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6 巻き毛なる一族

ベルゲン(ここ)を発ったら、ワルキューレの一族を訪ねて回るんですか?」

 

「そのつもり、なぁ、エルドフィン」

 

「他に手がかりないしな。だから、なかなかの有益な情報だったぜ」

 

 

 書物調べに一区切りをつけて、俺たちはホフディの後に続いて廊下を歩いていた。

 開かずの部屋の書物には、ソルベルグ家当主年代記の他に、ワルキューレ一族年代記もあった。

 当主年代記に比べてざっくりな近況の記述だったけど、0から始まる俺らの予備知識としては、十分必要な情報が記されていたのだ。

 もち、俺は(・・)ソグンからある程度の情報を仕入れていて、重なるものも多かった。

 けど、アセウスに伝える方法がなかったんだ。

 ソグンのことは内緒にしているから。

 今回ワルキューレ一族の年代記を読んだことで、ソグンからの情報をアセウスに共有することも出来るようになった、この点がかなり大きい。

 

 え? どーゆうことかって?

 わかんねぇ?

 ワルキューレ一族の年代記を見つけた俺らは、書かれてる情報を覚えていこうぜってなった。

 試験前の勉強会みたいに、三人で暗記作業に取り組んだ。ホフディが教師役で。

 それなりには覚えたと思うけど、普通は100%なんて無理だろ?

 そう! ソグンからの情報を、年代記からの情報だって言って紛れ込ますことが出来るってわけ!

 

 俺はもちろん、暗記してるフリをしながら、メモ帳に全部メモしていた。

 最初は机の下で起動していたけど、メモを投影しなくても操作出来ることが分かってからは非表示でメモした。

 アンダーグラウンドでメモするためには、意識操作に集中力を使う。

 思考を上手く分離しないと、余計な情報までメモしちまうからな。

 二日酔いも大分軽くなった、ソルベルグ家当主年代記の後だったからミッションクリア出来たんだと思う。

 逆だったら、まず無理だったろ。

 昨日のビール飲み放題といい、俺、鬼がかってんじゃね?

 

 

「ジトレフには連絡させてるので、このまま夕食に直行でいいですよね」

 

「ここだろ?」

 

 

 俺が見覚えのある一角を顎で指し示すと、ホフディが笑って頷いた。

 ダンジョン系マッピングは結構得意なんだ。

 

 

「あぁー昨日の夜を思い出す! 楽しかったなぁ、さんざんもてなしてくれちゃってさ、なぁ、ホフディ」

 

「そう言っていただけると、私も嬉しいです」

 

「俺は思い出したくないんですけど。なんだかまた頭痛くなってきたような」

 

「何でだよ。頭痛いのは今日だろ? 昨夜はエルドフィンも楽しそうだったぜー?」

 

「あっのなぁー」

 

 

 軽口を叩きながら広間に入った時だった。

 

 

「ビョルドル!」

 

 

 赤い巻き毛の美人が目の前に現れたかと思うと、アセウスに抱きついた。

 そのままアセウスの顔を見上げながら、大きな瞳をキラキラと輝かせる。

 

 

「会いたかった! あぁ、信じられない。想像以上なんだけど。こんなに背が大きくなって、身体も逞しくなって……なのに変わらない、輝く光(ビョルドル)

 

 

 透けるように白い肌、鍛えられて筋肉が覗く身体に付いた、豊満な胸と……

 おっと、エロい目をしてしまった。

 俺は慌ててアセウスに目を移す。

 アセウスのやつ、顔を赤くして及び腰になってるけど、目線顔より少し低くないか。

 気持ちは分かるがあんまり分かりやすいと引かれるぞ。

 その距離だと本人からは、顔を見てるか胸をみてるかなんて一目瞭然だぞ。

 

 

「うふふ。お気に召した?」

 

 

 美人は嬉しそうにはにかむと、自分の胸をすり寄せるように、アセウスを抱き締めた。

 ぬぅわんだそれっっ?!

 と俺が思うより早いか、ホフディが鮮やかな手付きで美人とアセウスを引き剥がしていた。

 

 

「姉さん! はしたないことは止めてください。八年前とは違うのですよ」

 

「ちょっと! 邪魔をしないでよ。八年前から成長してないのはホフディじゃない。私の前に立ち塞がったりしちゃって、どうせ私にビョルドルを取られたくなくてヤキモチ焼いてるだけなんでしょ」

 

「姉さんっっ、バカなことを言ってないで大人しく席についてください。皆さんお揃いなんですよ! 困っているじゃありませんか」

 

 

 ホフディの言葉に周囲を見回すと、ほんとだ、ホフディの両親も、家族らしい男女も、普通のお兄さんバージョンジトレフも、この状況をもてあまし気味に立っていた。

 なんだか、いろいろツッコミどころはありそうだけど、この勝負はホフディの勝ちのようだ。

 俺は昨日と同じ席に進むと勝手に座った。

 

 

「アセウス、とりあえず座っとけよ」

 

「あ、あぁ。ホフディも、ありがとう。えっと、ローサ……だよな? 話はまた、後でゆっくり」

 

 

 ホフディに無理矢理親族席へと引っ張られていた美人は、アセウスの言葉と照れ笑いにまた嬉しそうに笑顔を輝かせた。

 いやぁ、我が娘ながら情熱的ですまぬなぁっはっはっは! とカーラクセル、ホフディの父親が豪快に笑って、この華麗なる一族前座は手打ちとなったようだった。 

 皆が席についたのを見計らい、ジトレフが俺の右隣に腰を下ろした。

 そういや、昨夜酔い潰れた俺を部屋まで運んでくれたのはジトレフだって話なんだよな。

 あれから初めて顔を合わす訳だし、一応礼を言っといた方がいいだろか。

 全然覚えてないけど。見事に何にも覚えてないけど。

 様子を見がてらジトレフに目をやると、ばちり、と目があった。

 

 ビビるわっっ。

 またかよっ!

 

 速攻顔を背けた俺は、やっぱりいいや、と無視することにした。

 気を遣うなら、こっち(・・・)より、あっち(・・・)だよな。

 テーブルの向かい側には、左端のホフディの母親に続いて、20代に見える男、さっきの美人、20代とおぼしき女、そっくり同じ顔がもう一人、と座っている。

 俺の真向かいに座るのが、アセウスにローサと呼ばれた、ホフディの「姉さん」だ。

 燃えるような巻き毛と目尻の上がった大きな猫目がキラキラ輝く、色白の美人だ。

 …………………………………

 ………………

 ほほう、なるほど。

 そっち(・・・)はそっちで、こっち(・・・)はガン無視なのね……。

 色白の美人は、正面に座る俺のことなど微塵も視界に入っていないかのように、その麗しい瞳を、俺の左隣に向けていた。

 まんざらでもない顔をして、時折彼女の方へ照れ笑いを返す、俺の幼馴染みに。

 ……おまえは いった……い な……にもの……

 ウボァー

 

 

 

 

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