81 モヤモヤの正体
「これは……」
アセウスの言葉だけが虚しく山中に溶けていった。
俺は「へっ?」という口の形になったが、驚き過ぎて声が出ていなかった。
滝から少し進んだところで、商人四人組に再会した。
俺達のことを待っていたという、四人の区別はもはや俺にはつかなかった。
だが、全員が今にも土下座しそうな、思い詰めた表情をしていることには気がついた。
そうだ、あの時のモヤモヤ感。
あの表情が示していたのは、強い悔いと謝罪の苦しさだったんだ。
理由はこれかっっっ!!
四人の前に居る小さな生き物。
ヘルメットみたいな甲羅、その下から伸びるトカゲみたいな手足、トゲトゲの鱗が愛嬌のある尻尾。
長いツノが目立つ小さな頭部は、甲羅と似た硬い鱗に覆われていて、つぶらな瞳がこっちを見上げている。
「すみませんっっ、本当にすみませんっっ!! なんでこんなことになったのか、確かに、人間の子どもだったんです。皆この目で見て……」
「皆さんの協力のお陰でヒポグリフがいなくなったあの時です。少女が一瞬でこの生き物に変わっていて……」
「オーレも、ペールも、何がなんだか分からなかったそうです。でも、考えている暇もないと、計画通り連れてきました。くるんだ布を広げたら、あの時見えた少女が現れることを願って。でも、そうはならなかったようです」
「ドリアスピスの陸種でしょうか? 誰も傷付くことなく無事で良かった」
それはほんとにそう思う。
命懸けの救出作戦の目的がこれって、死んでも死にきれない。
どこをどうみたら少女なんだよ。
俺が見た時もこれだったぞ。
チラとだったから、アセウスに相談しようと思ってタイミングを失ったやつだ。
どーなってんだ?
「ドリアスピスっていう生き物なんですか? 俺達は見たことも聞いたこともないのですが……ジトレフは知ってる?」
「いや」
「今はめったに見られない生き物ですから、ご存じないのも自然でしょう。昔は海にいたようですが、何故かフルショーエンの湖に生き残っている、消え行く種族です。湖では生息しづらいのか、手足が生えた陸種がいつ頃からか生まれて、ウラ川の渓谷に棲家があります」
「貴重な生き物なんですね。仲間からはぐれたんだろうか? スヴェインさん、その棲家の場所は分かりますか?」
「はい、一度見に行ったことがあるのでご案内できます。ロンダネへの通り道ですから、大した遠回りにはなりません」
「俺としては、棲家に帰してあげたらいいんじゃと思うんだけど、どうでしょうか?」
アセウスが四人を見回して意向を窺う。
四人は顔を見合わせてから、申し訳無さそうな顔で次々に頷いていた。
「一応……、希少生物なので、高く売れますが、同じ湖で育ったフルショーエンの民としては、命を奪うのは忍びない。そうしていただけるとありがたいです。でも、良いのですか? あんな危険な目にあって……」
「トロンさん、それはもう終わった話です。助け出したのも、……あー、助けたのかな? そこも分からないけど、何かの縁です。売って金に変えようなんて思わないよなぁ、エルドフィン? ジトレフも、だろ?」
アセウスが爽やかに笑った。
あー、またトロン達の目が英雄を見る目になっている。
これはあれか?
この妙ちくりんな生き物もアセウスに懐くパターンか?
ファンタジーだとあるあるだけど、どーよ? ほら、命の恩人様だぞ?
俺はなげやりにその生き物を観察した。
アセウスが笑顔のまましゃがみこむ。
おろ?
アルマジロみたいなそいつは、予想に反してジリジリと後ずさる。
おろ? おろ?
尻尾を身体の下に折り込んで、手の届かぬ辺りまで後ずさると、つぶらな瞳でふるふるとアセウスを見上げた。
「……怖がらせちゃったかな?」
「へぇ~、とことん珍しいやつだな。お前、見る目ないぞ」
「見ろよエルドフィン、身体をまるめてまんまる! ボールになりそうだっ、ぷふっ」
「お、聞いたか? びびって正解っぽいぞ。お前を蹴って楽しもうか考えてるらしい、鬼だなぁ~」
「考えてねーよっ。あんまり脅かすなよ、可哀想だ。見慣れてくると結構可愛い」
アセウスは立ち上がると、俺と生き物から離れ、スヴェインとやらに出発を促した。
さすがアセウスだよなぁ、完璧に四人を覚えたらしい。
「さ、行きましょう。こっちだ、キミも来るんだよ」
男の一人が生き物を誘導する。
人懐っこいのか、甲羅のそいつはチッタチタと皆と同じ方向へ歩いていく。
が、ピタリッと立ち止まると小さな頭部を回して振り返った。
「どーした? ほら、そのまま進もう」
男がいくら促しても、ピタリと止まったまま動かない。
甲羅越しに伸ばされた頭も、剥製のように動かない。
「え゛っっ? 何?」
つぶらな瞳がじっと俺を見ている。
「……もしかして、エルドフィンさんを待っているのか? エルドフィンさん、こちらへ来ていただけますか?」
「あ、あぁ」
俺が恐る恐る歩を進めると、その生き物はパッと動き出した。
チッタチッタと皆について林の中を軽やかに進む。
そしてまた、ピタリと立ち止まると最後尾にいる俺を振り返る。
(あ、俺の後ろにジトレフがいたわ。まいっか、最後尾で)
「どうやら、気に入られたようですね! エルドフィンさんが進まないと、あの子も動かないようです」
この光景は覚えがあった。
近所の飼い犬が、散歩中に飼い主にとっていた態度だ。
俺は犬に吠えられることは多かったが、こんな風に懐かれたことはない。
じっっと向けられるつぶらな瞳を信じられない気持ちで見る。
お前、めちゃめちゃ見る目ないぞっっ
―――――――――――――――――――
【ロンダーネへの道案内】
フルショーエンの商人 トロン
商人仲間 スヴェイン、オーレ、ペール
【冒険を共にする生き物】
ヒポグリフに囲まれていた妙ちくりんな甲羅の生き物(ドリアスピスの陸種? )
【冒険を共にするイケメン】
戦乙女ゴンドゥルの形代でエイケン家の神の血継承者 アセウス
オッダ部隊第二分隊長でランドヴィーク家の剣士 ジトレフ
【冒険の協力者イケメン】
? ヨルダール家当主 ガンバトル
ローセンダールの魔術師 タクミ
ソルベルグ家当主 カルホフディ
【冒険のアイテム】
アセウスの魔剣
青い塊
黒い石の腕鎖(シグルの監視石付き)
イーヴル・コア(右手首に内蔵)
ヴァルキュリャ十一家を繋ぐ帯ベルト
【冒険の目的地】
ロンダーネ
【冒険の協力者ヴァルキュリャ】
エイケン家 ゴンドゥル
ランドヴィーク家 通称ソグン
ソルベルグ家 通称シグル(ドリーヴァ)
✕(ヨルダール家 通称ゲイロルル)




