73 守り神
ザザザザザザザッ
木々を押しのけて大きな生き物が姿を現わした。
2mはあろうかという翼が大きく羽ばたく。
ブワァァッッッ!!
吹き飛ばされそうな風圧に俺はとっさに顔を背けた。
俺達の頭上、低い位置をそれは高速度で滑空して行く。
鷲の頭と翼、ライオンの前足と体、馬の尾と後ろ足。
グリフィン?!?!
視覚が捉えた姿は、前世でファンタジー小説に登場していた神獣グリフィンに似ていた。
見上げる俺をグリフィンの目が見下ろすように射抜く。
見た?! 今、俺を見たか?! こいつ!!
バクバクバクバクッと激しい動悸が身体を襲う。
獣や鳥に知性がないとは言わない。
だが、その優位性を自覚して対峙するってとこはあると思う。
少年漫画じゃねぇんだし、すべてが自分より上の相手に立ち向かうなんて、そーそー出来る奴いなくねぇ?
だが、俺の目は、俺を見下ろすグリフィンの目に、人間と同等もしくはそれ以上の知性を見ていた。
「たっっ助けてくれぇっ!!」
俺が戦意を喪失しかけていたその時、悲鳴のような叫びが辺りに響いた。
転げるように一人の男が林の中から姿を現していた。
アセウスが駆け寄り、倒れ込んだ男に手を貸している。
「わ、私達は何もしていないんだっ! 子どもを助けようとしただけでっ。お願いしますっ、お、お願いしますっっ。まだ死にたくないっっ! 助けてくださいっっ!!」
「落ち着いてください。私達は《冷たい青布》です。あなたの命をお守りすべく全力を尽くします」
アセウスがそつのない応対で返すのが聞こえる。
林の中、遥か空中へと浮上していったグリフィンを見上げながら、俺も二人の方へ駆け寄った。
「どうする? 三人で倒せるか? あれ、グリフィン?」
「ヒポグリフ! だと思うっっ。本当にいるなんて……初めて見るからっ、分からないけどっ」
アセウスがあからさまに動揺している。
「ヒポグリフですっっ! 蹄を見ましたっ、どうして守り神が……っ、私達は本当に何もしていないのですっっ」
林の中から現れた男は、俺とアセウスにしがみつくようにして叫んだ。
防寒着をしっかりと着込んで、旅慣れた格好をしている。
年の頃は20代後半くらいだろうか。
醸し出ている裕福さと教養、清潔な印象から、商人かその類いだろうと思った。
とはいえ成人男性にしがみつかれても困るだけだ。
落ち着かせようと世話を焼くアセウスに男を押し付けて、俺はジトレフの様子を伺った。
ジトレフは甲冑を荷物袋にしまい、俺達の方へ駆け寄って来るところだった。
「ここからは遠ざかっていった。当座は落ち着いて問題ないだろう。今後の行動を考える必要はあるが」
「あ! もしかしてジトレフ振動子か?」
「常に張り巡らすという訳にはいかないが」
ジトレフも慎重になるんだな、と変なところで気持ちが落ち着いた。
え? 何が慎重かって?
ヒポグリフに対してだ。
トナカイを瞬時に一刀両断したジトレフなら、さっきの低空飛行で片翼くらい斬り落とすだろう。
そう思わねぇ? 俺は思う。
だがジトレフはそうはしなかった。
空気を微細に振動させて周囲を探知するジトレフ振動子でヒポグリフの動きを把握しつつ、俺達と「今後の行動を考える」という。
それは、ヒポグリフが特別な魔物だからだ。




