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    ベルゲンの赤い輝き③


「エイケン家に伝わる、『罪の責務』のことは知っているよな。

 もう何百年も前から伝えられている、伝承というか、一族の掟。

 エイケン家の一族には、必ず一名、神への『罪の贄』となる者が存在する。贄がその生命を落とす時、必ず新しい贄が産まれる。

 贄には外見上の特徴があって、親や親族に関係なく、俺みたいな髪と瞳と容貌で産まれる。

 だから、同じ名が付けられる……《Asseus》、意味するものは『債務、義務、税、負債』……。


 遥か昔神話の時代、ワルキューレ伝承でも有名な人間対魔物の戦争に、エイケン家は有力な豪族の一つとして参加していた。その時、人間を代表して神から祝福を与えられた。その証に神器である魔剣を授かった。

 同時に人間の罪も負わせられた。


 その祝福と罪を担いし者が贄だ。

 彼らは魔剣に守られて、神の意志に反して殺めることは出来ない。永遠にエイケン家を特別な一族足らしめる。

 贄はエイケン家の当主となり、血筋に関わらず贄の父親がその中継ぎを務める掟になっている。

 そして……贄はもちろん、中継ぎの父親も含めて、エイケン家の当主は一切の戦闘やそれを連想させることに関わってはならない。あらゆる争いに関わる意思がないことを、神に対して示すためだとか。

 なんだか胡散臭い理由だが、お陰で当主の家系は公然と遊興人になれた。一族の穀潰し、まさに『負債』だ。

 その特権をめぐって、一族内で謀略や奸計が横行したという。エイケン家やセウダの町が廃れたのは、過去の当主達のせいだという非難も耳にしたことがある。

 そうして、ただ粛々と、『罪の責務』だけが受け継がれてきた。


 俺も、初めは当主として、その責務を全うしようと思ってたよ。

 次の《Asseus》が産まれるまで、『罪の責務』であり続け、エイケン家の掟を守ろうと。

 でも、気づいたんだ。

 当主としてその責務を全うして、誰が喜ぶんだろうって。

 誰が幸せになる?

 幼さ故の浅慮だったとは思うけれど、俺は剣を持った、こうして《冷たい(グズル)青布(ブラール)》になったけれど、掟を破って何が起こった?

 ……本来なら兄上と伯父上が当主を継ぐはずだった。

 父上が当主になって何が違った? 伯父上や兄上との間に確執を生んだだけだ。

 なら、本来に戻して兄上が当主を継げばいい。


 俺なりに考えたんだ。それで、一つの結論を出した。

 エイケン家の掟は信憑性が薄い。

 (それ)を守るだけの当主の責務には疑問が拭えなかった。

 確かなことは、《Asseus(おれ)》という存在と魔剣。

 神から背負わされた罪の贄という責務だ。


 だから、俺はそっちの責務を全うすることに決めた。

 一族には迷惑をかけられないから、家を出ると決めた。

 出来れば罪の責務を俺で終わりにしたいと思った。

 それが無理でも、出来る限り長く、長く俺が生きることで、エイケン家を罪の責務から解放したい。何百年という時間の中では、ほんの束の間かも知れないけれど……」



 アセウスは語り終えると、組んだり、ほどいたりを繰り返していた手を伏し目がちに眺めた。



「共感してくれとは言わない。でも、逃げたかったわけじゃないんだ。家を捨てたつもりもない。俺は、俺なりにこの責務と戦おうと決めた。そのためにも、知りたいんだ、現存する限りの伝承のすべてを」



 薄暗い部屋を照らす松明の灯りは、ゆらゆらと揺れる。

 照らされた二人の顔も、火炎に合わせて揺らいでいた。

 全てが揺れる虚影の中に、二人の視線だけが揺るがず真っ直ぐ存在した。

 カルホフディとアセウスは、強く輝く瞳で見つめあっていた。



「……分かりました。お話ししましょう」



 先に動いたのはカルホフディだった。

 仕方ない、といった風に目を伏せ首を振った。

 かすかに口の端が上がったようにも見えた。

 ほっとしたのか、アセウスは上体を起こし、背もたれに寄りかかる。



「ありがとう、ホフディ!」


「いいえ。伝えるのはソルベルグ家の本来の役割ですから」



 カルホフディは空いているアセウスの隣の椅子に座った。

 身長差から、覗き込むようにアセウスに顔を向ける。



「あ、待って。話してくれるなら、あいつも一緒に。一緒に来た内の一人にも聞いて欲しいんだ。エルドフィンっていう、えーっとー、親しみやすい? 方」


「エルドフィンですか? ジトレフではなくて?」


「うん。あれ? ホフディにあいつらの紹介してたっけ?」


「転移の連絡を受けた時に、名前と大まかな素性はタクミから聞いています。ローセンダールで話がありませんでしたか?」


「あぁ、そう言えばそうだった。他の話で盛り上がったから、すっかり忘れてた。それより、なんでジトレフ? 一緒に旅をしてるのはエルドフィンの方なんだけど」


「御存知なかったんですか? かの戦争に参加していた人間の有力豪族、ワルキューレの一族と呼ばれていましたが……ランドヴィーク家はその一つです」


「ふぁっっ?! じゃあ、ジトレフは、俺やホフディと同じに、その末裔ってことなのか? だって、あいつ、そんなこと全然……っっ」


「オッダのランドヴィーク家は早くから我々との関わりを断っています。伝承を拒み、神話との関わりを忘れたい一族もいるようですから、ジトレフは知らないのかもしれません。どうしますか? エルドフィンだけを呼びますか? それとも二人とも呼びますか?」


「エルドフィンだけ、に聞かせようと思う。ジトレフを巻き込むつもりはないから。カルホフディが、ソルベルグ家の役割として聞かせたいって言うなら、呼ぶのは全然構わないけど」


「……悪く取らないで頂きたいのですが、今一度確認します。これからお話しする伝承は、神に関わることです。エイケン家の……アセウスに課せられた密事たる『罪』にも関わることです。ワルキューレの一族であれば、知る必要があるかもしれませんが……エルドフィンは完全なる(・・・・)部外者(・・・)です。色々な意味で大きなリスクを伴います。考えは変わりませんか?」



 色々な意味での大きなリスク。

 アセウスも考えなかった訳ではない。

 だから今まで、

 オッダで襲撃されて《Asseus(せきむ)》の出自を探ろうとなった後も、

 話していないことが幾つもある。

 「お前には隠し事が出来ない」、なんて言いながら、今までのアセウスは隠し事だらけだった。



「ありがとう。ホフディ」



 アセウスが見せた表情があまりに清々しくて

 カルホフディは思わず目を瞬かせた。



「良いんだ、あいつは部外者じゃない、俺がそう決めたから」


「……分かりました。では、呼んでこさせましょう」



 カルホフディは軽やかな身のこなしで椅子から立ち上がると、護衛の男が控えている扉の外へと駆けていった。






―――――――――――――――――――

【冒険を共にするイケメン】

 戦乙女ゴンドゥルの形代 アセウス

 戦乙女ゴンドゥルの虜 ジトレフ

【冒険の協力者イケメン】

 ローセンダールの魔術師 タクミ

 ソルベルグ家当主 カルホフディ

【冒険のアイテム】

 アセウスの魔剣

 青い塊

 黒い石の腕鎖(ブレスレット)

【冒険の目的地】

 ベルゲン(現在地)


いよいよ隠された事柄が明らかに……エルドフィンはこの世界に優位に立てるのか?

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