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新章プロローグ Prologue of Asseus

 一面闇だった。

 無ってことなんだろうか。

 俺も闇の一部になって、かろうじてそこに存在していた。

 けれど、このまま溶けて自分(・・)は消えてしまうのかもしれない。

 そんな気がしていた。

 闇の向こうに、うっすら映像が見える。

 森だ、フィヨルドの森。

 そこにいる、ハイリザードマンと、エルドフィン。

 そうか……これが死か。

 ごめん、エルドフィン。最後の最期まで、巻き込んでしまった。

 

 そう思った時、声なき声が響いた。

 穏やかだけど、自分の中から、身体を震わせて響いてくるような声。

 俺、身体があったんだっけ。

 

『罪の子よ』

 

『汝が祈りは(まこと)か』

 

『罪の運命(さだめ)と向き合い、清算すると汝の祈りが聞こえた。その覚悟に偽りはないか』

 

(あぁ、それか……)

 

 波のように、生まれては押し寄せる声に答える。 

 

「分かりません」

 

 身体は感じないのに、自分の声が音で聞こえた。

 声が出せる、ということは、考えただけでは伝わらないのか。

 

『……』

 

「ごめんなさい……昨日は確かに、そう祈りました。……でも、私にはその覚悟があるのか、本当にそうしたいのかすら、分かりません。いつだって、きちんと考えて、自分を見つめて、本心を探して、最善の判断をしてきたつもりなんです。正しい選択をしてきたつもりだった。でも、違うんです」

 

 微かに感じる「身体」があった名残の中から、重苦しい枷が解かれて消えていく感覚がした。

 矛盾している、変な話だ。

 だが、心地好かった。

 

「時間が経って振り返れば、自分本位で、未熟で、全然自分のことも分かっていなくて、誤った判断ばかりだった。だからもう、自分の判断に自信が持てません……。自分自身すら分かってないのに、何をすべきかなんて、分からないんです。こんな出来損ないの癖に、自分以外の何かを背負おうなんて、おこがましいにも程があるんだ」

 

(あぁ、これは懺悔の時間なのかもしれない。世界は意外と優しいね。そして、(わら)えるくらい激甘だ)

 

『……人の子よ。見失うなかれ。過去の自分が未熟であって何がおかしい? 森羅万象刻刻と変わり行く、人もまた然り。過去の自分が未熟に見えることは、成長の証でもあろう。卑屈に感じることではない。真実とは一つではない……それ故判断や選択に正解というものもない。あるとしたら、……自身が信じたという事実のみ。それで良いのではないか?』

 

 (だから、それ(・・)がっっ! )

 

『改めて問う。汝の望みは何か、罪の運命(さだめ)と向き合う意志はあるか』

 

「……分かりませんっ。私の今の望みは、一つです。とてつもないエゴです! そのためなら、運命(さだめ)と向き合うことも、無視することもどっちだって選ぶ!」

 

 (俺にとって(・・・・・)大事なもの、それは……)

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「アセウス様」

 

 

 野太い男の声に呼ばれてアセウスは目を覚ました。

 ジトレフの部屋から戻った後、横になったベッドで眠っていたらしい。

 すっきりした頭を撫で上げながら、部屋のドアを開けて外へ出ると、いかつい男が恭しく頭を下げて立っていた。

 

 

「晩餐の用意が出来たそうです。どうぞ、こちらへ。広間までご案内します」

 

「ありがとうございます。エルドフィンとジトレフは」

 

「これから、お部屋へお迎えに……」

 

 

 二人がそう話しているその時、隣の部屋のドアが開き、甲冑を脱いだジトレフが姿を現した。

 

 

「ジトレフ、夕食だって」

 

「聞こえていた」

 

 

 いつも通りの無表情&バリトンボイスのジトレフに、アセウスは微笑む。

 

 

「エルドフィンもこう(・・)だと良いんだけどな。呼んでみて貰えますか? ダメそうなら俺が部屋に入りますから」

 

 

 アセウスから頼まれたスニィオは、ドアの前まで進みエルドフィンに声をかける。

 何度か呼ぶが、部屋の中から反応はない。

 ダメです、と伝えようと顔を横へ向けたスニィオは、目の前に来ていたアセウスに後ずさり道をあけた。

 

 

「エルドフィン、開けるよ」

 

 

 大きな声で宣言してから、ドアを開けて中へと入っていく。

 書斎机に突っ伏しているエルドフィンの姿が、アセウスの目に入った。

 

 

「爆睡してるのかー? エルドフィン(おまえ)。ベッドにも寝ないで、こんな書斎机(つくえ)なんかで」

 

 

 書斎机まで歩み寄ると、エルドフィンの顔を覗き込みながら声をかける。

 

 

「エルドフィン、……エルドフィン、おーい、エルドフィン、起きろ」

 

 呼び掛けに反応がみられた。

 エルドフィンの身体がわずかに揺れ動いた。

 聞こえたな、とエルドフィンに顔を近づけたアセウスは、もう一つのことに気づく。

 エルドフィンの寝顔は、穏やかなものではなかった。

 長年のつきあいだから分かる、わずかな違い(あらわれ)

 

 

「こんなとこで寝るからだよ、うなされたんじゃねーの? エルドフィンっ!」

 

 

 ハッとエルドフィンの目が開き、ゆっくりアセウスを見上げるように動いた。

 その様子を見守るアセウスもゆっくり微笑みを浮かべる。

 

 

「そんなまぢ寝したら夜眠れなくなるぞー? ほら、起きろよ。行こうぜ」

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