最強魔法の代償②
フィヨルドの森でハイリザードマンと戦ってから
いろんなことが起こり過ぎじゃね?
あの日を含めてまだ3日しか経っていないんだぜ。
密度濃過ぎだろ……
泊まる部屋へと廊下を歩きながら、
俺はこの3日間の出来事を思い出していた。
なにより「ハート」の掻き乱され具合が半端ない。
ぼっちじゃない日常ってこんな騒がしいのかよ。
ジェットコースターみたいで身が持たねぇっ!
嬉しい悩みってやつなんだろう。
むずがゆい感じを身体全体で味わいながら、
俺が泊まる部屋に戻ると、ドアに内側から閂をかける。
一瞬ドキッとする。
スレンダーな美少女がベッドに座ってこっちを見てるからだ。
もーっほんとにっっ
俺は歯磨きがわりの枝を口に咥えると、
ベッドに近付いて声をかける。
「横になりたいのでいいですか? 話はそれからで」
「構いません。どうぞ」
彼女がふわっとベッドの上に浮いて避けた。
俺はベッドに横になると枝を噛んで歯を磨きながら
大事な「お話タイム」を再開する。
ジトレフにパナケアをトントンしている間、少し話した。
ワルキューレについて。彼女は「ソグン」と名乗った。
神話はだいたいその通りだった。
「さっきの復習……、確認からいいですか? オージンが人間を創った。人間社会が形成された。けど、オージンと同じ巨人族ヨトゥンは人間を滅ぼそうとした。ヨトゥンの人間狩りは魔物による人間狩りに変わって、オージンは魔物と戦う人間に力を貸すことにした。それに選ばれた人間があなたたち、ヴァルキュリャだと」
「その通りです。私たちはオージンの娘ではありません。元はただの無力な人間でした。戦神オージンの力を一代限りで授けられた戦士。ヴァルキュリャは私を含め、……十一人います」
「十一人いる!」
「? それが何か」
「いや、古典名作へのリスペクトで少し……。いっぺんに十一人選ばれたのではなくて、戦いの経過に応じて徐々に選ばれていったんですよね?」
「そうです。初めは一人だけ、輝かしい存在でした。人間の憧れ、美しく崇高な存在。同じ立場になった時は自分自身が信じられない程でした……今でも、同格の存在であるとは思ってはいませんが」
そう言ってはにかむ彼女は夢見る少女のようで、幼く、親しみ深く見えた。
可愛い。好き。ぐはっ
オージンの力は「血」によって授けられたらしい。
どうやって「血」を授けるのか、詳しいことは知らないと言っていた。
オージンの力を一代限りとするために、処女が選ばれた。
男は簡単に子が作れるから、という理由らしいから、「血」はそのままの血なのだろう。
神の力を得る引き換えに、戦うだけでその生を終えることを課せられた少女たち。
だから「オージンの娘」ではなく「オージンの乙女」なんだとか。
平和で自由恋愛で陽キャはお盛んな前世から来た俺には……可哀相に思える。
「……あ、あのぉ……」
はにかんだままの彼女が不安げに声をかけた。
やべっ妄想モードでガン見しちってたっっ
実際に目の前にいるんだよなっ(実体はないけど)
キモ男とバレないように気をつけないと……っっ
「えっとっいや、やっぱり似てるなぁと思って、ソグンは六人目のヴァルキュリャで、ジトレフのご先祖様なんですよね」
俺は心にもない嘘で誤魔化した。何百年も経ってれば似てない方が当たり前だろうと思う。
性別も違うし。
まぁ、真顔の時の切れ長の目は少し似てるかなって思うけど。
魔物と戦ってた時は半人半神で肉体があったらしい。
今は実体のない半神の状態でヴァルホルに居るという。
特にやることもないから、たまに子孫の様子を見守りに来るんだと言っていた。
ジトレフは一族の中でもデキの良い子らしくて、大事にしてるんだってさ。
さっきはここまで聞いたところでジトレフが意識を取り戻した。
「はい。ランドヴィーク家からヴァルキュリャになったのは私だけなので、選んでくれた一族への感謝を示すためにも、こうして見守りに来るのです」
「エイケン家からもヴァルキュリャがいるんですか?」
俺は聞きたかった本題に切り込んだ。
「はい。今度は、貴方の知っていることを話してください。貴方はエイケン家やヴァルキュリャの何を知っているのですか?」
「俺は……ゴンドゥルっていうヴァルキュリャと契約したんだ。アセウス・エイケンっていう幼馴染みを守る約束で。ゴンドゥルはエイケン家から選ばれたヴァルキュリャなんじゃないかって思ってる」
「Fríðr……」
「え?」
「いえ、そうだったのですね……。貴方からエイケン家由来のヴァルキュリャの加護を感じます。ゴンドゥルとはいつから契約したのですか? ゴンドゥルの姿を見たのもその時ですか?」
「えぇと……二日前の夜。最初は光みたいなもやもやした形でしか見えてなくて……あ、そっか、契約したから姿を見れるようになったのかも!」
ゴンドゥルの、オージンの力と繋がったから、ソグンも見えるようになった。
説得力あるな。良い感じだ。次は……
「契約の内容は、教えて貰えますか?」
「……ソグンのこと、信用するから教える。でも、他言はしないで欲しいし、信用した上で話してるってことはちゃんと理解してください」
「はい、分かりました」
彼女はにっこり微笑んだ。
可愛い。最強。信用しないでかっっ
「さっき言った通り、アセウスっていうエイケン家の跡継ぎを死なせないように守ること。その代わりに俺はゴンドゥルを呼べるし、ゴンドゥルの桁外れの魔力を使えるっていう契約です。今までそんなこと全然なかったんですけど、ゴンドゥルが現れた時、魔物がアセウスを拉致りに来たんです。だからたぶん、ゴンドゥルは近くにいた俺と契約したんじゃないかと思います。アセウスが……エイケン家の子孫が狙われる理由は分かりますか?」
「『災い』……」
「え?! 災い?!」
「あ! えぇ、魔物が一人の人間を拉致しに来るなんて、随分な災いじゃありませんか。ゴンドゥルが呼べるとのことですが、今呼んで貰えたりしますか?」
「それは出来ません。いろいろ条件があって、アセウスに危険がある時くらいしか呼べないんです」
まぁ。ちょっと嘘ではあるが、結果的には嘘ってほどでもないだろ。
たった数分話せるくらいのために、
トロル20体以上なんて、そうそう相手にしたくない……。
「なるほど……。だからこそ、貴方は私から多くのことを聞き出す必要があったということですね」
機嫌を損ねるかと思っていたが、ソグンは意外にも笑顔になった。
これはもう、俺への敵意や悪意はなくなったんじゃねーか?
(ちょいちょい嘘ついてる俺だけど!)
所詮ぼっち厭世のやり直し、ゴリ押しできるチート力もない。
なろう小説みたいに、次々人間関係構築出来るとは思ってなかったけど
なんか思いの外上手く行ってる気がしなくもない!
(人間じゃねぇけどな! 半神関係かw!! オウ オウオウ オウオウ!)
「申し訳ないのですが、魔物がアセウス・エイケンを拉致しようとした理由は分かりません。ヴァルキュリャが生まれてから今までずっと、魔物が特定の人間を認識するということ自体、聞いたことがないのです。きっとゴンドゥルはこの異常な事態に、人間との契約という禁じ手を選んだのでしょう」
「……『禁じ手』?」
「はい。お話した通り、密酒を守る者オージンはヴァルキュリャ以外がその力を使うことを認めていません。どういう方法で可能にしたのか分かりませんが、ゴンドゥルは貴方という人間にその力を使えるよう、契約を成したのでしょう? 正直芳しいものではありません」
「!!」
「そう怯えないでください。私は貴方の信用には足る者です。むしろ十分に答えることが出来る、とこれから話すことで分かるでしょう」
オージンにとって芳しくない人間、そう言われて、俺は青ざめて身体を硬直させていた。
さっきのトラウマだ。俺は魔物よりオージンを恐れるようになっている。
ソグンはそんな俺に優しく微笑むと、少しベッド近くに降りて来て、言葉を続けた。
「まず一つ、貴方も気を付けていたようですが、ゴンドゥルとの契約のことは今後誰にも他言しない方が良いでしょう。信頼出来る者でも、例えヴァルキュリャでもです。理由はもう分かっていますね。その契約を受け入れる者は誰一人居ないと思った方が賢明です」
「力も使わねぇ方が良いんですよね、出来るだけ。元はオージンの力なんだろうし、俺が使ってたら分かるんじゃないですか?」
「力を使えば分かります……でも、あくまでゴンドゥルの力として分かるだけなので、そこまで心配しなくても良いでしょう。もしゴンドゥルと離れた場所でとか、同時に別の場所で使うことがあるのだとしたら、それは止めた方が良いと思います」
「なるほど……」
「そしてもう一つ、相手が誰でも…という訳ではありませんが、私たちは名に力があり、名に支配されます。貴方が知るゴンドゥルと言う名は彼女を縛ります。その名も、今後は口にしないと約束してください」
「ま?! そうなの?!」
「はい」
「じゃあ……ソグンは……」
「通り名です。私たちはいくつも通り名を持っていますから。オージンの力を授けられていますし、真の名は決して教えられるものではありません」
「ゴンドゥル……なんで俺なんかにそんな……」
俺はことの重大さに困惑した。
そんな危険を冒してまで、俺と契約する必要があったのか。
アセウスを魔物から守るために?!
「ヴァルキュリャは魔物と戦うことは出来ないのか? 俺と契約しなければアセウスを救えなかったってことか?」
「いえ……魔物であれば、私たちは直接滅ぼすことができます。その問いであれば、貴方と契約する必要はありません。ゴンドゥル自身の力によって、魔物を倒し、エイケン家の子を救うことが出来たはずです」
「なんなんだよ……」
俺は無意識に両腕を上げて顔を覆う。
またしても「ハート」がズキズキしてきた。
こういうの無理だ、俺。
やっぱり、俺には無理なんだよ……っ
何故か目が潤んできていた。
なんだよっこんなことで俺、泣くのか?!
ヘタレ過ぎんだろ
世界全部から逃げたいって思った俺の視界に
サラサラ……と黒い輝きが流れてきた。
何かと反射的に腕をずらして目を開くと
黒髪の天使が俺を見つめていた。
ドクンッ ドクンッ ドクンッ
動機がうるさい。
全身が振動してるみたいだ。
慈愛に満ちた微笑みに目を奪われる。
「ゴンドゥルの考えは私には分かりません。でも、貴方と契約したその覚悟は分かってあげてください。最後の……ヴァルキュリャの末妹で、皆から可愛がられ、フリヅィーと呼ばれていました。貴方もそう呼んで貰えたら良いかと思います」
何故だろう、すごく安心して、眠くなってくる。
ソグンには癒しの魔力でもあるんだろうか……
「あの青い石はいつどこで?」
「……二日前……アセウスが、狙われる……前……フィヨルドのもり……」
「森で見つけたのですか?」
「ちが……倒し……ハイりざ……まん……から……」
俺はそのまま眠りの闇に落ちたらしい。
翌朝目が覚めた時、ソグンの姿はなかった。
代わりに、俺の右腕には見たこともない黒い石で出来た細い鎖が着けられていた。
うっすら残る記憶の中で、彼女が言っていた。あれが夢でないという証だ。
『聞きたいことがあれば、この腕鎖に唱えてください。《エルドフィン ブナ ランドヴィーク》と』
《ランドヴィークに祈るエルドフィン》か……
あどけないのか、全部お見通しなのか……
すっきりしない気持ちを整理しながら、俺は朝食の待つ食堂へと向かったのだった。
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【獲得したアイテム】
黒い石の腕鎖 1個
【冒険を共にするイケメン】
戦乙女ゴンドゥルの形代 アセウス
戦乙女ゴンドゥルの虜 ジトレフ
【冒険のアイテム】
アセウスの魔剣
青い塊
【冒険の目的地】
ベルゲン
フリヅィー:(Fríðr/古ノルド語の愛された、素敵な、美しい)から派生してつけられた愛称
親愛表現である「Sweetie」と同じような感じでつけてます。




