうだな、ありがたい誤算だけど。覚悟の上とはいっても、正直親しい人に迷惑をかけるのはキツい」

 

 

 眉をしかめるアセウスに、あぁ、ホフディ(こいつ)こういうこと(・・・・・・)が言える相手だったんだ、と少し驚いて、安心もした。

 それならそれで、増える選択肢があるよな。

 俺は目を木箱に向けたまま、何気無さを装って口を開く。

 

 

「あれから……6日経つのか? あの襲撃が何かの間違いで、意外と神の子の一生は平和なのかも知れねぇなぁ。計画変えてみる? 俺は、ベルゲン(ここ)に定住して様子を見るんでも別にいいけど。ホフディも親父さん達も歓迎してくれるみたいだし、なぁ? リップサービスって訳じゃねぇんだろ?」

 

「もちろんですっっ!! 様子見でも、そのままずっとということになっても、姉上も喜びますし、私だってっっ」

 

 

 ホフディが声を高くして、かーわいい反応を見せる。

 こういうところは中学三年生っぽい。

 パタパタ尻尾が見えんぞ。

 俺はそんなホフディに笑顔で頷きながら、アセウスを見やった。

 

 

「いや、変更はしない。俺は、進むって決めたんだ」

 

 

 あらら、そうですか。

 全く、面倒臭い幼馴染みさんですこと。

 

 

「明日ここを出発してからは、ローセンダールを拠点にワルキューレ一族を訪問して回る。魔物の襲撃がないなら、ないうちに全てを手に入れておかないと。タクミさんの転移魔法も頼りだし、時間に追われて神経質になるつもりはないけど、無闇にのんびりすることもなくしたい。エルドフィンはそのつもりでよろしく」

 

「イエスマイろーどっ」

 

 

 半ガチモードで返しやがって。

 分かってるよ、もー。

 

 

「ということで、ホフディ、あの帯を俺に貸して貰えるだろうか?」

 

「もとよりそのつもりです。後半の四つは交流の記念品のようなもので、美術的価値しかないと思われますが……」

 

 

 ホフディが言葉を詰まらせる。

 あらら、また顔を曇らせちゃってら。

 あれか? 一つ目のあれか? それとも二つ目の方か??

 

 

「……ホフディ、無理をしようとしなくていい。友好を永く続けるためには、適度な距離感ってのが大事だと思う。踏み寄り過ぎても、かえって(ひず)みが生まれたりするだけだ」

 

「……回る順番は決まっているのですか?」

 

「あぁ。タクミさんのお陰で位置関係を考慮しなくて済むからね、ワルキューレに選ばれた順に回っていこうと思う。一番目と三番目は飛ばすから、二番目から四番目、五番目って感じかな」

 

「……一ヵ所あたり、最低二日は欲しいな」

 

 

 木箱の音を確かめながら俺は口を挟む。

 出来ればヴァルキュリャ達にも接触して、協力を取りつけたい。

 そういや、6日もいたのに、ソルベルグ家のヴァルキュリャは見かけもしてないな。

 

 

「そうだね。歓迎されようとされなかろうと、最低二日はその地に滞在することにしよう」

 

「なぁ、ソルベルグ家のワルキューレさん、えっと、シグなんちゃらって」

 

「「シグルドリーヴァ」」

 

「あぁ、シグルドリーヴァ、さん。どんな人なの? 分かってること、知りたい、なぁ、なんとなく?」

 

 

 木箱の匂いを嗅いだりしつつ、これまた何気なさを装いながら言ってみる。

 シグルドリーヴァってのも、多分本名じゃなくて通り名なんだろ?

 昼飯の後、ソグンを呼び出して、接触出来ないか聞いてみるか。

 

 

「そうですね……整理のされていない、思いつくままにはなりますが、お話ししましょう。我らが『輝ける乙女』について」


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