74 特別な魔物
なぁんでここで出てくるかなぁ~。
こんな形で!
ヒポグリフ。
グリフィンに比べてその名に耳馴染みはないかもしれない。
上半身が鷲、下半身がライオンの伝説上の生物、グリフィンは知ってる人も多いだろう。
俺もすぐそっちを思い浮かべた。
グリフィンはいろんな神話や物語に登場する。
時には神性を持ち、時には怪物とされ、人々に畏怖された。
あ、死ぬ前の世界の話な。
ヒポグリフはグリフィンとその捕食対象である馬のメスとの間に生まれるとされる伝説の生き物だ。
俺は覚えてなかったが、前世の有名ファンタジー映画にも登場していたらしい。
グリフィンとの違いは、馬が交ざってるか否かだけだから、目視での判別は難しい。
といっても、転生後の世界ではグリフィンもヒポグリフもイーヴル・アイと負けず劣らずの伝説級。
見たという話は残れども、実在するかは不明。
名前や姿と特別とされる理由をいくら知っていても、まずお目にかかることはねぇっつーやつなんだけど。
「先程『守り神』とおっしゃっていましたか?」
アセウスが男に確かめようとしている。
「あ、えぇっ。貴殿方はロンダネの方ではないのですね?! オーネ家はヒポグリフの守護を受けているという話です。あっ、オーネ家というのは代々ロンダネを統べる領主の一族で、ロンダネもヒポグリフの加護の下にあるというのは地元の者の間では暗黙の了解ですっ」
表情を曇らせたアセウスと目が合った。
最悪じゃねぇか。
一番良くないカードを引いたって感じだ。
え? さっきから言ってる意味がよく分からねぇって?
ダイジョブダイジョブ! これから全部説明するから、まぁ聞けや。
現世では、ヒポグリフは魔山から送り込まれた魔物の一種族であるとされるのな。
だが、人間を滅ぼすための存在にも関わらず、姿を表すこともなく、滅多なことでは人間を襲わないという不思議な魔物なのだ。
目撃は山地に多く、逆に人間を助けたり、人里に立ち入らず見守るように出没したりといった逸話が残る。
そうした逸話と黄金を守るという伝承ゆえに、ヒポグリフは人々から神聖視されており、「守り神」と崇敬されることもある特別な魔物なのだ。
……と俺達は座学で教わった。
魔物だからといって安直に戦ってはならない。
事によっては傷付けてしまっただけであらぬトラブルに発展しかねないのだ。
座学の講師は戒めるように強調していた。
《冷たい青布》のその力は、人々を守るために使うべし、と厳しく規律されている。
絶対に間違えてはならないのだ、と。
「ヒポグリフを避けて進みましょう。私はアセウス、連れのエルドフィンとジトレフ。ローセンダールからロンダーネの町を目指して来たところです。あなたはどちらからどちらへ?」
これから訪ねようってゆーオーネ家の「守り神」と戦闘する訳にはいかねぇよな。
回避一択か。
幸いジトレフソナーもあるし、回避自体は不可能ではないが……。
そう考えた時だ、男の手がアセウスの服を激しく引き寄せた。
「あ゛ぁっ!! こうしている場合ではないっ! 私にも連れがいますっっ、助けてください!! ヒポグリフから少女を助けようとしてっ――――、きっと戻ってしまった!! やはり止めるべきだったっ、なんてことをっっ、ぁあぁっ―― ! 守り神は全部で三体もいたのですっ」
はぁっっ?! 三体?!
にわかには信じがたいが、アセウスに掴みかかった男は正気のようだった。
ちょっ、ちょっと待てや。
大分話が違うんじゃねぇか?!
「少女を助けようとしてってなんだよっ? 何もしてねぇんじゃないんですか?! あんたも分かるだっ――分かりますよね? ヒホグリフからっ、しかも三体から助けようって、何をしたんですか?! 何かしたんですよね?!」
俺の剣幕が激しかったのか、男の手をアセウスの衣服から離させようと伸ばした右手に、男は露骨に怯えて避けた。
あ゛? 正直気分良くねぇ。
アセウスが引っ張られてんだろぉが、離せやその手ぇっ!
「落ち着いてください、気を逸らせても事態は好転しません。何があったんですか?」
アセウスは優しい。
だから俺が。
「助けて欲しいんだろっ?! ならちゃんと全部話してくださいっっ」
更に右手を伸ばす。
いい加減、その手は離せってっ。
必要ねぇだろがぁっ!
俺の手が男の手に触れるか、って時だ。
また男の身体がすぅっと俺の手から離れた。
っの野郎っまた――っと思ったら、男の手はアセウスの衣服を解放していた。
あれ?
男の顔は怯えではなく戸惑いに満ちていた。
戸惑いの表情で、自分の後ろの、背の高い無表情な男を見上げている。
何故後ろから両肩をがっちりと掴まれたのか、表情に答えを求めるかのように。
「話は移動しながら聞こう。私が先頭を行く。時間を無駄には出来ない、案内していただけないか」
ジトレフは男の両肩を掴んだ手で、押し出すように男を促した。
最強の低音ボイス。
従わない者などいない。




