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69 「綺麗」な理由

「なるほど、経緯は分かった。まずはアイドから説明をして貰うかな?」



 ほどなくして戻ってきたタクミさんは、お茶を飲みながらでもいいかな、と俺らをローテーブルへ促した。

 その時点でなんとなく、俺には結末が見えたような気がした。

 


「説明も何もねぇよ。あれは俺の副業だ。人の良さそうな持ってる奴らから少し恵んでいただく。トラブることもない訳じゃねぇから、身を守るために薬を使ってる。タクミも知ってるだろ。はぁぁあっっ(わざとらしいため息)。あっ、そちらの皆さん、タクミは知ってるんだよぉ~」



 皆の視線がタクミさんに集まる。

 まぁ、想定内だよな。

 折角整って生まれた綺麗な顔を、ニヤニヤ得意気に歪めるアイドも想定内だ。

 


「手癖が悪いのは俺が知り合った時からなんだ。()めるように勧めてはいるんだが、こいつの苦労も知ってるからなぁー。足を洗えるように、本業ではなるべく支援してるつもりなんだけどねぇ、まだ足りないか」


「足りるとか足りねぇーとか、仕事ってそーゆーもんじゃねぇーだろ? ……タクミがいっぱい仕事くれるから、最近は気が向いた時しかしてねぇよ」



 ドキュメンタリー番組で見た、非行少年や犯罪少年の更正保護事業を思い出してしまった。

 タクミさん、そんなことまでしてたのか。

 これは、俺達には何も出来ない流れだよな。

 殺すなんて論外だし、犯罪者として突き出すのも……。



「事前に説明しなかったのは結果として悪かったな。俺の見える範囲(ところ)でやったことはないし、念のため寝る時は俺の部屋で目を光らせとくつもりだったから、言わなくても問題は起こらないだろーと、まぁ、面倒から逃げたわけだ。さて、アセウス達の話を聞こうか。皆はアイドをどうしたい?」


「……」



 誰も言葉を発しない。

 いや、これ、無理だろーっ。

 俺はもーどーでも良くなったし。



「足りるとか、足りないとかじゃないって、どーゆうことですか? アイドさんは、なんで俺達から、エルドフィンから青い塊を盗ろうと思ったんですか」



 あぁ、そーいえば、そんな疑問を抱いたっけ?

 金も金目のものもあったのに、なんであんな得体の知れない塊をって。

 アセウスのまっすぐの視線を前に、アイドはこれみよがしにキョドってみせた。

 何度もタクミさんに目で助けを求めては、イケオジスマイルに負けてを繰り返す。



「……お前、仕事したことねぇーのかよっ」


「! ありますよ」



 ちーんっ

 可愛いゴングの鳴る音が聞こえた。

 厨ニ少年VS(バーサス)天使。

 しかし、この勝負はどうだろう。

 ……アセウス、お前、仕事したことあるって言えるのか?

 部隊入りを蹴って、そのまま放浪の旅だろ。

 どちらかといえば放蕩生活では。 

 それ以前に、物盗りを仕事というのはどーかとも思うが。

 

 

「それで説明しねぇーとわからねぇのかよっ」

 

「説明してください」

 

「説明してあげてよ、アイド」


「なんでだよっっ」


「そーゆー場なんだよ、今この時間は。そーそーある場じゃぁない、サービスしてやって」



 ちっっ!!

 盛大に舌打ちが聞こえた。

 アイドの顔芸も激しさを増してくる。

 折角の美形が勿体ない。



「お前は仕事やってて誇り(プライド)って生まれねぇーのかよっ! 普通生まれんだろっ。誇り(プライド)()だ、腕前だ。自分の審美眼と掠め盗る技術が腐っちゃいねぇか、確かめてなきゃ誇り(プライド)持てねぇだろーがっっ!」

 

「……腕試しだってゆーんですか」


「腕試しじゃねーよっ。本気の仕事だ。捕まっちまったけど」



 アイドはジトレフに向けて忌々しそうに舌打ちをした。

 うんうん、あれは忌々しかった。

 アセウスは黙ってしまったし、ついでなので聞いてみよう。



青い塊(あれ)は価値があるものなのか?」



 実は、アイドにずっと聞きたかったことだ。

 何度も邪魔が入ったけど。

 もしかしたら、アイドは何か知ってるかもしれない、なんて。



「お前話聞いてたのかよ? それを確かめるために盗ったんだろが。頭ん中までおぎょーぎ良くなっちまったのかぁ~」


「いっちいちうるせぇなぁーっ! 価値がありそーに思った理由があるんだろ、それを聞ぃてんだよっ。結局盗れてねぇ癖にっ。身内の男しかいねぇ場でイキられてもこっちが困るわ! 斜に構えてカッコつけてねぇーでポンポン答えろよっ」


 

 はっっ!!!!

 と気づいた時はもう遅いものだ。

 ふるふると震えながら赤面するアイドの表情に、自分が何をしてしまったのか気づかされる。


 しまった。

 顔芸につい、また釣られてしまった。

 言わんでいい本心が……。



「あっははははーっっ」



 盛大にタクミさんが笑い出す。

 続いて控え目にアセウスも笑い出す。

 陽キャとはなんでこーすぐに笑うのか。全く理解できねぇー。



「ぷははっくっはっはははっっアイドっっ、諦めろ、お前の負けだっははははっ。ちょっ、ちょっと、カッコつけすぎたなっっぷははははっ。ほんっと、エルドフィン面白いわっあはははっやべーっツボに入ったっははっ」


「か、かっこつけてなんかねーしっ。なんなんだよ、まぢこいつらっ」



 白い肌を桃色に染めて、アイドは頭を搔きながら伏せた。

 ふんわりした金髪だけがキラキラとこちらを向いている。

 ほんとは俺も結構恥ずかしかったが、俺以上に恥ずかしい奴がいると思うとダメージが緩和された。

 タクミさんの爆笑が収まりかけた頃、ぽそりとアイドが呟き始めた。



「……綺麗だったんだよ。多分今まで見た石の中で一番、綺麗なんじゃないかと思ったんだ」



 誰も想定してなかった答えだと思う。

 


「それは、俺も見てみたいなぁー」



 タクミさんの優しい声が響いた。

 アイドは突っ伏したままだし、

 タクミさんは笑い疲れたといった感じでお茶をすすっているけど、

 目を閉じたら、アイドの頭を優しく撫でているタクミさんが見えてくる。

 そんな声だった。



「そーゆー時は、言ってくれれば良いのに。見せるくらい、別に……なぁ、エルドフィン? ジトレフだって、咎めないよなぁ?」



 アセウスが気まずそうに問い掛ける。

 まぁ、そうなるわな。



「私は任務中だ。任務以外に優先されることはない。お二人が良いことに私が口を出す筋もない」



 予想通りの結末だったな。

 俺はアセウスの表情を見て、立ち上がった。

 ここ(・・)までは予想してなかったけど。

 だってまさか、換金目的じゃないとか思わねぇだろ。

 そんな子どもみたいな理由でなんて。

 俺は荷物袋からそれを取り出して戻ると、ふわふわキラキラ光る金髪の前に置いた。

 青い光が影を落として、海の中にアイドの黄金(きん)の髪が揺れているように見えた。



「好きなだけ見ろよ、綺麗だから。やんねぇけどな」


 

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