77 救出作戦
「よし、じゃあ最終確認をしましょう」
トロンと同じような格好の男が作戦部隊の顔を見回した。
完っ全に、区別つかんわっ。
いや、顔が違うのは分かるけどな。
判別できんわ。(覚える気がないとも言う)
「ペールと私で対象にゆっくり近付き、直近まで行ったらジトレフさんが対象を魔法で飛ばす。その隙に私達で少女を確保、そのままここまで戻ってくる。これが作戦の前半」
ペールと呼ばれた、これまた同じような格好をした男は、凛々しい表情で深く頷いた。
対照的に、死んだ目のジトレフは冷めた表情をピクリともさせない。
「近付く最中に対象が動いたら計画を前倒し、ジトレフさんが魔法で飛ばしフォローに入る。私達は少女の確保を強行、アセウスさんとエルドフィンさんはジトレフさんの支援に回って対象の動きを防ぎ止める」
「はい、お二人は全力で救出にあたってください。三体は私達が必ず引き留めます」
真摯に頷くアセウスに、男の頬が少し緩む。
だがすぐに元に戻った。
「不確実性が高いのは後半だ。ペールと私は少女とともにこの岩壁の後ろに隠れて待機、対象が追って来たら、トロンとスヴェインが林の奥の地点から私達のフリをして崖上へと逃げる。あそこの上り坂だけ木が密集していて岩崖との幅が狭くなっているから、あの巨体では追尾は難しいだろう。対象が追うのを諦めてどこかへいなくなってくれれば作戦は成功だ」
再び緊張で強張った顔が、作戦への不安を物語っていた。
作戦っつーか、ほぼザルだもんな。
一度、目にしてしまえば、あれから逃げおおせる方法なんてあるとは思えない。
それが、今度は三体だ。
他の三人も、アセウスも、同じように顔を強張らせている。
……絶望の中の淡い希望にしがみついて、恐怖という弱さと必死で戦ってるんだろうな。
多分、ジトレフ以外は。
「もし、作戦通りに行かず、対象に追われたり、襲われたりした場合は、全力で逃げる。ここを離れる、目標はロンダネ方向だ。町で落ち合おう。……アセウスさん達は、申し訳ないけれど……」
旅商人四人は揃って苦しげに目を伏せた。
現世は善人率が高いのか?
それとも、この世界は転生した先の実在する世界じゃなくて、死んだ俺の夢とか、漫画の中とか、実在しない世界なのか?
アセウスの主人公補正といわれれば、納得できるな。
俺の知ってる人間は、少し前に知り合ったばかりの赤の他人の生死にこんな風に心を動かさない。
「皆さんを無事に逃がすために、私達が全力でヒポグリフを食い止めます。何をしても。だからそんなに気に病まないでください。私達は《冷たい青布》です、市民を守り盾になるのは当然の務めなんですから」
アセウスが屈託なく笑って見せた。
まぁ、その通りなのだ。
はぐれ《冷たい青布》自体が珍しいから、通りすがりのスーパーヒーローみたいな流れだが、俺達に限らず《冷たい青布》とはそういうものだ。
別に珍しいことを言ってはいない。
武器を持った殺人鬼の前に自衛隊員や警察官が立ち塞がって助けてくれても、その人の人格を尊いとか素晴らしいとかは思わないんだよな。
けど、普通の人が同じことをしたら、間違いなくその人の人格評価ははね上がる。
それだけの錯覚なんだけど、四人はアセウスを英雄でも見るような目で見つめていた。
これも主人公補正か、なんて傍観している自分は幼馴染み補正か。
ちょっと笑ってしまう。
ん?
なんとはなしにジトレフに目をやると、またバチリッと目が合ってしまった!!
このや――っ
「あっ……すまないっ」
はぁあああ゛っっ?!?!
今回はジトレフが先に目を逸らした。
ぇえ゛っ?! 何? 今の!
す、すまないって何?!
前に見んなって言われたから?!
見ないつもりでいたのに見てたからってこと?!
無意識で見ちゃったって詫び?!
しかも何? 詫び入れたらもう済んだ、みたいにしれっとよそ見てんだけど。
アセウスと四人を眺めて、何か考えてます、みたいな真面目な顔してんだけど。
意味わかんねぇっっ!
なんで見られてたんだろうとか、普通に理由が気になる俺の立場とか、どっちもスルーですか?!
あーっっ! なんかイライラしてきたっ!!
ジトレフちょっと小学校から入り直してきた方がいいんじゃねぇのっ?!
あ゛ーっっっっ!! 小学校ねぇのかっっ、現世っっ
小学校で勉強してねぇーのかっ!
そりゃぁ、仕方ねぇっ!
仕方ねぇのか?! 仕方ねぇーよなっ! 仕方ねぇーんだっっ
「作戦が失敗に終わったとしても、無事町に辿り着けたら、必ず再会しましょう」
「わっ、忘れないでくださいねっっ、トロンですっっ。トロンにオーレにペールにスヴェインですっっ!」
似たような格好の男達が、熱のこもった感じでそれぞれ目線を向けてくる。
いや、判別つかねぇんだっつーに、念押しするなよ……。
覚えないと悪い雰囲気になるじゃん……。
右手首が「識別データが必要ですか?」と聞いてくるから、そーゆーことぢゃねぇんだょ……っと、ますます俺は自己嫌悪に襲われるのだった。




