9 七つの宝
「ソルベルグ家に伝わる神話伝承に、シグルドリーヴァの英雄譚があるんです」
懐かしそうな目を伏し目がちに、ホフディはシグルドリーヴァの盾を撫でる。
「読んできた書物に出てきてたっけ? エルドフィン記憶ある?」
「シグルドリーヴァ、自体初耳的な」
「伝承といっても、そういうものではありません。当主だけではなくソルベルグ家の子どもなら皆が一度は知るような、おとぎ話のようなものです。当然、語り手によって内容は少しずつ違っていて、祖先シグルドリーヴァの姿の描写だったり、戦う敵の設定であったり、登場人物のセリフであったり、戦いの後の結末であったり、様々なものが語られています」
「……書物に書かれていることとは違って、作り事が多いってことか?」
「私は……事実を元に膨らました架空の創作物だと思っていました」
ホフディが聞かされた物語には、シグルドリーヴァが戦闘場面で使った魔法が決め台詞のように出てきたんだとさ。神オージンから賜った、何ものをも打ち負かす最強の盾を操る魔法だ。子どもだったホフディも、何度もその場面を聞くたびに、一緒になって魔法を叫んでいたという。
昔話に語られた盾が目の前に現れて、もしやあの魔法も、と呟いてしまったって。
気持ち分かるなぁー。
少年の多くが一度は「かめはめ波」って叫んでやってみたことあるんじゃね? 俺はある!
まだ出せたことはないけど。
ホフディの記憶には盾を使う時の魔法しかないらしい。
まぁそりゃそうだろ、後片付けまでいちいち細かに説明してる英雄譚なんて、カッコ悪過ぎて需要ないわ。
そもそも、解除の魔法なんてのがあるのかも不明だし。
変身シーンは美麗アニメーションで分を刻む魔法少女だって、変身解除シーンはあっても一瞬で、セリフすらねぇもんなー。
神の力を発現してしまった『ヴァルキュリャの盾』は、結局、普通に脱ぎ着できそうっつーことで、とりあえず外して置いておくことになった。アセウスを取り囲んでる大きな輪っかは、実体がないのか触れなかったけど。
アセウスが兜を脱いで机の上へ置いたら、兜も鎧も輪っかも全部消えて、最初の状態のただの盾に戻った。
脱げば解除されるのかもっつー想定が生まれて、内心皆ホッとしてたな。
それから、ホフディの疑問により、盾を持つ人間と、魔法を唱える人間とを変えて何度か試してみたりもした。
結果はさぁ……
どう言うのが分かりやすいかなぁ。
アセウスとホフディのことは、守る。
アセウスの言うことなら、聞く。
これで伝わるかなぁ。
ぐぬぬぬぬぬ……
「三つ目、『ヴァルキュリャ十一家を繋ぐ帯』」
俺の複雑な感情なんてお構いなしに、宝探しは続けられる。
「帯かぁ、十一枚あるってことかなぁ。布や紐っぽいものはこっちにはないけど、そっちどぉ? エルドフィン」
「う゛ぅーん……こっちにも、帯っぽいものは……あ、これかなぁ?」
俺は大きめの木箱を持ち上げて、机の上へ載せる。
覗き込みながら近寄る二人の前で、積もった埃を散らさないようにそっと上蓋を開け、邪魔にならなそうな後ろの棚へ置いた。
アセウスが、折り畳まれた箱の中身を広げながら取り出す。
黒色の、粗く織られた布。その縁一辺が銀色で太く帯みたいになっている。
「これは毛皮だ。すごい毛足、なんの毛皮だろう」
帯の部分を目に寄せてそう言うと、アセウスは手を下ろし、布から離した。
俺は、机の上へ広げるように置かれた帯部分に目を凝らす。
白銀の美しい毛並みと微かな斑点紋様が見えた。
帯の中央に一列、白い飾りが並んで縫い付けられている。
「リンクスですね! これは上等だ……帯になんて、随分贅沢だな」
リンクス? って、えーっとヤマネコだっけ?
見ると、ホフディが子どもみたいに目を輝かせていた。
そういや、こいつも毛皮の肩当てしょってたよな。
お前も好きなんだろ? 毛皮!
見比べると、獣の種類が違うようだが、帯の方が艶と厚みが勝っているように見える。
「多分、これで間違いなさそうですね。数えてみてください、十一個あります」
ホフディが指で触れている白い飾りを数えてみると、確かに十一個ある。
十一個ってことは、この飾りがヴァルキュリャ一族の十一家を表してるってことか?
「なるほどね。これはエイケン家を示す象徴記号だよ」
アセウスが一番端の白い飾りを指でなぞりながら笑った。
アセウスの視線を受け止めるように、ホフディも笑みを浮かべる。
「反対側の端から二つ目がソルベルグ家です。説明にはこう書かれています。『ヴァルキュリャの十一家、それぞれの地へ離散すれどもその絆を遺せり。神から賜りし信頼はまさに他家への信頼と為さん。共に軍勢の父オージンに選ばれしものとして、一つの輪を築く。誓いとしてこれを作り、証としてこれを示せ。』これはぜひ、お持ちになっていただきたいものが出てきましたね」
「助かるよ、ホフディ。本当に」
幼馴染み二人がニヤニヤ笑いあっている!
いやぁ! 微笑ましいじゃんね!
いいもんが見つかったみたいで良かったな!
1勝1敗1引き分け!
宝探し、すっげぇ楽しい!
さぁさぁ、次行こうじゃんね!!
四つ目は「ヨルダール家の織物」。
俺の後ろの棚に丸められてあった。2勝1敗1引き分け。
勝ったぁ! また勝ったじゃんね!
絨毯みたいな大判サイズいっぱいに、美しい花と幾何学の模様が描かれていた。
五つ目は「コルスモ家の留め飾り」。
これも俺の後ろの棚の上の方に、皮の袋に入れて置いてあった。3勝1敗1引き分け。
うおぉぉぉ! 気合い全開じゃんねー!
青銅の土台にビーズやらなにやらが飾られた豪華なブローチだった。
六つ目は「グリンデ家の短剣」。
アセウスの横の棚に置いてあったっぽい。3勝2敗1引き分け。
まぁ、俺は雑兵だよな、アセウスやホフディみたいな特別設定はない。
一緒にいるからって、一緒だって思うバカになるのだけは嫌だ。
バカはバカでも……、そう。
最後までわかんねぇのがシャ……、ショ、勝負はまだまだここからだ!
装飾品とも実用品とも決めかねるような絶妙な美しさの短剣が、これまた精巧に造られた革の鞘に入っていた。
携行する用の革ベルトも付いていて、どこをとってもカッコいいじゃんね!
七つ目は「エイケン家の留め飾り」。
アセウスの方のどっかの棚にあった。3勝3敗1引き分け。
俺は絶対に諦めない! 勝ったって負けたって最後は笑顔になれるのが……!!
アニメや漫画っていいよな。
誰かの作り出した幻のクセに、その言葉が、存在が、弱った時に力をくれたりする。
あぁーっ俺ーっ余計なこと考えてんぢゃねぇよっっ
転生したんだ、与えられたキャラになりきってさ、役目を果たせばいいんだよっ
この留め飾りはアセウスのじいちゃん、つまり、先代「アセウス」がソルベルグ家に贈ったと、アセウスも聞いて知っているものだった。ただ、アセウスのやつ、実物を見るのは初めてだからと、えらく感動していた。
俺も見た時、ちょっと、おおっと思ったもんな。
金色の金具に深い青の宝石と、銀色の金具に燃えるような赤の宝石の、一対の留め飾りだ。
先代がこの贈り物に込めた意図は、エイケン家とソルベルグ家を知る者なら一目瞭然だろう。
アセウスのじいちゃん、やるじゃんね!?
ホフディも、年相応の嬉しそうな表情で見惚れていた。
留め飾りがしまわれていた木箱は、螺鈿と寄木の細工で美しく飾られていて、なかなかの工芸品だった。アセウスが言うには、箱の話は聞いたことがないらしく、エイケン家からの贈り物ではないようだ。
物品についての覚え書きにも記載が見つからないので、留め飾りを収納するためにソルベルグ家が用意したものなのかもしれないな。
「書かれていることは、この七つで全てです」
ホフディはそう言いながら、物品についての覚え書きを俺達にも見えるように机の上に広げた。
文字は読めないけれど、七つの塊を作って書かれているのは明らかだった。
「……てことは、この部屋の中でまだ調べていないもの……」
アセウスは見落としがないか部屋の中をじっくりと見回した。
俺はその視線の先を追いかけて、同じようにゆっくりと追いかけて、たどり着く。
4勝3敗1引き分け、俺の勝ちだ。
でももう、そんなこたぁーどーでもいい。
「最後に残ったこれが、一つ目で分からなかった『オージンの書』?」
俺は後ろの棚にポツンと残ったそれを、アセウスとホフディの顔色を窺いながら、机の上へ移す。
俺の心の問いに右手が勝手に答えてくれている。
普遍の時を超えるもの、「望むものの軌跡」が記されている書。
秘められし知恵、大いなる魔術。
これが「オージンの書」であるならば……!!
「オレはバカだし、あいつらほど強くもない。
でも、好きなものを守りたいって気持ちは、誰にも負けてないじゃんね!」
シャドウバースの進藤カズキ、カッコいいですよね(uωu*)




